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第22回 Part.3

第22回 アクティブラーニング支援技術を研究(3)
Part.3
コンピュータによる、議論への自動介入

上智大学 理工学部
情報理工学科 田村 恭久教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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ここ数年、学校教育のなかで「アクティブラーニング」が大きなキーワードの1つになっている。アクティブラーニングは、大学教育改革の流れのなかで注目されるようになり、各大学においてさまざまな取り組みが始まっている。また、中学校や高等学校で導入するケースもあり、もともと「調べ学習」などアクティブラーニング的な要素のある小学校にも波及しようとしている。学問の世界でも、アクティブラーニングの方法論はもちろん、アクティブラーニングをコンピュータで支援する研究などが始まっている。そこで今回は、上智大学理工学部情報工学科の田村恭久先生の研究室を訪ね、アクティブラーニング支援技術の研究について話を伺うことにした。(Part.3/全4回)

類似度を基に別の発言を促す
自動介入も可能に

▲田村 恭久教授

発言内容を解析する研究は、そこでとどまるわけではなく、コンピュータによる議論への自動介入につなげている。

田村先生から説明があったように、現時点ではコンピュータが発言の「意味」を理解することはできないが、解析によって「話されていること(単語、文)」はある程度認識できるので、それを踏まえた介入方法を研究しているそうだ。そこで、どのような介入が可能なのか伺ってみた。

「たとえば、単語の解析、単文の解析などによって、協調学習をしている人それぞれの発言の類似度がわかったら、それを基にしてコンピュータが『この発言は別の人の発言と非常に近いから別の発言をしてみましょう』といったメッセージを送る方法があります。

こうすることによって、ほかの人の発言のオウム返しではなく、ほかの人が発言していない独自の発言を促し、議論を活性化することにつなげていきます。

発言内容の解析から、統計的処理による発言類似度の計算、その結果を基にした発言内容の修正要求まで、コンピュータが自動的に行うことができるようになっています」

「発言役割」を設定して
賛成・反対の分布を把握

協調学習への介入の方法はこれだけではない。たとえば、ストレートかつ重要な介入方法として、議論が止まっているグループにメッセージを送ることがある。

「PCを使った協調学習では、発言が止まる、つまり学習者からPCへの入力がないことはすぐにメインPCで識別できます。もし、数十秒間も沈黙が続いていたら、介入すべき状態だと言えるでしょう。その場合は、メインPCのほうから自動的に、発言を促すメッセージを送るようにすることができます」

また、田村先生は、協調学習で議論をする場合(PC使用)、それぞれの人が発言(入力)するときに、どのような立場からの発言なのか、すぐにわかるしくみをつくっている。

「私たちの研究では、協調学習を支援する補助的な機能として『発言役割』というものを設定しています。PCの入力画面に、本文入力欄とは別に『役割欄』を設けているのです。

これは、何らかのテーマについての議論で1人ひとりが発言する際に、賛成なのか、反対なのか、質問をするのかといった、その人の役割がすぐわかるようにするためです。

発言者は、まず役割欄にある『賛成』『反対』『質問』などの役割を選んでから本文を入力します。そうすると、たとえば、テーマについて私は賛成、私も賛成というふうに『異議なし』状態になって議論が終わってしまうことがよくありますが、そういうことを『発言役割』の分布から定量的にとらえることができるようになります。

そして、みんなが賛成して議論が止まってしまったら、『何か質問はないのですか』とか『反対意見も言えるのではないですか』というようなメッセージをメインPCから送り、議論の再活性化を促せるようにしているのです」

音声認識ソフトを使って
喋った言葉をテキスト化

これまでの協調学習支援の研究では、発言をPCに入力することを前提にしていたが、田村先生の研究室ではそれだけでなく、発言を音声で認識するシステムの研究も進めている。

「実際の教育現場では、協調学習をするときに発言をPCで入力することなく喋っています。ですから、喋っている言葉が飛び交っている現場にコンピュータがどう入り込んでいけるのかということは非常に大きな課題なのです」

そこで、2013年度には田村先生の指導の下で、研究室の学部4年生が卒業研究としてこのテーマに取り組んだ。

「この研究では、コンピュータによる音声認識の技術を使いました。音声認識は以前からあるもので、喋った言葉をコンピュータに録音すると、それをすぐにテキスト化することができるのです。

テキスト化することができれば、入力したのと同じことですから、そこから発言内容の解析やそれを基にした自動介入につなげることができるわけです。現在は音声認識の精度も向上してきているので、卒業研究では市販のソフトを使用することにしました」

音声認識ソフトは、基本的には使う人の声をいったん録音して認識させておくと、その人の声を認識するようになる。このため、実験ではモニターの学生に、Aさん用、Bさん用というようにそれぞれ音声認識ソフトを用意して、グループで議論を行った。

「音声認識ソフトは、英語だと相当精度よく認識してくれますが、日本語の場合、同音異義語の認識が難しいことや、滑舌がよくないと認識しにくいという問題があります。

でも、実験の結果、同音異義語を含めて正確に変換されていない部分でも、読み替えたり類推すれば意味がわかる日本語にはなっていました」

その場で消える議論ではなく
長いスパンでの議論も可能に

音声認識技術を取り入れると協調学習支援にどのような効果が期待できるのだろうか。

「発言内容を単語に分解することも、『節』や『文』に再構築することもメインPCで実行可能です。

「まず、発言とともに文章を入力する手間が省けるので、議論のスピードが速くなります。これは実験の結果を見ても明らかです。

それに、先ほどお話ししたように、現在の協調学習では喋っているわけですから、より実用性の高い支援システムになっていくと思います。プラスアルファの効果としては、喋るだけの議論でも、発言内容を記録として残せることがあります。

喋るだけだと、その場で言葉は消えていきますから、1~2時間もすると、あのとき何を喋ったんだろうかということになりかねません。でも、喋ったことをテキストにして保存しておけば、あとで見直すことができます。

何らかの事情で、その議論に参加できなかった人がいたときでも、あとからテキストを見て、どのような議論が行われていたか確認したり、そこに自分の意見を付け加えたりすることも可能になります。

コンピュータを使用することで、その場で消滅してしまう議論ではなく、長いスパンで続けられる議論にしていくことができるわけです」

《つづく》

●次回は最終回、「ディベートやブレーンストーミングなど議論の支援を行うコンピュータのシステムについて」です。

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