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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第85回

第85回
大学生が公民館を建てた
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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東日本大震災の被災地では、大学生ボランティアが活躍している。学生に話を聞くことがあるし、さまざまなメディアで紹介されてもいる。そんななか、社会教育の専門雑誌に掲載されたレポートに注目した。

それは『月刊公民館』7月号の「被災地に、大学生が仮設公民館を建設!」という記事だ。東海大学の学生の手によって岩手県大船渡市三陸町越喜来泊地区に公民館が建てられたという。ここは、65世帯200人ほどの海沿いの地域、津波の被害で半数近くの住宅が全壊してしまった。公民館も流失し、高台の旧牛舎を流用して災害対策本部としていたというのだ。

一方、東海大学では、東海大学チャレンジセンターの「応急住宅チーム」が仮設住宅に代わる建物の提供を計画していた。そこへ、同地区と縁のある卒業生から情報が届いた。そこで、杉本洋文教授の開発した震災復興応急モデル「どんぐりハウス」を仮設公民館として寄贈することにした。

どんぐりハウスは、間伐材などを利用した角材を組み合わせる、素人でも建てられる工法の建築物である。学生たちは、まず4月上旬から2週間、岐阜県の建設業者の下で木材の加工作業をおこなった。続いて4月末から現地で建設作業を始めた。11人の学生が参加したという。作業は容易でなく、疲れて倒れる学生もいた。見かねた住民が協力を申し出ると、作業は急ピッチですすんだ。それまで互いに相手のことをおもんぱかって遠慮していたという。建物は、26.1平方メートルとこじんまりとしたものだが、東海大学の研究者が協力して、屋根にソーラーパネルを据えた、LED照明を備えている。5月7日の完成式では、1人の学生は感極まって涙を流し地元の人と抱き合った。

被災地の暮らしには住民が集まる施設は必要不可欠だ。被災地の各所にカフェなどの、人が寄り集うところが生まれている。それに加えて、地域の問題を話し合うための施設がなければならない。じっさい、それまで、この地区では、話し合いも野外で、たき火をしながらおこなっていた。雨の日には傘をさしながら相談していたという。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

■東海大学チャレンジセンター
「3.11生活復興支援プロジェクト」
//deka.challe.u-tokai.ac.jp/3.11lcp/index.html

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