研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第23回 Part.3

第23回 町工場と大学が連携し深海探査を実現(3)
Part.3
徹底した品質管理のもと実験を重ね、
探査に備える

江戸っ子1号プロジェクト推進委員会 事務局(東京東信用金庫内)
桂川 正巳氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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2013年11月。ガラス球にビデオカメラなどを搭載した深海探査機「江戸っ子1号」が、日本海溝の深海探査に成功した。今回はその「江戸っ子1号プロジェクト」のまとめ役としてプロジェクト全体にかかわった推進委員会事務局(東京東信用金庫内)の桂川正巳さんを訪ね、プロジェクトの経緯や内容について話を伺うことにした。(Part.3/全4回)

電流でステンレス板を溶かし
錘(おもり)を切り離す

▲桂川 正巳 氏

通信球は、芝浦工業大学の森野研究室が開発し、浜野製作所が製作した。

「通信球はGPSを使う通信システムを入れて、浮上した位置を報せる機能があります。この開発では、通信のためのプログラムはもちろんですが、浮かんできたときにアンテナが上を向くかといったことも含めて研究を進めていきました。実際につくって水に浮かべる実験も行い、アンテナが上を向いてGPS通信が可能だということを確かめました」

これ以外のユニットとしては、トランスポンダ球、エサ台と泥採器を付けたバーがある。

トランスポンダ球は、前述したように受信器のトラスデューサーとつながっていて、音波の信号を受け取ると、その信号を返す機能がある。これによって船上で音波の往復時間を測定し、機体の深度や海底に着床したことを確認することができる。さらに、もう1つ重要な機能がある。それは錘を切り離すことだ。

「錘は薄いステンレスの板でぶら下げていて、その板の外側にチタンの電極があります。錘を切り離すときは、海上から信号を送ってトランスポンダ球からチタンの電極に電流を流します。そうすると、海水を通して電流がステンレスに伝わり、ステンレスが電蝕で溶けて錘が切り離されるのです」

▼江戸っ子1号(3機)

江戸っ子1号開発を通して
数多くの論文を発表

エサ台と泥採器のバーは上下に動くようになっている。フリーフォール中は海水の抵抗で斜め上を向いているが、海底に着床すると自重で下がって45度の角度で止まるようになっている。先端に付いているエサ台に集まってくる魚類をカメラが45度の角度で撮影できるわけだ。

このように、大学と企業の連携でさまざまな角度から研究・開発が進められた。その過程で、前述したように特許を取得したものもあるほか、数多くの論文なども発表されている。

「東京海洋大学と芝浦工業大学で、合わせて13本の卒業論文・修士論文が発表され、研究報告・学会報告も3件あります。このなかには現在も継続して研究が行われているものもあります」

JAMSTECのプログラム採択で
本格的に共同研究を進める

プロジェクト自体の流れに話を戻そう。2011年4月の正式スタート以降、江戸っ子1号の開発は前述のように進められた。そして、同年9月にはJAMSTECの「実用化展開促進プログラム」に採択された。

「このプログラムは、企業の技術を海洋に適用していくための支援をするものです。採択されると、JAMSTECのいろいろな施設や船を使うことができるようになります。採択されるまではボランティア的に協力していただいていたのですが、本格的に共同研究することになったのです」

ユニットごとの開発で、JAMSTECのプールなど実験設備が使えたのも、このプログラムに採択されたからだ。

ガラス球の国産化により
将来の事業化も視野に

開発の過程では、ガラス球のカバーをメーカーお仕着せのものではなく、機体に合うものにするために、真空成形で実績のあるバキュームモールド工業に製作を依頼することになった。また、購入する予定だったガラス球を岡本硝子が製作することになった。これには大きな意義があるのだという。

「それまでの計画だと、海外から購入するガラス球にいろいろな装置を入れて機体を組み立て、探査ができたらそれで終わりだったと思います。しかし、ガラス球を製作できることになって『事業化』が見えてきました。これによってプロジェクトの意義もさらに大きくなったのです」

水族館での実験を経て
海洋実験を繰り返す

こうしてプロジェクトは進んでいったが、翌2012年5月に節目を迎える。JAMSTECが2013年夏に江戸っ子1号のために海洋調査船「かいよう」を出航させることが決まったのだ。これによって江戸っ子1号の開発は加速する。

「かいようの2013年度の運用計画のなかに、江戸っ子1号の探査が組み込まれたのです。そうなると、その時期までに機体を完成させることはもちろん、本当に探査ができるか実証実験も終えなければならない。ここから、開発をスピードアップしていきました」

そして、2012年8月から水族館での実験、10月から海での実験を行うことになった。

▼新江ノ島水族館での実験

「新江ノ島水族館に協力していただいて、閉館後の夕方5時から8時、9時頃まで大水槽のなかで沈めたり浮上させたりして計8回、実験をしました。

その後、水族館の紹介で漁船に協力していただいて、江ノ島沖の海で10月と11月に3回、実験をしました。このときは水深50mでした。なかなかうまくいかなかったのですが、冬は実験できないので、ひとまず終わりにして、2013年4月に4回目の実験をしました。

このときは、完全に失敗でした。電池の容量が少なくなっているのに気づかず撮影も衛星通信もできなかったり、錘を切り離す信号がオンの状態で機体を海中に投入したため途中で浮上してきたりといった具合でした。

これでは駄目なので、問題点をすべて洗い出して、とくに品質管理を徹底し、チェックリストの作成と事前の確認を行うなどの改善を行い、さらに実験を続けました」

5月に5回目、6月には水深100mで6回目、8月には710mで7回目、640mで8回目の実験を行い、8月の2回の実験で完全に成功。あとは探査に備えることになった。

《つづく》

●次回は最終回、『いよいよ江戸っ子1号を8000メートル級の深海へ投入』です。

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