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第21回 Part.2第21回 より美しく動きやすい衣服を開発(2)
Part.2
体表の運動量を計測可能にする
3次元形状計測システムを開発
文化・服装形態機能研究所 所長 伊藤 由美子教授
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衣服は、デザイン(形状、色、柄など)のよさとともに着心地のよさも大事だ。それも身体にフィットすることはもちろん、動きやすいことが重要になってくる。腕を挙げたり身体をひねったりという動作をしたとき抵抗感が少なくスムーズに動ける衣服なら着心地は快適なものになる。今回は、美しく着心地のいい衣服づくりを科学的な根拠に基づいて追求している文化服装学院、文化・服装形態機能研究所の伊藤由美子教授を訪ねてみた。(Part.2/全4回)
3次元計測機で体表の動きを測る
オリジナルのソフトを開発
伊藤先生は、研究所で使用していた3次元形状計測機を活用することを考えた。
「背中に描いた碁盤の目の寸法を自動的に計測して、伸長率の比較までできるようなシステムをつくろうと考え、体表の運動量を計測する体表長ソフトを独自に開発したのです」
背中に碁盤の目を描くのは手作業のときと同様で、後腋(こうえき)点(背中側の腕の付け根)とウエストの間を水平方向に4等分、後腋点と肩峰(けんぽう)点(肩甲骨の最も外側の部分)の間を水平方向に3等分、そして、肩峰点と後ろ正中(身体の中央)の間を垂直方向に4等分する。
「碁盤の目のサイズを事前に何センチと決めてしまうと、体格によって交点の相対的な位置や数が異なってしまいます。後腋点など基準になるところを決めて碁盤の目を描くことで、体格にかかわらず交点の相対的な位置や数が同じになるようにしているのです」
3次元形状計測機で、まず静止した状態で碁盤の目を描いた背中を計測する。計測自体はレーザー光によって行い、その時間はわずか7秒。これで碁盤の目のそれぞれの3次元情報が自動的に計測できる。
次に腕を上に挙げるなど身体を動かした状態を同じように計測する。そして、静止状態と比較して碁盤の目のどこがどれだけ伸びたかという伸長率も自動的に計算する。こうして、手作業に比べると格段に速く効率的な計測が可能になった。
腋の下の動きをとらえるため
石膏による動体計測を採用
特許のもう1つの計測方法は、石膏を使う動態(身体を動かした状態)計測で、これは腕を動かすことによる腋の体表長の変化を計測するもの。
「身体を動かしたときにいちばん変化が大きいのは実は腋の下なのです。ここが、腕を下ろしているときと挙げているときを比べると20センチぐらい伸びます。ですから、服のパターンをつくるうえでは腋の下の動きを計測することが欠かせません。ただ、3次元形状計測機では腋の下は計測できない。そこで、石膏を使うことにしました」
石膏を使う方法自体は、静態(静止した状態)計測では以前から行われていたものだ。
身体に碁盤の目を描き、交点に丸いシールを貼る。その上に水で溶いた包帯石膏を塗って型をとり身体からはがし乾燥させる。シールは厚みがあるので石膏はその部分がへこんでいて、そこが交点だとわかる。その交点の位置を確かめ鉛筆でシール部分に×印をつける。
次に、乾いた石膏の内側(身体側)に薄い和紙をちぎって水でなじませてから水溶き糊を塗る。和紙が乾いたら和紙の上から石膏に付けた鉛筆の印を写してつなぐと、最初の碁盤の目が和紙の上に再現される。和紙を碁盤に沿って切り離しながら紙の上に貼っていくと立体を平面に展開することができる。
石膏を使う動態計測では、腕を上げた時の腋の下の運動量を求めるために、前後腋を基準に、ウエストまでと肘までを水平方向に3等分、背中の皮膚の動きも求めるために、後ろ正中と後腋点の2等分からウエストまでを水平方向に3等分して碁盤の目を描く。
「碁盤の目を描いたあと、石膏で腕を下ろした状態と腕を挙げた状態の2種類の型をとり、どこがどのぐらい動いたかを計測し、伸長率を求めます。デジタルの3次元計測に比べるとアナログ的な方法で時間もかかりますが、こちらの方法でも正確な計測とそれに基づく伸長率の算出ができるのです。
この2つの方法を組み合わせることによって、背中や腋の下がどの方向にどのぐらい動くか科学的なデータとして示すことができ、それに基づいて衣服パターンにどのぐらいの運動量を入れればいいのかを明らかにすることが可能になりました」
伊藤先生は、この2つの計測手法を組み合わせて「体型測定方法及び体型測定システム」として2011年3月25日に特許を出願し、2013年10月11日付で特許を取得した。
《つづく》
●第3回は『子どもから大人までジャストフィットする衣服づくり』についてです。