大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第11回 Part.3第11回 スポーツビジネスのあり方を科学的に考察(3)
Part.3
スポーツによる
地域の経済効果を研究する
スポーツ科学学術院 原田 宗彦研究室
公開:
更新:
開幕まではスポーツ以外の問題がクローズアップされがちだった北京オリンピック。しかし、いざ始まると世界最大のスポーツの祭典にふさわしく、トップアスリートたちの熱戦が興奮や感動を呼び起こす大会となった。同時に、開会式や閉会式の大がかりなアトラクション、多額の放映権料を支払っている国に合わせた決勝時間の設定など、オリンピックが巨大なスポーツビジネスの側面を持っていることも感じさせる大会だった。そこで今回は、スポーツビジネスの研究に取り組んでいる早稲田大学スポーツ科学学術院・原田宗彦先生の研究室を訪ね、スポーツが持つビジネスの側面についてお話を伺うことにした。(Part.3/全5回)
前回は、日本のプロスポーツは、もともと企業スポーツから発展してきた歴史があるため、ヨーロッパのサッカーリーグに比べてスポンサーシップの割合が高いという話をした。では、スポーツチームを作ることで、地域にどんな経済効果があるのだろうか。
1試合の平均観客数1万8,000人でも
各チームの経営には厳しさが
次に、メゾの視点での研究について伺ってみた。Jリーグでいえば、各チームレベルのテーマになる。リーグ全体としてはここ数年、1試合の平均観客数が1万8,000人台で安定し、年間の観客数は約860万人に達するなど人気を保っているそうだが、個々のチームの状況はどうなのだろうか。
「Jリーグの各チームの経営状態を見ると、赤字のチームが多いですね。その赤字は、親会社のあるチームなら補填される場合もありますが、そうでないチームは赤字がそのまま累積されていくこともあります。
これは、Jリーグのチームが地域密着型で発展してきた宿命ともいえます。地域に根ざしたチームづくりをしているぶん、その地域では強く支持されやすいけれども、なかなか全国ブランドには育たない。だから、収益も限定されてくる。唯一の例外といえるのが浦和レッズで、年間の売り上げが70億円ぐらいに達しています。それでも、プロ野球と比べると少ない。そういう中で、各チームとも何とか踏ん張り、Jリーグとしても短期的な貸し付けなどさまざまな方法で支援しているのが実情です」
▼Jリーグ年間観戦者数の推移
注:「Jリーグファンの経験価値マネジメント」(早稲田大学スポーツビジネス・マネジメント研究室)を基に作成。(基のグラフはJリーグ調査データより原田研究室作成)
Jリーグをめざすチームの存在が
地域活性化にもつながる
チーム経営の厳しさは分かっていても、各地域からJリーグ入りをめざすチームが次々に出てきている。なぜなのだろうか。
「Jリーグには現在、J1に18チーム、J2に15チームがあります。その下にJFL(日本フットボールリーグ)があり、さらにその下に地域リーグがあるのですが、地域リーグからステップアップしていってJ1をめざすことができるシステムになっているのです。
だから、いまは地域リーグで戦っているチームの中にも、いつかはJリーグへという夢を抱き、それを実現しようと頑張っているところが少なくないのです」
Jリーグをめざすチームの存在は、地域にイノベーション(変革)を引き起こすものでもあると原田先生は指摘する。
「いま、日本の地方都市はどこも似たような光景が広がっています。郊外に大型商業施設や全国チェーンの飲食店が建ち並び、中心部は『シャッター街』になってしまっている。その結果、地方経済は停滞し、住民の気分まで沈みがちになってしまいます。
そうした状況の中で、Jリーグをめざすチームをつくり、事業化していくことは、地域の活性化につながるのです。名前に地域名を冠した地域密着型のチームは、住民はもちろん自治体や地元企業などの共感や協力を得やすく、その地域の象徴となって人々の誇りをかき立てる力も持っているのです」
また、原田先生は、もともとスポーツ自体が持っている魅力も大きいと話す。
「スポーツは多くの人の心を鷲づかみにして揺らすことができます。そこが文化や芸術とはちょっと違うところです。文化や芸術で本当に感動するためには、それなりの素養が必要になります。とくに、クラシック音楽とか絵画などは、普通の人にはなかなか分からない。ところが、スポーツは特別な素養がなくてもパッと見ただけで分かり、感動を与えてくれる民主的なコンテンツなのです。
だから、方法を知っていてボタンの押し方さえ間違えなければ、地域にスポーツチームをつくって、ファンを獲得していくことは可能だと思います」
《つづく》
●次回はスポーツ消費者と「ファンビジネス成功」の方程式についてです。