研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第18回 Part.3

第18回 「音の風景」から環境や文化を考察(3)
Part.3
地域の文化資源に着目して
保全をめざすプロジェクトを開始

青山学院大学
総合文化政策学部 鳥越 けい子教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちのまわりにはさまざまな「音」があふれている。朝の訪れを告げる鳥のさえずり、調理や洗濯など生活のリズムを刻む音、クルマや電車が走る音、シンシンと雪が降る夜のような「静寂」という音、そして、多種多様な音楽。こうした「音」の向こうには、そのときどきの自然や人間の営みが存在している。さまざまな「音」に耳を傾けると、私たちの世界をより深く理解することにつながるのかもしれない。そこで今回は、さまざまな「音」を糸口に、環境、文化、社会、芸術、暮らしなどにアプローチし、研究活動とともに環境デザインやまちづくりなど実践活動にも取り組んでいる青山学院大学総合文化政策学部・鳥越けい子先生の研究室を訪ねてみた。(Part.3/全4回)

渋谷百軒店ミュージアムプロジェクト
を立ち上げる

▲鳥越 けい子教授

前回は「音」によって都市の変貌や未来を考える音聞き歩きのイベント、サウンドウォークについて伺った。今回は、それらの実践活動を地域の文化資源保全に生かす「渋谷百軒店ミュージアムプロジェクト」について伺ってみよう。

鳥越先生の研究室では、前述したように渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)という地域に着目して、「渋谷百軒店ミュージアムプロジェクト」に取り組んでいる。研究室の活動のなかでも重点を置いているもので、ゼミやラボの学生もさまざまなかたちで参加している。

「百軒店は、渋谷の道玄坂の北西側の地域で、かつては映画館をはじめロック・ジャズ・名曲喫茶が数多くあって、渋谷における娯楽や文化の中心地だったところです。いまでもクラシックの名曲喫茶などが残る独特の雰囲気がある地域なのです。

ただ、百軒店が音にかかわる文化遺産的な場所であることは一般にはあまり知られていません。そのうえ、渋谷駅に近いこともあって周辺は再開発が進められているため、百軒店の貴重な文化資源が失われてしまう可能性もあります。そこで、この地域をフィールドミュージアムとしてとらえ、魅力を発信していくためのプロジェクトを立ち上げたのです」

この取り組みは、研究と実践活動が一体となった取り組みという性格も強いようだ。

「まち全体を博物館と位置付けて、その地域の文化資源を調査・発掘しながら、その内容を展示し、その記録のアーカイブ化を進めています。最終的には、そうした地域の魅力や重要性を、社会に発信したいと考えています」

ゼミやラボの学生も
それぞれの立場で参加

▲「SCAPE WORKS 百軒店」の様子。百軒店児童遊園地内での野外シンポジウム

このように活動内容も多岐にわたる渋谷・百軒店ミュージアムプロジェクトという大きな枠組みのなかに、テーマごとのプロジェクトや地域ぐるみのイベントなどもあり、ゼミやラボの学生もそれぞれの立場でかかわるようになっている。

「ゼミでは、さまざまな活動の1つとして百軒店を含む渋谷や青山地域を対象にした調査研究を進めています。たとえば、カフェや喫茶店と音楽との関係をテーマにして、どのような音楽が流されているかといったことから、ほかの店との違いはどのようなものか、運営している人の考え方、長年通っているお客さんの感想などを調査している学生がいます。

また、『青山サウンドアーカイブプロジェクト』にも取り組んでいます。

これは、青山キャンパスで聞くことのできるさまざまな音を録音して、学院の文化資源として記録に残し、音のアーカイブをつくるものです。録音した音からCDの制作を進めている学生もいます。一方、ラボでは百軒店にお店をもっている方たちを対象に、まちへの想いをうかがいながら写真撮影をするワークショップを企画・実施しました」

地域と一体になったイベントを
学生が中心になって運営

▲「SCAPE WORKS 百軒店」百軒店でのブラインドウォーク

さらに、渋谷百軒店ミュージアムプロジェクトというプロジェクトが主催するかたちで、地域と一体となった「SCAPE WORKS 百軒店」というアート・イベントを、2009年から毎年秋に行っている。これは、百軒店をフィールドに、新しい風景(SCAPE)を創り、地域の力を引き出すためのイベントだという。鳥越先生の指導のもとでラボの学生が中心になって運営しているのが大きな特徴だ。

「学生が自らの感性を発揮して、百軒店というエリアの特性を生かし、その地域文化資源を発掘・発信するためのイベントを企画・制作・実施しています。学生が、まちの人やさまざまなクリエイターと交流しながらアートによるまちづくり活動を行うことによって、百軒店に潜在している文化創造の力を改めて引き出すことをめざしているのです」

内容は多彩だ。2010年は11月中旬からの3週間ぐらいの期間に、写真展(百軒店の現在や昔の写真、商店街や地元にゆかりのある人々を訪ね、まちへの想いを書いたキーワードとともに撮影した写真などを展示)、アートスペース「くつろぎ屋」(百軒店児童遊園地を会場に、演劇、詩の朗読、イベント参加者による書道作品の制作などを行う)、「こども」と「アート」と「まち」について考えるシンポジウム、「まち」に関する座談会などが開催されている。

《つづく》

(次回は最終回、全国に広がる音の風景プロジェクトについてです)

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