大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第11回 Part.2第11回 スポーツビジネスのあり方を科学的に考察(2)
Part.2
Jリーグでみる
プロスポーツのマーケティング
スポーツ科学学術院 原田 宗彦研究室
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開幕まではスポーツ以外の問題がクローズアップされがちだった北京オリンピック。しかし、いざ始まると世界最大のスポーツの祭典にふさわしく、トップアスリートたちの熱戦が興奮や感動を呼び起こす大会となった。同時に、開会式や閉会式の大がかりなアトラクション、多額の放映権料を支払っている国に合わせた決勝時間の設定など、オリンピックが巨大なスポーツビジネスの側面を持っていることも感じさせる大会だった。そこで今回は、スポーツビジネスの研究に取り組んでいる早稲田大学スポーツ科学学術院・原田宗彦先生の研究室を訪ね、スポーツが持つビジネスの側面についてお話を伺うことにした。(Part.2/全5回)
オリンピックにみるように、プロスポーツの世界は巨大なビジネスの側面を持っている。前回は、早稲田大学スポーツ科学学術院・原田宗彦先生に、スポーツビジネスの具体的な研究テーマについて説明していただいた。今回は、テーマの1つであるJリーグを切り口にして、スポーツのマーケティングについて、話を伺ってみよう。
Jリーグの年間収入はイングランドの20%弱
プロスポーツの中で、その誕生から現在までを多くの人が知っていて、関心も高いのがサッカーのJリーグ。原田先生は、そのJリーグの経営諮問委員会委員も務めている。そこで、Jリーグの研究を中心に、3つの視点ごとに話を伺っていくことにした。まず、マクロの視点ではどのような研究に取り組んでいるのだろうか。
「ひと口にマクロの視点といっても、いろいろなテーマがあるので、一例としてサッカーリーグの収益構造についてお話ししましょう。世界各国のサッカーリーグの放送権料はどのくらいでチケット収入はどのくらいかといった収益構造の比較や分析です。
具体例として04~05年シーズンを見てみましょう。『ビッグ5』と呼ばれる、イングランド、イタリア、ドイツ、スペイン、フランスのリーグとJリーグを比較してみると、その規模や収益構造の違いが分かります」
原田先生の説明を要約すると次のようになる。ビッグ5のうち最も収入が多いのはイングランドで、19億7,400万ユーロ(1ユーロ=150円換算で約2,961億円)、最も少ないフランスでも6億9,600万ユーロ(同1,044億円)。これに対しJリーグは3億7,000万ユーロ(同555億円)だ。
企業スポーツから出発した歴史が
Jリーグの収益構造にも反映
収入の内訳を見ると、Jリーグの場合、入場料収入の割合は20%で、ビッグ5とそれほど差はない。しかし、ビッグ5に比べて、スポンサーシップ(スポンサーからの収入)の割合が46%(ビッグ5は14~30%前後)と非常に多く、その反面で放送権料の割合が8%(ビッグ5は26~55%)と極端に少ない。
「日本のプロスポーツは、もともと企業スポーツから発展してきた歴史があります。Jリーグの場合、市民が中心となって生まれるチームも増えていますが、やはり企業スポーツから出発しているチームが多いので、収入に占めるスポンサーシップの割合が多いのです。
放送権料については、Jリーグは厳しいですね。ビッグ5に比べると、現状ではコンテンツとして弱い面があるということでしょう。
ただ、イギリスのリーグは150年の歴史があるのに対し、Jリーグは誕生からわずか15年ですから、現時点で収入や放送権料が少ないのは仕方ない面もありますね。
今後、Jリーグ全体のレベルが高くなって、ヨーロッパのリーグのような価値を持ち始めると、収入も放送権料も上がっていくのではないでしょうか。そのためにも、リーグおよび各チームのマネジメント、マーケティングの強化が重要になると思います」
《つづく》
●次回は「スポーツによる地域の経済効果を研究する」です。