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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第41回

第41回
子どものころ、世話になった大人
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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子どものころ世話になった大人について学生にレポートを書いてもらった。予想以上に多彩な事例が紹介されたので今年は複数の大学でおこなうことにした。学校教育モデルの教育ではない“教育”を考えるために、子どもころ世話になった大人はヒントになるだろう。

とりわけ印象に残ったのは、小学生のころ通った近所の駄菓子屋のおばあさんの話だ。彼は、そのおばあさんを相手に、学校の先生にも話せない悩みを相談するなどして、幸せな気持ちになったという。その子の成長にとって必要不可欠なところだったことが想像される。

スポーツ少年団の監督やコーチは、このおばあさんとは別のやり方で子どものおもいに応えているようだ。ある男子学生は、退団後も監督とのつきあいが続いて、一緒に酒を飲むようになったという。

小さな子どもの姿が目に浮かぶような話もある。引っ越してきたばかりのところで、家のカギを失くして途方にくれていたとき、近所の自治会役員のおばさんが声をかけて自宅に招いてくれたという。心細いときに助けてくれたこのおばさんは、彼女にとって忘れられない大人のリストに加えられたわけだ。

絵本になりそうな話もある。集合住宅の2階に住むそのおばさんは、おもてで子どもたちが遊んでいると、カゴにお菓子を入れてベランダから紐で降ろしてくれたという。愉快な人だったんだなあと思う。

もう一つは、二人のおばあさんの駄菓子屋の話。一人は優しい笑顔のおばあさん。もう一人はいつも店の奥にいる、無愛想なおばあさん。ある日のこと、近くの公園で友だちがブランコから落ちて大けがをした。すると、無愛想なおばあさんがすっ飛んできて応急処置をして、その子の家へも知らせてくれた。それ以来、そのおばあさんを見る目が変わったそうだ。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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