大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第14回 Part.1第14回 体型分析を基に快適な衣服づくりを追求(1)
Part.1
科学的に衣服づくりを考察する
被服構成学
家政学部被服学科 大塚 美智子研究室
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衣服は、人間にとって最も身近で生活に欠かせないものだ。その衣服を選ぶとき、まずカタチや色をポイントにすることが多いが、実際に着るうえでは身体へのフィット感を含めて快適性が重要になってくる。では、衣服にかかわる学問として長い歴史を持つ被服学の分野では、衣服の快適性を実現するために、どのような研究が行われているのだろうか?今回は、乳幼児から高齢者までを対象に快適な衣服づくりの研究に取り組んでいる日本女子大学家政学部被服学科の大塚美智子先生の研究室を訪ねてみた。(Part.1/全4回)
大塚先生の専門は被服構成学だが、そもそも被服構成学とはどのような学問なのか、そこから教えていただくことにしよう。
「被服構成学は、被服学のさまざまな学問ジャンルの一つです。ファッション・アパレル業界を川にたとえると、被服学はその川上から川下までのすべてをカバーしています。川上には衣服の素材、染色、洗浄などテキスタイル科学の分野があり、川中にはアパレルのデザインから生産、衣服内環境など造形・環境の分野、川下には流通、消費科学、マーケティングなどの流通消費の分野があり、すべての分野の文化的背景となる服装の歴史、色彩などの美学の分野があります。その中で被服構成学は、川中にあたる分野で衣服のデザインや製作などを研究する学問なのです」
被服構成学は、直接的に衣服づくりにかかわる学問といえるが、その内容は深く、研究領域もデザインや製作にとどまらず幅広いものになるそうだ。
「被服構成学は、たんにきれいな衣服をつくることが目的ではなく、人間工学を踏まえて人間の身体に合った衣服をつくることをめざしています。そのため、人体の構造を解剖学的なところまで掘り下げて学びます。どこにどういう筋肉や骨があり、どのように動くのかを理解したうえで、人体の構造や動きに合った衣服を考えていくのです。実際のデザインにおいては、ファッションとしての審美性なども追求していきます。
できあがった衣服の着心地や、衣服を着ることで人体にどのような影響があるのかを人体生理学の見地から探っていくことも重要なテーマです。さらに、色彩や川上にあたる素材などや川下にあたる消費科学などまで研究対象になっています」
体型特徴の分析をベースに
身体にフィットする衣服を追求
被服構成学の研究内容は多岐にわたっているが、大塚先生はそうした研究全体を通じて何をめざしているのか伺ってみた。
「研究を通してめざしているのは、着る人の身体にフィットする衣服をデザインし、提供していくことです。
身体にフィットするということは、着ているときの快適性につながります。身体に合わないものを着ていると、どこかにシワが寄ったり動作がしにくくなったりしますからね。そして、身体に合っている衣服は、太った人であろうと痩せた人であろうと見た目も美しいのです。
そうした快適な衣服づくりは、日本人の体型特徴を踏まえていないと実現できないので、研究室ではデータや実験によって体型特徴を明らかにしていくことにも取組んでいます。
また、体型特徴を基にして、快適できれいな衣服を提供していくためのボディ(衣服の設計製作の元型。詳細は次回)をつくるノウハウを蓄積することも重視しています。
そのボディには『ゆとり量』を入れることが重要なポイントの一つになります。ゆとり量というのは、衣服の着脱や着ているときの動作のために必要なサイズのことです。身体の外側で身体と相似形になるようなゆとり量が理想で、必要なところに必要なだけゆとり量を入れることができればいいのですが、実際には上下方向や水平方向のバランスなど難しい問題が多いのです。
このほかにも機能的な素材の活かし方なども考えなければいけません。そうしたことすべてを含めて、身体にフィットする衣服を提供していきたいのです。これは、若い女性など特定の人を対象にしたことではありません。赤ちゃんから高齢者に至るまで、それぞれのライフステージにおいて、快適できれいに着ることができる衣服を提供することが私の研究の使命だと思っています」
《つづく》
●次回は「高齢者ボディの開発について」です。