大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第14回 Part.3第14回 体型分析を基に快適な衣服づくりを追求(3)
Part.3
高齢者ファッションショーを
地域と連携して開催
家政学部被服学科 大塚 美智子研究室
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衣服は、人間にとって最も身近で生活に欠かせないものだ。その衣服を選ぶとき、まずカタチや色をポイントにすることが多いが、実際に着るうえでは身体へのフィット感を含めて快適性が重要になってくる。では、衣服にかかわる学問として長い歴史を持つ被服学の分野では、衣服の快適性を実現するために、どのような研究が行われているのだろうか?今回は、乳幼児から高齢者までを対象に快適な衣服づくりの研究に取り組んでいる日本女子大学家政学部被服学科の大塚美智子先生の研究室を訪ねてみた。(Part.3/全4回)
今回は、先生の研究テーマの中から「高齢者ファッションショー」について伺ってみよう。
大塚先生は、高齢者の衣服研究の一環として、2005年から隔年で「地域とともに発信するJWU(日本女子大学)シルバーファッションショー」を開催している。これは、どのような経緯で開催するようになったものなのだろうか?
「学内に大きな競争的資金を獲得しようというプロジェクトがあって、『生活安全保障』という大テーマのもと、小テーマによって理学、食物学、住居学というように中心となる専門家を決めて講演会などを開いていました。
2005年には私がその担当となり、当初は高齢者の衣服について講演会を開こうと考えていたのですが、メンバーの先生方が『ファッションショーもしたらいいのではないですか。私たちが男性モデルをやりますよ』といってくださったことがきっかけになって、ファッションショーを開催することに決めました。
といっても、ただ見せるだけのショーではありません。私が高齢者のための衣服が生活にどのように貢献できるかといったテーマの講演をして、そのうえでショーを行い、作品の設計意図や特徴などを解説していく啓蒙型のショーとしました」
ショーのモデルは、学内の先生方以外に、日本女子大学に隣接する豊島区の「豊島ひとりぐらし研究会」で活動している高齢者が協力してくれることになった。ショーの衣服は研究室の学生がデザインし、その製作はユニバーサルデザインにかかわる活動で大塚先生と連携している学外の関係者などが協力してくれることになった。
「学生は、デザインしたものを完全な製品にするだけの力をまだ身につけていない人もいるので、学外の方などが製作に力を貸してくださったのです」
デザインも、たんにカタチや色を考えるだけではない。
「学生は、高齢者の身体データを調べて体型特徴を分析しています。さらに、高齢者の衣服に対する要望や、膝が痛いとか腰が冷えるといった身体状況に関するアンケート調査を行っています。それらを踏まえて、高齢者の体型特徴に適していて身体状況をカバーできる衣服を考え、デザインしていくのです」
2005年7月のファッションショー当日は、近隣住民などを中心に約160人もの人が集まった。初めての試みということもあって参加者にアンケート調査を行った結果、「見ているだけで若返ることができた」「明るい気持ちになった」という回答が多く、好評だったことがわかった。
生活シーンを想定した
提案型の作品が増える
その後、2007年11月に第2回目を開催し、このときから被服学科の卒業生もモデルに加わるようになった。さらに、2009年2月には第3回目を開催している。このときは被服学科の卒業生がモデルだけでなく衣服製作にも協力している。また、ショー自体の実施方法も変えている。
「ショーで提案する衣服は、被服学科の学生全員を対象にしたデザインコンペで選ぶことにしました。研究室だけでなく学科全体にまで裾野を広げていったのです。応募作品からグランプリ1作品、準グランプリ2作品、入選17作品を選びショーで発表しました。
ショーの内容も『生活安全保障』というテーマにとどまらず、ファッションを楽しみましょうとか、その衣服を着て積極的に外出しましょうというように、生活シーンを想定した提案型のものになってきました。
それから、第1回目から続けているのですが、高齢者のための機能性素材を紹介することも重視しています。第3回目は、日本の伝統ある紙糸繊維と、MAF(マフ)というニュージーランド産の非常に繊細なウールを取り上げました」
研究室だけでなく被服学科の多くの学生、先生方、近隣住民、卒業生などを巻き込むかたちで広がりを見せる高齢者のためのファッションショー。大塚先生は「今後も隔年ぐらいのペースで開催していきたいですね」と意欲的に語る。
《つづく》
●次回は最終回「紙おむつの開発について」です。