高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第10回

第10回
キャリア教育実践レポート
「産業社会と人間」 Part.7
神奈川県立大師高等学校の実践例(2)

インタビュー
神奈川県立大師高等学校 2年生
Iさん、Tさん
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

今回は、現在、大師高校2年次に在学中の生徒たちに、「産業社会と人間」の授業の感想を聞いた。彼らは1年前に受けたこの授業を、今どのように感じているのだろうか。

――入学前、「産業社会と人間」の授業についての知識はありましたか?

Tさん 確か説明は受けたのですが、実際にどういうことをやるのかということまでは理解していませんでした。その後、入学してすぐに行った「ふれあいキャンプ」で、担任の先生たちが劇のような感じで授業の説明をしてくれたのですが…。それでもまだよくわからなかったです。

Iさん 私も授業を受ける前はイメージが沸かなかったです。

――この授業では自分と直接関係のないおとなの人と話す機会がたくさんあったと思いますが、難しくなかったですか?

 すごく難しかったです。ただ聞いているだけじゃなくて自分の意見も言わなくてはいけなかったし。私は恥ずかしがりやの方なので、みんなの前で発表するのも最初はとても嫌でした。でもやっていくうちにみんなから拍手をもらったり先生からほめられたりするので、だんだん楽しくなりました。

 私も中学生のときはそういう経験がまったくなくて、大師高校に入ってからおとなの人たちと話すようになったんですね。だからその人たちから聞いた話を勘違いしないでみんなに伝えなくてはいけないと思うと、それが難しかったです。

――「産業社会と人間」で行ったたくさんの活動の中で、何が一番楽しかったですか?

 やはり保育園に行ったことです。私はずっと保育士になりたかったので、交流体験のときは保育園を選んだし、この学校の先輩からも話を聞きました。体験自体はすごく楽しかったのですが、園長先生から「保育士は子どもの世話だけじゃなくて、トイレ掃除とか草むしりとかもやらなくちゃいけないんだよ」と言われて、そういうことに初めて気づきました。

でもそれでも保育士になりたいという私の気持ちは変わらなし、今もその気持ちはどんどん強くなっています。

 私は「産業社会と人間」の枠を超えて、今年の3月に神奈川県でやっている日韓交流事業の一貫で韓国に行ってきたんですけど、それが一番の思い出です。向こうではホームステイをして、韓国の高校に行って学生と交流したり授業風景を見たりしました。その前に「産業社会と人間」の交流体験で朝鮮中高級学校にも行ったので、同じような感じかなと思ったのですが、まったく違っていたし、私たちの学校とそれらの学校を比べても全然違って、それも面白かったです。

朝鮮学校では生徒がどんどん発言して、先生と生徒が一緒になって授業を作っているという感じだったのですが、韓国では先生の話を生徒がすごく真剣に聞いているような感じがしました。

――今、それぞれ将来の目標があると思いますが、それに向けて何か取り組んでいますか?

 保育士はピアノが弾けないとだめなので、選択授業でピアノを取ったりしています。それにもちろん保育の授業も取っています。

 私は2年生になってからハングル語の授業を取っています。これからもっと頑張って勉強して、ハングル検定を受けて資格を取りたいと思っています。私は大学にいくつもりなのですが、その後は韓国と日本の交流のために何かしたい、何か役に立つことをしたいと考えています。

――実際にこの授業を受けて、何か気づいたり学んだりしたことはありますか?

 「産業社会と人間」は人との出会いや、人の話を聞く機会がすごく多くて、最初はわけがわからないし興味なんかないと思っていました。でもやっていくうちに、おとなの人たちが真剣に話してくれるのだから自分も真剣に聞こうと思うようになり、そういう気持ちになったらどんどん面白くなっていきました。

ハンセン氏病や在日朝鮮人の人たちなどから自分が知らない世界の話をたくさん聞いて、勉強になることもびっくりすることもたくさんありました。そして、そうやっていろいろな人の話を聞くうちに、「ああ、そういう考え方もあるんだな」と思うようになりました。

たとえば友だちと一緒に保育士さんの話を聞いてそれぞれが発表するような機会もあったのですが、そういう時、友だちが自分とはまったく違う見方をしているのを知って、「ああ、そういう見方もあったんだ」と。だからこの授業を通して、考え方はひとつじゃないということに気づいたし、いろいろな考え方を認められるようになった、そのことが一番大きかったと思います。

 私はいろいろな職場を見たことで、今まで自分が知らなかった社会の仕組みを学べたことが一番大きかったと思います。たとえば入学したころは保育士になりたいと思っていたのですが、この授業で保育現場に行ったり保育士さんと話したりするうちに、保育士の仕事はただ子どもと楽しく遊んでいればいいのではなくて、親御さんとの関係も考えないといけないし責任もあるということを知りました。

交流体験ではホテルにも行ったのですが、そこで「ホテルではコップ一杯のオレンジジュースをとても高い価格で売る。そのためにはお客様にその金額で納得してもらえる接客をして、価値をどんどん上げる必要がある」というお話を聞いて、すごく大変な仕事だということがわかりました。

――授業で農業体験をするので、そういう方面に興味を持つ子が多いのかなと思いますがどうですか?

 いろいろな人の話を聞いて、人にはいろいろな考え方があると知っただけでなく、自分の考え方が変わった部分もあります。たとえば今までは嫌いな人がいても、それはそれでいいやと思っていたのですが、その人の考え方に興味を持つことで良い面を発見できることを知りました。授業を受けていなかったら、嫌いな人は嫌いなままだったと思うし、いろいろな面から物事が見られなかったような気がします。

 私は中学校のときは、何でも友だちがやるからやろうという感じでした。でもここに入って、自分から進んでやっていこうとしないと自分にとって面白いことには出会えないと思うようになりました。

それに、この学校では自分が吸収しようと思えば、いろいろなことを吸収するチャンスがあるし。そういう意味で積極的になれたと思います。

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