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第15回 Part.3

第15回 風力など新エネルギー導入促進の技術を探る(3)
Part.3
電力出力をフラットにし、
風力発電の本格実用化をめざす

工学院大学
工学部 電気システム工学科 荒井 純一研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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地球温暖化対策は、いまや人類共通の課題だ。なかでもCO(二酸化炭素)排出量が多い電力分野では、風力や太陽光などCOを出さない新エネルギーの導入が期待されている。とはいえ、風力発電の発電量は、まだごくわずかだといわれている。では、社会的な期待が大きいにもかかわらず、風力発電など新エネルギーの導入がそれほど進んでいないのはなぜだろうか?
その疑問の答えを探るため、今回は風力発電など新エネルギーを中心に電力の安定供給につながる技術を研究している工学院大学工学部電気システム工学科の荒井純一先生の研究室を訪ね、新エネルギーの導入が進んでいない理由、導入促進のための技術課題、その課題の解決をめざして取り組んでいる研究内容などについて話を伺うことにした。(Part.3/全4回)

風力発電の出力平準化を実現し
発電量増加につなげる

▲荒井 純一 主任教授

前回は、風力発電機を大量導入するための電力会社の対策について伺った。引き続き、工学院大学工学部電気システム工学科の荒井純一先生に話を伺う。今回は、風力発電の電力出力平準化の研究について教えていただくことにしよう。

この研究は、風力発電所(風力発電事業者側)の電力出力をなるべくフラットにする(平準化)方法を探ることを目的としたものだ。風力発電機の大量導入のための対策(電力会社側)とはコインの裏表のような関係ともいえる。

「風力発電の導入による周波数変動の問題は、入ってくる電力量の変化から発生するものです。したがって、風力発電から送り出す電力量(出力)を一定にすることができれば、周波数変動の解決策の1つになるのです。

出力を平準化できれば、電力会社は風力発電を受け入れやすくなる。それは受け入れる量を増やすことにもつながっていく。そうすれば、風力発電全体をさらに拡大して総発電量に占める比率を高めることが可能になる。

つまり、出力平準化は風力発電の本格的な実用化のために必ず必要になる技術課題なのです。その技術課題の解決をめざして研究を進め、こんな方法があるという具体的な提案をしていきたいと考えているのです」

八王子キャンパスで測定した
1秒単位の風速データを活用

出力平準化の研究も、シミュレーションを駆使して行っている。この研究では風力発電所単位でシミュレーションをすることが多くなるが、たとえば発電機なら、それを構成する回路すべてを忠実に設定して、そこに出力や抵抗といった実際の発電機の数値を入れる。そうすることで、発電機が動いているのと同じ結果をコンピュータ上で得ることができる。また、風速については独自に測定したものを使っている。

「本学には、新宿以外に八王子にもキャンパスがあるので、八王子で風速を測定しています。この測定は1秒単位で100秒間行い、詳細なデータを集めています。実は、こういう風速の詳細なデータは世の中にほとんどありません。気象庁でも10分単位の風速しか発表していないので、独自に測定することが必要なのです。貴重なデータなので、出力平準化だけでなく大量導入の研究にも活用しています」

風力発電量と電力貯蔵装置の
最適なバランスを探る

荒井先生は、この研究ではターゲットが比較的ハッキリしていると話す。

「私が着目しているのは、バッテリーを使った電力貯蔵装置を活用することです。発電量が増えたらその分をバッテリーに蓄え、発電量が減ったらバッテリーから電力を出す。そうすれば出力を一定に保つことができます」

この研究では、電力貯蔵装置をうまく活用すれば出力をほぼ平準化できることをシミュレーションで明らかにしている。それを踏まえて現在は2つの問題を探ろうとしている。1つは、風力発電機の発電量に対して貯蔵装置の容量はどのくらいが最適なのかという問題だ。

「たとえば風力発電機の発電量を1,000キロワット(kw)として、貯蔵装置も1,000kwの容量にすれば発電量を一時的に全部蓄えることができ、出力もほぼ完全にフラットにできるでしょう。しかし、それは過剰な容量で、装置も大きくなりコストも高くなりますから、実際に採用されるはずもありません。

では、発電量に対してどのくらいがいいのかというと、誰も明確な答えを持っていないので、それを明らかにしようとしているのです。

いまは、発電量1,000kwの場合だと貯蔵装置を400kwから500kwくらいに想定して、出力がどの程度フラットになるか、シミュレーションを積み重ねているところです。私は、コストを下げる意味でも、もう少し小さな容量にできないかと考えているので、さらに研究を進めて、貯蔵装置の容量と出力のフラット度が最適なバランスになるところを探っていきたいと思っています」

電気に含まれる信号を使って
貯蔵装置をコントロール

もう1つの問題は、貯蔵装置を制御するにはどのような方式がいいのかということだ。

「貯蔵装置の制御というのは、発電量が増えてきたら貯蔵装置にどのくらい電気を貯蔵し、発電量が減ってきたときに貯蔵装置からどのくらい電気を出すか決めて、その指令を出し、出力がフラットになるようにコントロールすることです。

その制御は、何らかの信号をもとにして行うことになりますが、発電量の変動は風速によるものなので、いまは主に風速を信号として使って制御のシミュレーションをしています。といっても、風速自体を検出するわけではありません。風速の変化はそのまま発電量の変化として表れるので、流れてくる電気から発電量の変化を信号として検出し、それに基づいて貯蔵や放電の指令を出すようにしています」

さらに細かく見ると、風速の変化(発電量の変化)には『速い成分』と『遅い成分』と呼ぶものがあり、どちらを信号として使うほうがいいのかも研究課題になっているそうだ。

「速い成分というのは、1秒とか2秒で変化する風速のことです。遅い成分というのは、もう少し長い時間でとらえた風速の平均値のようなものです。

これをグラフに表すなら、遅い成分は比較的ゆるやかに変化する線として描くことができます。速い成分は遅い成分の線に沿っているのですが、小刻みに変化するギザギザの線になります。

では、どちらの信号を使うのか、それとも両方の信号を組み合わせて使うのか。その辺りがなかなか難しいのです。または、もっといい信号が別にあるかもしれない。したがって、このテーマについてもさまざまな設定でシミュレーションを行いながら、制御しやすくてフラットな出力を実現できる方式を探っていきたいと考えています」

荒井先生は、この研究は比較的早い時期に実用化できるのではないかと見ている。荒井先生の提案する電力貯蔵装置が風力発電の現場で導入されたら「実際の運用を通じて得られるデータなどを踏まえて、より精度の高い装置の開発につなげていきたい」と意欲的に語る。

《つづく》

●次回は「新エネルギーを有効利用するために欠かせないインバータについて」です。

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