研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第18回 Part.2

第18回 「音の風景」から環境や文化を考察(2)
Part.2
テーマを設定してまちを歩く
サウンドウォークを実施

青山学院大学
総合文化政策学部 鳥越 けい子教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちのまわりにはさまざまな「音」があふれている。朝の訪れを告げる鳥のさえずり、調理や洗濯など生活のリズムを刻む音、クルマや電車が走る音、シンシンと雪が降る夜のような「静寂」という音、そして、多種多様な音楽。こうした「音」の向こうには、そのときどきの自然や人間の営みが存在している。さまざまな「音」に耳を傾けると、私たちの世界をより深く理解することにつながるのかもしれない。そこで今回は、さまざまな「音」を糸口に、環境、文化、社会、芸術、暮らしなどにアプローチし、研究活動とともに環境デザインやまちづくりなど実践活動にも取り組んでいる青山学院大学総合文化政策学部・鳥越けい子先生の研究室を訪ねてみた。(Part.2/全4回)

▲鳥越 けい子教授

前回はサウンドスケープの研究対象が文化や生活、環境、都市、社会、芸術、メディアなど、さまざまな領域にわたっており、主にフィールドワークによって研究が進められているという話をした。今回は、それらのフィールドワークを生かしたプロジェクトについて、鳥越先生に伺ってみよう。

鳥越先生の研究室で取り組んでいるプロジェクトのうちメインの1つに、渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)というエリアを地域の文化資源としてとらえ、保存、再生、利用を図っていくことがある。

このプロジェクトは、総合文化政策学部がスタートした2008年度から動き出しているが、ゼミやラボが2009年度から始まることを踏まえて、2008年秋に「渋谷サウンドウォーク2008」というイベントを実施している。これは、サウンドスケープ研究の手法の1つである「音聴き歩き」をイベント化したものだというが、どのようなものだったのだろうか。

「路上観察学という言葉があるように、まち歩きはすでに市民権を獲得していますが、それは主に目で見て歩くものです。でも、都市の風景をつくっているのは目に見えるものだけではありません、通りを走るクルマの音、道行く人々の話し声、鳥の鳴き声、風の音、そのほかのさまざまな音も都市の風景の重要な要素です。

私は、音を含めた全身感覚による観察が大事だと考えて『感察』という言葉を使っているのですが、音の風景をテーマに渋谷のまちを歩いて『感察』するプログラムをつくり、一般の方に参加していただいたのです」

文豪たちが「音」を聴いた場所で
都市の変貌や未来を考える

このときは、ハチ公前広場、「109」、渋谷センター街、東急百貨店本店など渋谷を代表するようなスポットとともに、文豪たちにゆかりの場所を訪れることを目的にしていたそうだ。

「渋谷には明治時代から、与謝野鉄幹、与謝野晶子、田山花袋、国木田独歩、竹久夢二などの文豪が住んでいて、それぞれの作品のなかには当時の渋谷の様子、それも音の風景にかかわることが書かれているのです。そういう文豪たちの住まい跡や作品に出てくる場所を訪ねて、文豪たちがかつて聴いていた音に思いを馳せ、そこから渋谷の現在の姿や未来について考えてみることを目的の1つとしたのです」

文豪ゆかりの場所は、ただそこにいくだけでなく、作品のなかでその場所について書かれた部分を現地で読んでみるようにしたという。

「渋谷駅西側の道玄坂には与謝野鉄幹と晶子の住居跡があり、作品にはそこで鶏の鳴き声や栗の木がざわざわと風に揺れる音が聴こえたという記述があります。道玄坂の少し西の宇田川町には竹久夢二の住居跡があって、近くには温泉にいったみたいだと作品に書かれた銭湯があり、川の流れる音が聞こえたという記述があります。その川は町名にもなっている宇田川ですが、いまは暗渠になってしまっています。原宿寄りのNHKのすぐそばには国木田独歩の住居跡があり、明治30年の秋に、独歩がそこで武蔵野の雑木林の音を聴いている記述があります。

こうした記述を現地で読んで当時に思いを馳せるとともに、当時と現在との違いを実感することで、渋谷というまち、さらには東京という都市がどのように変貌してきたのかを考えることにつなげたいと思ったのです」

鳥越先生は、音聴き歩き(リスニングウォーク)やそれを発展させたサウンドウォーク(音の散歩)をゼミの指導にも取り入れている。

「3年生は今、カフェ、教会や神社などといったテーマを設定して渋谷のまち歩きのプログラムをつくっていますが、その中に必ず音の要素を入れるようにしています。そのためには、音の録音や関係者への聞き取り調査なども必要になります。さらに、プログラムを魅力的なものに仕上げることや、テーマやそれぞれの場所の特徴などをきちんと説明することも求められます。トータルな能力が必要になるわけですが、そういうところまで含めて課題に取り組むのが総合文化政策学部の特色でもあるのです」

《つづく》

(次回は地域の文化資源の保全をめざすプロジェクトについてです)

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