研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第20回 Part.3

第20回 
持続可能な食料生産への道を開く ~リーダー養成から創薬まで~(3)

Part.3
生物有機化学研究室では、
創薬のための研究を重ねる

東京農工大学
農学部 千葉 一裕教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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食料は私たちが生きていくうえで必要不可欠なものだ。幸い、日本では食料に困ることはないが、世界に目を転じると何億もの人が食料不足で苦しんでいるといわれる。地球規模で考えると、人類の食生活は危ういバランスのうえに成り立っているのかもしれない。今回は、これからの食料生産をリードできる人材を養成するために大学院で新たなプログラムを開始した東京農工大学を訪ね、プログラムコーディネーターの千葉一裕教授に、プログラムの目的や内容を中心に、千葉先生ご自身の研究内容も含めて話を伺った。(Part.3/全4回)

新しい薬をつくり出すための
化学合成を研究

▲千葉 一裕教授

東京農工大学では、これからの食料生産をリードできる人材を養成する大学院で新たなプログラムを開始した。プログラムコーディネーターの千葉一裕教授を訪ね、話を伺っている。

ここからは千葉先生ご自身の研究について教えていただくことにしよう。先生の研究室は「生物有機化学研究室」という名称だが、どのような研究をしているのだろうか。

「私の研究室では、有用な物質を化学合成する方法の研究とその方法を使って実際に有用な物質を合成する研究をしています。

この研究の目的は、わかりやすくいうと、新たな医薬品をつくり出すことです。たとえば、抗がん剤、抗マラリア剤、鎮痛剤などですね。これらの薬はまだ理想的なものがないのです。

薬は、どんどん新しいものを探していかないといけないのですが、人間の身体にフィットする分子であることが求められます。そのため、人間の身体が持っているタンパク質、ペプチド、糖質などの類似物質を薬にすることがいま大きなテーマになっているのです」

新しいタイプの薬ということだが、化学合成によってこうした薬をつくるのは簡単ではないそうだ。

「これまでに人類がつくってきた薬は割とシンプルな分子構造で化学合成もそんなに難しくないものがほとんどです。その反面、副作用が出たり、難しい病気には効きにくいという問題もあります。

生体分子であるタンパク質、ペプチドなどの類似物質を薬として実用化できると、これまで効かなかった病気にも効く可能性があります。ただ、分子構造が非常に複雑なので合成が難しい。そこで、こうした複雑な構造を持つ物質を合成するための方法を探究するとともに、新しい薬の実用化につなげていくことをめざしているのです」

溶液のなかから必要な物質を
簡単に取り出す技術が必要

千葉先生は、化学合成の難しさについて、身近な例えを交えながら次のように説明する。

「たとえば、カレーをつくるときには、ルーをつくって、野菜を入れてというようにいくつかのステップを踏みますね。こうしたステップが必要なのは化学反応も同じで、10段階ぐらいでできるものもあれば100段階ぐらい必要なものもあります。10段階ぐらいまでのものなら工場でも何とかつくれますが、100段階になるとどうか。

理科の実験をイメージしてみてください。ビーカーの水に何かを入れて、かき混ぜて濾過する。これを100回やるのはすごく大変だということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

濾過するというのは溶液のなかからほしいものだけを取り出すということですが、それが難しい。

砂糖水のなかから砂糖だけ取り出してください、といわれたらどうしますか? すぐには思いつかないですよね。考えれば、煮詰めればいいとか、アルコールを入れれば沈殿するのではないかと思いつくかもしれませんが、実際にやるのはなかなか大変です。しかも、それを5分でやってくださいといわれたら、まず不可能です」

千葉先生は、この不可能と思われることを可能にする方法を探り、有用な物質をつくり出すことをめざしているのだ。

「溶液のなかからほしいものだけをパッと取り出す。そして次の段階の反応をさせて、またパッと取り出す。それができれば化学反応の効率は格段に上がるので、100段階でも大きな設備なしに実現できるようになります。ほしいものだけ取り出すということは純度が高いということなので精製の手間も少なくて済みます。

量的にも、1リットルの液体でできるなら、それを100リットルにすれば大量につくれるようになります。

大量につくれるというのもすごく大事なことなのです。インフルエンザのような感染症が広まって薬が大量に必要になることがありますが、そういう事態にも対応できるようになるからです」

《つづく》

●次回は、第4回『さまざまな薬への応用が期待される研究成果』です

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