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第13回 Part.2

第13回 時代に適した経済や金融のあり方を探る(2)
Part.2
日本経済の抱える問題と
二重構造について

慶應義塾大学
経済学部 池尾 和人研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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2008年9月初旬、世界はまだ、その後わずか1~2か月で「百年に一度」とさえいわれる経済危機に陥ることに気づいていなかった。私たちの生活を直撃している経済危機はなぜ起きたのか、その背景には何があったのか。そんな疑問の答えを探すとともに、日本の経済や金融が抱える課題について教えていただくため、慶應義塾大学経済学部の池尾和人先生の研究室を訪ねた。(Part.2/全4回)

アメリカの消費節約が日本の輸出産業を直撃

▲池尾 和人 教授

池尾先生は、経済のしくみは、それがいかに成功したものであっても時代や環境が変化すれば逆に足かせになることがあるので、しくみを見直し、時代や環境に合ったものに変えていかなければならない、という問題意識から日本経済のあり方について研究を積み重ねてきている。

たしかに、私たち一般の人間でも、1990年代の長期不況、2000年代に入ってからの景気回復、そして今回の経済危機と目まぐるしいアップダウンを体験すると、日本経済はいまのままで大丈夫なのか、と考えてしまう。

経済の専門家である池尾先生は、これまでの研究を通じて日本経済の課題をどのように分析し、今後進むべき方向をどのように展望しているのだろうか。今回の経済危機で日本経済がなぜここまで大きな影響を受けたのかということを含めて教えていただくことにしよう。

「経済危機の前まで、アメリカは過剰消費といわれるほど、いろいろなモノやサービスを世界中から輸入していました。ところが、経済危機に陥ると消費を抑えることになります。

では、消費を抑えるとき何から節約していくでしょうか? まず食料品から節約する、ということはありません。生活が苦しくなってきて節約するのは、すぐ必要ではない贅沢品や耐久消費財、具体的にいうと自動車や家電製品です。それは、日本がアメリカにたくさん輸出していた製品なので、輸出産業は大きな打撃を受けたわけです」

水増しされていた部分が減り
本来の実力に戻る

新聞やテレビの報道などでは、日本経済は昨秋から急降下を続けていたが、今年の春から夏にかけて落ち込みに歯止めがかかったとも伝えられている。とはいえ、ここから再び上昇に転じるかは不透明なままだが、池尾先生は、むしろ現状が日本経済の実力、と指摘する。

「経済危機の背景に、世界レベルでの輸出と輸入のアンバランスがあったことをお話ししましたが、それが日本の輸出産業にとっては2つの意味で有利に働いていたのです。

1つは、日本が輸出する製品をアメリカがたくさん買ってくれて、直接的に需要が増えたことです。

もう1つは、輸出と輸入のアンバランスの裏側でアメリカに投資が集中しましたが、投資はドルで行うので、円を売ってドルが買われたことです。それが円とドルの交換レートに影響を与え、ドルに対して円が安くなりました。そうなると、アメリカ側は日本の輸出製品をより安く買えるので、さらに輸入するようになりました。

とくに2002年から、こうした傾向が強くなり、日本の輸出産業は2つの追い風を受けて活況を呈し、それが日本経済全体の規模を拡大させることにつながったのです。ところが、今回の経済危機で、2002年以来膨らんでいた部分がはげ落ちてしまい、大体もとの水準に戻りました。私は、残念ながら現在のレベルが日本経済の実力だと考えています」

日本経済の二重構造に目を向け
体質改善を図ることが必要

池尾先生は、日本経済が「二重構造」になっていることを見逃してはいけないという。二重構造というのは、輸出型の製造業(輸出産業)と国内市場向けの製造業・非製造業(国内産業)がハッキリ分かれていることだ。

「過去30年ぐらいを振り返ってみると、輸出産業は多少の変動はあっても、基本的に規模が拡大してきています。一方で、国内産業の規模はこの20年間、ほとんど横バイで停滞した状態が続いています。(図1参照)

日本経済全体として見ると、輸出産業の拡大が国内産業の停滞を覆い隠すようなかたちになっていて、本当の実力が見えにくくなっているのです。

日本経済を人間にたとえると、高度成長期が20代から30代だったとすると、現在は50代から60代ぐらいになりつつある。そういう経済ですから若い頃と同じように成長できるわけではない。それなのに若い頃の夢をそのまま追いかけているようなところがある。

だから、今回のような経済危機が起きると、国がお金を注ぎ込んで需要を刺激しようとします。それは、疲れた人間をカンフル注射やドリンク剤で元気にしようとするのに似ています。もちろん、倒れてしまったら大変なので、そうした対策が必要な場合もあります。しかし、日本経済の体質そのものを改善して実力を向上させるような努力をしたほうがいいのではないかと私は考えています」

▼図1 輸出産業と国内産業の「二重構造」

グローバルに活動を行っている製造業とは、IT産業(非鉄、電気機械、精密機器、一般機械及び情報通信)、鉄鋼及び輸送用機器を言い、国内市場を中心とする企業とは、中小企業及び非製造業(電力及び情報通信を除く)を言う。この定義は、『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(水野和夫著)による。

【出典】「法人企業統計」資料出所:経済産業省・産業構造審議会 産業金融部会の資料から引用(池尾和人教授が部会長を務めている)

では、日本経済の体質を改善するには、どのような方法があるのだろうか?

「1つには、サービス産業をもっと効率化していくことが考えられます。サービス産業にはいろいろなものがあります。医療や介護もサービス産業だし、金融もそうです。

中でも医療や介護は、高齢化が進んでいることもあって需要が増えています。ところが、医療や介護の現場は人手不足で充分なサービスの提供ができない。一方で失業者が増えているのに、なぜ人手不足なのか。それは、仕事はきついのに待遇が悪いからです。では、なぜ待遇が悪いのかというと、医療や介護の制度そのものに問題があるからです。

ですから、国の政策レベルの課題として、医療や介護の分野に人材が集まり、国民の誰もが充分な医療や介護のサービスを受けられるようなしくみづくりをしていくことが必要だと思います」

《つづく》

●次回は「日本の金融システムのタイプと課題」です。

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