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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第84回

第84回
生涯学習と地域のリーダー
(後編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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 日が経つにつれて、米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた、福島県南相馬市の桜井勝延市長をはじめとする、市町村の首長の活躍する姿を知るようになった。そこで、その姿を借りて、地域社会のために活躍する地域のリーダーの役割についても取り上げることにした。これもまた断片的な情報に頼るしかなかったのだが、そんなことをいっていられない気がした。情報不足という留保条件を付けながら、地域社会の外部の力に立ち向かう人々がいることを伝えた。

この緊急事態に、頼りない政府の発表に追随するのでなく、目の前の住民のことを考えて行動する首長たちがいる。自分たちのまちは、どうなのか。遠く離れたところ(地理的な距離の意味ではなく)に暮らす者にとっても他人事であるはずがない。そういう首長がいるかどうかは、住民の命にかかわる重大問題だ。

こういうことも考えた。どれほど有能で勇気のある首長であっても、一人だけで行動することはできないだろう。彼らの背後には、自分の役割を自覚する役所の職員や、良心的な地域のリーダーの存在が想像される。この点に着目すると、あまり役に立ちそうにないマスメディアの報道のなかにも、そういう人々の姿を確認することがあった。

その一つが「人間復興 ふるさと再生 “ありがとう”からはじめよう!」と描かれたのぼり旗だ。まちの風景の映像に、こののぼり旗を見た。これをつくったのは、〈つながろう南相馬!〉という南相馬市の住民たちのネットワークだということを知った。この活動は、声を挙げて、つながろう、という、被災地で暮らす人々の思想の表現と受け止めることができると思った。この人々は、「まけるな! 動けば変わる! ふるさと再生! 子どもたちに未来を!」というポスターも貼ったという。

地域社会を支える地域のリーダーが育つ条件づくりもまた生涯学習の課題である。地域のリーダーの在り方は、さまざまだろう。両義的な存在ともいわなければならないが、そこのところを解きほぐしていかなければならない。このように考えるうちに前期の講義は終わった。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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