研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第8回 Part.3

第8回 食品のおいしさや健康効果を探る(3)
Part.3
野菜のポリフェノールは
調理では変化しない

実践女子大学
生活科学部 田島 眞研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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食への関心は年々高まる一方だ。とくに最近は、よりおいしく食べることや、食を通じての健康づくりなどが注目されている。では、学問の場では食について、どのような研究が行われているのだろうか。今回は、食品学の立場から食にかかわるテーマを研究している、実践女子大学生活科学部の田島眞教授(学部長)の研究室を訪ねた。(Part.3/全4回)

次に、野菜の研究について教えていただくことにした。この研究では、野菜に含まれるポリフェノールに焦点をあてている。

「ポリフェノールはほとんどの植物に含まれている成分で、血液中の活性酸素(酸素としての働きが活発になり酸化力が強くなったもの)を還元(酸化されたものを元に戻す)して血液をサラサラにするなど健康効果があるといわれています。

そのポリフェノールの研究でポイントの1つになったのは、調理によってポリフェノールの量がどう変わるか、ということでした。というのは、ポリフェノールと調理の関係については、いろいろなデータがあったのですが、非常にバラツキが多い。調理によって減るという説もあったし、増えるという説もありました。

そこで、調理による変化を調べたのですが、ポリフェノールは調理では変化しない、ということがわかりました。

野菜を包丁で細かく切ると、ポリフェノールがアッという間に減ります。これは、野菜のなかにポリフェノールを分解する酵素が含まれていて、野菜の細胞が切断されると、その酵素が働いてポリフェノールが分解されてしまうからです。リンゴを切ると、アッという間に茶色になりますが、あれはポリフェノールが壊れて茶色になっているのです。

一方で、野菜を熱すると、その酵素が働かなくなります。野菜を煮たり焼いたりしたあとで切った場合はポリフェノールは減らないわけです。そうすると、見かけ上は調理をしたほうがポリフェノールが多いというデータが出てしまう。要するに、測定方法に問題があるわけで、ポリフェノールは調理によって変化することはないのです」

ポリフェノールをなるべく失わないように野菜を食べたいなら、丸ごと熱を加えて食べるか、さっくり大きく切ってそのまま食べるといいそうだ。

トマトを3週間食べて
血液サラサラ効果を測定

ポリフェノールについては、一昨年から健康効果の研究に取り組んでいる。使用する野菜は、トマトだ。

「ゼミでポリフェノールを研究する学生さん数人が、トマトを食べて実際に血液がサラサラになるか実験をしています。

トマトは3週間、毎日食べます。食品は薬とは違いますから、すぐに何らかの効果が出るということはありません。最低でも3週間ぐらいは食べ続ける必要があるのです。

具体的には、1日200グラムのトマトを朝昼晩の三食に分けて、通常の食事と一緒に食べます。それを毎日続けて、1週間ごとに採血して血液の酸化度を測定します。酸化度が高いと血液はドロドロになり、酸化度が低いと血液はサラサラになるからです」

期間中、学生さんは毎日、三食をデジカメで撮影する。トマト以外の食品でポリフェノールやビタミンC(血液の酸化度を下げる作用がある)をどのくらい摂取しているか調べて、より正確な実験データが得られるようにするためだ。食品の量が大体わかれば、ポリフェノールやビタミンCがどのくらい含まれているかはコンピュータで計算できる。

トマトジュースとトマトの違いを検証

トマトを食べる実験は、前期に3週間、後期に3週間と年2回行った。そして、昨年から実験の内容をふくらませた。トマトだけでなく、トマトジュースについても調べることにしたのだ。

「最近、野菜ジュースが流行していますが、果たして野菜ジュースは野菜の代わりになるのだろうかと考えて、野菜を食べたときの血液の酸化度の数値と、野菜ジュースを飲んだときの血液の酸化度の数値を比較してみることにしたのです」

実験方法は、基本的にはトマトだけのときと同様で、そこにトマトジュースが加わる。この研究を担当するゼミの学生は、まず3週間、トマトを食べて血液の酸化度を1週間ごとに測定する。それが終わったら、トマトジュースを3週間飲んで、1週間ごとに血液の酸化度を測定する。この組み合わせで前期に1回、後期に1回、実験を行う。

トマトジュースの量は、実験で食べたトマトに含まれるポリフェノールの量によって決める。3週間分のトマトに含まれていたポリフェノールの量を測定しておいて、それと同じ量になるようにトマトジュースを飲む。

「昨年までの実験では、血液の酸化度を下げる効果があった人もいたし、なかった人もいました。こうした実験は個人差がありますし、実験する学生の数も限られていますから、短期間で明確な結果を求めるのは難しいのです。ただ、今年も同じ実験を継続していますから、より明確なデータが出てくるか見守っているところです」

ポリフェノールの作用自体は、すでに明らかになっていることだ。しかし、ポリフェノールを含む食品を食べることで血液の酸化度が低くなったというデータはほとんどなく、野菜ジュースが本物の野菜と同等の効果があるかは、まったくデータがないそうだ。それだけに、実験によって明確なデータを出すことができれば、大きな研究成果になる。

《つづく》

●次回は「肉のカルニチンと健康」です。

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