大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー
第86回第86回
大学生が公民館を建てた
(後編)
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『月刊公民館』のこの記事には力が入っている。公民館の専門雑誌を発行する編集部員によるものだからだろう。編集部員は、この活動を、saveMLAK(セイブ・ムラック)のHPでも報告している。saveMLAKは、図書館など社会教育施設の復興のためのネットワークだ。その後、saveMLAKがコーディネターとなり、日本ユニセフ協会や杉本教授と力を合わせて、図書館を失った名取市に、延べ床面積149平方メートルの名取市立図書館「どんぐり子ども図書室」を、1月6日にオープンさせた。
もう一度、学生ボランティアの話に戻る。滋賀県立大学の学生たちは、宮城県南三陸町歌津の田の浦地区に小屋とトイレを建設したという。『東京新聞』(1月25日)の記事よれば、広さ17平方メートルほどの木造の小屋で、まきストーブが置かれ、天井には学生が「大漁」と書いた布がかかっている。この建物は、建築やデザインを学ぶ学生や准教授35人が炎天下の夏に2ヶ月かけて完成させた。地元の漁師は、「助かってんの。これがながったら皆が集まって話すごとがないから」と喜んでいるという。10月には地元漁師30人で田の浦の情報をネットで発信する「田の浦ファンクラブ」をつくった。この地区も100世帯400人が暮らす小さな規模のところだ。そのせいで行政の復興計画もなかなかすすまないらしい。
住民施設を建設する大学生の話を聞くと、かつて住民施設が若者の手で建てられたという歴史を思い浮かべる。若者宿や戦後の公民館の話である。1980年代にも、自分たちの活動拠点の施設を、公有地を借り、大工の青年団員が中心となって建設された事例があった。若者が住民施設を建設するのは決して珍しいことではないのである。
この事例の紹介は、学生たちの関心を集めた。講義で公民館の話をしても、学生たちの公民館とのかかわりは子どもの頃の思い出に終始する。自分たちと同世代の若者が住民施設をつくるとは、想像できないことだからだろう。少し時代をさかのぼれば、若者と地域社会の縁は深い。この話が、住み良い地域社会をつくる活動は、学生たちにも決して無縁ではないことを考えるきっかけになればよいと思った。
久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。
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