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第21回 Part.1

第21回 より美しく動きやすい衣服を開発(1)
Part.1
科学的な裏付けに基づいた
衣服づくりを追求

文化服装学院
文化・服装形態機能研究所 所長 伊藤 由美子教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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衣服は、デザイン(形状、色、柄など)のよさとともに着心地のよさも大事だ。それも身体にフィットすることはもちろん、動きやすいことが重要になってくる。腕を挙げたり身体をひねったりという動作をしたとき抵抗感が少なくスムーズに動ける衣服なら着心地は快適なものになる。今回は、美しく着心地のいい衣服づくりを科学的な根拠に基づいて追求している文化服装学院、文化・服装形態機能研究所の伊藤由美子教授を訪ねてみた。(Part.1/全4回)

科学的な衣服づくりを追求する
文化・服装形態機能研究所

▲伊藤 由美子教授

伊藤先生は昨年(2013年)10月、衣服をつくるための「体型測定方法及び体型測定システム」で特許を取得している。その特許の内容を含めて、科学に基づく衣服づくりの研究について話を伺った。

まず、伊藤先生が所長を務めている文化・服装形態機能研究所は文化服装学院のなかでどのような役割を担っているのか、そこから教えていただくことにしよう。

「文化・服装形態機能研究所は、科学的な裏づけに基づいた衣服づくりを本格的に進めるため、1999年に発足しました。衣服づくりに必要な人体の寸法や形状データを取得するためのさまざまな計測機器をそろえているのが大きな特色です。

この研究所は、授業の一環で学生も活用していますが、企業と共同研究を行うなど外部にも開かれたものになっています」

同学院の学生は、入学すると全員がシルエッターという計測装置で自分の正面と側面のシルエットを撮影し、身体の幅や厚み、姿勢など体型を理解したうえで服づくりを学んでいくようになっている。さらに、2年次には石膏を使った身体計測(後述)、3年次には3次元形状計測機をつかった身体計測(同)と段階を追って計測を行い、科学的な服づくりの学びを深めていく。

身体の構造や機能を理解して
衣服設計に生かす服装解剖学

伊藤先生の専門は「服装解剖学」だという。一般的にはあまり聞かない言葉だが、実はこれは同学院にしかないオリジナルの学問分野だ。伊藤先生の先輩にあたる教員がこの新しい学問をつくり、それを伊藤先生が受け継ぎ発展させている。では、服装解剖学とはどのようなものなのだろうか。

「服装解剖学は、人間の身体の構造や機能などを解剖学的な見地から理解し、それをより美しく着やすい衣服づくりに反映していくことを目的にしています。解剖学は昔から医学解剖や美術解剖があり、それらと共通性もありますが、服装解剖学は服のパターン(衣服製作の基になる平面の型)との関係を追求するのが特色です」

この服装解剖学には、大きく分けると2つの観点があるそうだ。

「1つは、身体を外側から計測して全体のバランスを見ることです。たとえば、服を選ぶとき、ウエストなど1つひとつのサイズを気にすると思いますが、一部のサイズだけでなく全体のバランスが大切なのです。そのバランスも数値に基づいて考えることが必要なので、シルエッター計測、3次元形状計測、石膏計測などによって身体を数値データ化し、それを分析することで理想的なプロポーションバランスを追求していきます。

もう1つは、骨格、筋肉、皮膚など身体の構造や機能を理解することです。そして、骨格や筋肉の動き、皮膚の伸びと衣服パターンの関係を明らかにしていきます。ここがこう動くから衣服のこの部分に運動量(ゆとりなど)を入れることが必要になる、といったかたちで身体の構造や機能の知識を衣服づくりに結びつけていきます」

比較的近い学問としては人間工学があるが、服装解剖学は伊藤先生の説明にあったように衣服パターンとの関係性に特化している。

「工学的な数値解析も必要ですし、分析も必要ですが、そこで終わったのでは意味がありません。計測数値から明らかになったことをよりよい衣服づくりにつなげていくのが服装解剖学なのです」

体型測定方法・体型測定システムで特許を取得

伊藤先生は、前述のように「体型測定方法及び体型測定システム」で特許を取得している。これは、腕の3方向の運動(上挙・前方水平・腕組み)にともなう背面の皮膚の運動量を3次元計測機の体表長ソフトで計測し下垂(腕を下ろした状態)と比較。3次元計測機で計測できない腋窩(えきか/腋の下)は石膏計測により下垂と上挙の皮膚の運動量を計測して衣服設計に活用するものだ。

この測定方法・測定システムを研究開発した経緯について伊藤先生は次のように説明する。

「人は服を着たままじっとしているわけではなく必ず動きます。筋肉の収縮により骨格が動き皮膚が伸びるので、それに対応できる運動量を服のパターンのなかに入れる必要があるのです。それも、経験や感覚で大体このぐらいということではなく、科学的な裏づけに基づいていることが大切です。

従来、そうした運動量は手作業で測っていました。たとえば、背中に碁盤の目のようなラインを書いて、区画ごとにサイズをメジャーで測定します。次に、たとえば手を上に挙げた状態で区画を測定して、何パーセント伸びたという計算をします。それを繰り返すことによってデータを集め、服のどこにどのぐらいの運動量が必要か調べていたのです。これはすべて手作業なので膨大な時間がかかります。そこで、もっと速く計測と分析ができる方法を開発することにしたのです」

《つづく》

●第2回は『体表の運動量を計測できる3次元形状計測システムの開発』についてです。

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