大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第26回 Part.4第26回 感動する商品の企画を産学協同で追求(4)
Part.4
缶コーヒーを朝飲む傾向に着目し
ワンダモーニングショットを企画
経営学科 神田 範明教授
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食品、生活用品、衣服、家電、ICT機器、自動車など私たちのまわりには驚くほどたくさんの「商品」があり、こうした商品なしでは生活が成り立たない。そして、多種多彩な商品は、生活していくために必要というだけでなく、楽しさ、うるおいなどをもたらしてくれるものも少なくない。なかには、社会現象を引き起こしたり、生活文化を変えたりしていくような商品もある。では、そうした商品は、どのようにして生まれてくるのだろうか。今回は、成城大学の神田範明先生の研究室を訪ね、商品企画の研究について話を伺った。(Part.4・最終回/全4回)
企業との協同研究は、ゼミとしてだけでなく、神田先生個人が行うこともある。その代表例の1つにアサヒ飲料の缶コーヒー「ワンダモーニングショット」の商品企画がある。CMを頻繁に見かけ、売れ行き好調だというこの商品の生みの親は、実は神田先生だったのだ。
「ワンダはかなり前からあった商品なのですが、2002年に、売り上げがあまり伸びなくて困っているという相談がありました。いろいろ話を伺ってみて、商品企画のとき、新しいコーヒーをつくりたいという考えが先行していて、お客さんが何をほしがっているかが充分に把握できていないのではないかと思いました。
たとえば、いい豆を使っていますとか、いい香りがしますということをアピールしても、他社も同じようなことを言っているので差別化にならないのです。そのため、お客さんは、中味の違いがよくわからず、ブランドで選んで買っているのが実情でした」
そこで、神田先生は味の研究ではなく、トレンドや飲む環境の研究を考えた。お客さんを対象にしたアンケート調査のデータから時系列での変化がないか調べてみたのだという。そうすると、朝、缶コーヒーを買って飲む人の比率がどんどん増えているという現象が浮かび上がった。
「これに目をつけました。朝、外で缶コーヒーを飲むという文化は、それまではあまりなかったのです。大体、お昼か午後に買って飲むということが多かったですね。
ところが、自販機、コンビニ、駅の売店などが増えたことによって、通勤途中に缶コーヒーを買う機会も増大した。それで、朝飲む人が増えたのではないかと推測しました。買うのはサラリーマンが多いので、そういう男性会社員向けに、朝飲むのにふさわしいコーヒーを開発するといいのではないかと考えました。朝向きのコーヒーを何種類も想定して調査し、得られた結果がワンダモーニングショットです」
ワンダモーニングショットは、それまでの商品をリニューアルするかたちで発売され、缶も、いまもお馴染みの真っ赤なものに替わった。発売後は「朝専用」というコンセプトがユーザーをとらえ、ワンダブランド全体の売り上げが大きく増加するほどのヒット商品になっていった。
女性が住みたくなる賃貸住宅を
積水化学と協同研究
企業との協同研究のなかには、女子学生ならではの発想が商品企画に生かされて成功したものもある。
「2014年に積水化学工業さんと賃貸住宅の協同研究を行いました。住宅ブランド『セキスイハイム』の賃貸住宅で画期的なものを出したいという話になり、具体的には、ハイセンスな女性が住みたくなるアパートをつくりたいということでした。
この協同研究に参加したのはゼミの女子学生4人で、積水さんの担当者も全員女性でした。5月から、Neo P7の手法に沿って商品企画を進めていって、2015年1月にきわめて快適な賃貸住宅を最終提案として発表することができました」
内干しできるダブルバルコニーなど
女子学生ならではの発想を生かす
提案した賃貸住宅は、アパートではあるもののイメージ的にはマンションに近いものになった。主なターゲットは20代後半から40代前半ぐらいの独身女性。
「外観はお洒落でリッチな感じで、お風呂は1人暮らし用アパートではちょっと見かけないぐらい大きくてゆったりしたものになりました。それから、女性ならではの発想を採り入れました。
女子学生の提案でとくに好評だったのがダブルバルコニーです。バルコニーは普通、外にありますが、それを内部まで拡大して、外部と内部に2つバルコニーを設けることにしたのです。これは、女性は洗濯物を外に干しにくいので内干しができるようにするためです。それだけでなく、外部につながる開放的なフリースペースとして使うこともできます」
さらに、それぞれの部屋から別の住人の部屋が見えにくい構造にしたり、通常は外にある階段を建物内部に設置し、玄関ドアも含めてセキュリティ完備のシステムを採用するなど、女性の願望を詰め込んだ高級仕様のアパートになった。
感動するような商品の企画は
世界中の人が喜ぶ
企業との協同研究で数多くのヒット商品を生み出してきた神田先生は、商品企画研究の意義について次のように話す。
「商品企画の研究というのは結局、お客さんが喜んで感動するような商品をどのようにしてつくればいいのかを追求するものです。
商品を買ったお客さんに喜んでいただく、そうなれば企業の人も喜ぶ、少し大げさにいえば世界中の人が喜ぶ。そういうことに貢献できる研究だといえるでしょう」
注:神田先生のゼミは、2020年3月で終わるので、これから入ることはできません。