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大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第10回 Part.4

第10回 ヒートアイランドや都市型強雨の実態を解明(4)
Part.4
都市の短時間強雨、
研究成果を防災対策に生かす

首都大学東京大学院
都市環境科学研究科 高橋 日出男気候学研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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今年の夏も暑かった。東京都心の、とくに繁華街などは気温の高さに加えて、暑くなった路面からの熱、そこかしこにあるエアコン室外機からの放熱などで、体感する暑さは何割増しにもなった。ま、「ゲリラ豪雨」とも呼ばれる突然の強い雨も、都市部でとくに多かったようだ。テレビや新聞で「ヒートアイランド現象」という言葉がしばしば使われているが、発熱する都市は気候にも異変をもたらしているのだろうか。今回は、そんな疑問の答えを探るべく、都市などの気候を研究している首都大学東京・気候学研究室の高橋日出男先生を訪ねてみた。(Part.4/全4回)

高層建築物群の風下で発生する強雨やヒートアイランドなど、都市型気候発生のメカニズムは、だんだんと要因が明らかになり始めている。これらの研究成果を、どのように生かすことができるのだろうか。

短時間強雨の研究がさらに進めば
災害防止に活かせる可能性も

高層建築物群の風下で強雨が発生するメカニズムは次のようなものだ。

高温で湿った空気が、高層建築物群の影響で上昇流となって上空に持ち上げられる。持ち上げられた空気に含まれる水蒸気が凝結(気体から液体に変化)して雲ができ始めると、凝結の際に発生する熱で周囲の空気が暖められ、急速に雲が発達して積乱雲になる。積乱雲は発達している間に風で少し流され、高層建築物群の風下側で激しい雨を降らせる。

この研究成果は、2008年5月25日から開催された日本地球惑星科学連合大会で発表された。タイムリーなテーマということもあって、新聞やテレビなどマスコミからの注目度も高かった。ただ、高橋先生は「これはまだ仮説です」と話す。

「都市の短時間強雨の研究は、高層建築物群と強雨との間に一応の関係性が認められたという段階です。今後も研究を進め、本当にこの仮説が正しいのか、いろいろな角度から検証していきたいと考えています」

都市の短時間強雨に関する研究が進めば、現実の防災対策に活かせる可能性もある。強雨が発生しやすい地域と風向との関係などがより明確に分かれば、リアルタイムの風向などの観測情報と連動させることで、1時間前、30分前といった直前の強雨予測ができるようになるかもしれない。

科学としての短時間強雨の解明という意味でも、思わぬ災害を防ぐことにつなげていく意味でも、研究の進展が期待される。

▲地表面粗度(建築物群等)に起因する上昇流

高橋先生から進路選びのアドバイス
『気候学』に興味がある高校生へ

気候について学びたい場合、進路はいくつか考えられます。私たちの研究室のように、観測をして、そのデータを解析することを中心に気候を探っていきたいなら、地理学あるいは地球科学に関連する学科が適しています。

物理現象の1つという観点を重視して大気や気候を学んでみたいなら、物理学系の学科がいいかもしれません。このほかにも、生物学系の学科や農学系の学科などで気候にかかわる研究をしている先生もいます。

したがって、学科名という看板にこだわらず、関連のありそうな学科をピックアップして、どのような先生がいて、どのような研究をしているのか、インターネットなどで詳しく調べてみるといいでしょう。

21世紀は「環境の世紀」ともいわれています。環境を考えていくうえでも、気候を研究することは非常に意義のあることです。気候を学びたいと考えているなら、高校の地理や地学の勉強も踏まえて、自然現象に対する関心を深めていってください。

高橋 日出男(たかはし ひでお)
1959年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業。同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。1988年、広島大学総合科学部自然環境研究コース助手。1996年、東京学芸大学教育学部助教授。2007年から現職。主な著書に『自然地理学概論』(高橋日出男・小泉武栄編著/朝倉書店)などがある。

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