大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第9回 Part.2第9回 「超能力」を題材に心の不思議に迫る(2)
Part.2
超心理学の具体的な研究対象について
情報コミュニケーション学部 石川 幹人研究室
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これだけ科学が発達しても(あるいは発達したからこそ)科学の光が届かない未知なるものへの関心(あるいは期待)を抱く人は少なくない。これは一般社会での話だが、学問の世界でも、通常の科学では説明できない現象を研究する超心理学というジャンルがある。
今回は、情報学を専門としながら超心理学にかかわる研究にも取り組んでいる明治大学・情報コミュニケーション学部の石川幹人先生の研究室を訪ねた。(Part.2/全4回)
前回は、超心理学の歴史と、先生が取り組んでいるテーマについて伺った。では、具体的にどのような実験をされているのだろうか。
透視や念力などの超能力が主な研究対象に
具体的な研究活動の1つにPSI(サイと読む。後述)実験がある。これは超能力の実証実験といえるものだが、実証自体が主目的ではなく実証実験上の問題点を究明していくことをめざしている。
PSI実験の内容について教えていただく前に、超心理学の研究対象について少し整理しておこう。石川先生のお話と先生がホームページ上で公開している「超心理学講座」をもとに簡潔にまとめると、次のようになる。
超心理学の主な研究対象は、透視、テレパシー、予知、念力、サバイバル(後述)など超能力を中心とする超常現象(超心理学では特異現象と呼ぶ)だ。一方で、UFO、雪男、ピラミッドパワー、占星術といった現象は対象にしていない。
超能力のうち、透視、テレパシー、予知は明確に区別できない面がある。テレパシーは他者の考えを感知することだが、他者の脳の状態を透視することにつながる。予知も将来の透視とみなすことができる。このため、透視、テレパシー、予知をまとめてESP(超感覚的知覚)と呼ぶ。
念力(PK=サイコキネシス)は、通常の身体運動を用いずに物体の状態を変化させることだが、ESPを用いて物体の状態を感知しなければならないケースも想定される。また、テレパシーはPKによって相手の脳内に情報を形成する可能性もあり、予知もPKによって予知した事象を引き起こす可能性がある。こうしたことから、ESPとPKをまとめてPSIと呼ぶようになり、PSIが超心理学の中心的研究対象となっている。
なお、PKは、非常に小さな物理現象に働くミクロPKと、金属曲げのように目に見える大きな対象に働くマクロPKに分類されている。
また、サバイバルは死後生存を裏づけるような現象のことで、生まれ変わりや憑依(霊のようなものが人間などにとりつくこと)などが対象とされている。しかし、いわゆる「霊魂」を認めているわけではなく、そうした現象を客観的な研究対象として位置付けている。
単語の穴埋め問題を使って
予知実験を考案
石川先生のPSI実験の対象は、ESPとPKだ。このうちESPは、予知についてのオリジナルな実験を考案した。被験者がコンピュータ画面に提示される単語の穴埋め問題に答え、答えたあとに表示される単語の予知につながるか実験するものだ。この実験は、プライミングと呼ばれる現象を応用している。
「プライミングは、きっかけづけるという意味で、認知心理学ではよく知られている現象です。プライミング現象は、とくに単語の穴埋め問題でよく発生します。問題を提示する前に特定の単語を刺激として与えると、それが認知されないサブリミナル的な刺激であっても被験者は影響を受け、その単語に該当する答えが優先的に想起されるようになります。私は、このプライミングの刺激を事後に出すことで予知実験に仕立てたのです」
この予知実験にはモデルになった研究がある。アメリカのコーネル大学のダリル・ベムという著名な社会心理学者が行った超心理学実験だ。
その実験では、被験者に怖い絵を2つ並べて見せて、どちらが好ましいかを答えさせる。直後に、コンピュータでランダムにどちらかの絵をサブリミナル提示する。そうすると、答えたあとに提示された絵を選ぶことが多いという。
事前に怖い絵を何回も提示されると、馴れて怖さが低減することは、通常の心理学で馴化(じゅんか)現象として明らかになっている。時間軸を逆にしても同じような結果が得られるわけで、将来にサブリミナル提示される絵の予知につながる現象ではないかと考えられているのだ。
《つづく》
●次回は引き続きESP実験について、「同様の実験を言語で行うとどうなるか」です。