全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第48回第48回
キャリア教育実践レポート
「山形県のキャリア教育推進」Part.2
山形県立新庄南高等学校の実践レポート
「多様な進路希望実現に向けた活動を積極的に推進」
山形県立新庄南高等学校 進路指導主事
高橋 剛文先生
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山形県の普通科高校の中で、大学・短大から専門学校、そして就職と、多様な進路希望実現に向けた活動を推進しているのが新庄南高校だ。山形から電車で約1時間、北学区にある同校は普通科と総合ビジネス科を持った男女共学校で、進学希望者にも就職希望者にも幅広く対応。インターンシップ、オープンキャンパスへの参加などに力を注いでいる。
キャリア教育に対してどのように考え、他にもどのような取り組みを行っているのか、成果や課題等を含めて同校の進路指導主事の高橋先生に聞いてみた。
山形県の北学区・新庄市の南西部に位置
普通科と総合ビジネス科からなる普通科高校
本校の前身は大正3(1914)年創設の女学校(町立実科高等女学校)で100年近い歴史を持ちます。戦後の学制改革で現名称となり、しばらくは普通科、家政科、商業科の3学科編成でした。平成17(09)年に家政科が募集停止となるとともに、普通科への男子入学が増え、現在は普通科9(1学年3クラス)、総合ビジネス科3(1学年1クラス)の2学科12クラスからなる男女共学校として、新たな歴史を刻んでいます。
全校生徒数のうち約3分の2は女子、約3分の1が男子で、地元の中学校からの進学者がほとんどです。
「清楚 誠実 進取」を校訓として、「地域に開かれ、生徒の夢と個性が輝き、活力学校を目指して」を学校スローガンにしています。
産業を求めて地元を離れる傾向が顕著
生徒の多様なニーズに対応し、支援
本校は山形県北部の交通の要所で新幹線も開通した新庄市にあります。人口約4万人弱の田園地帯で大きな産業基盤や高等教育機関を持たないため、生徒が地元の進学や就職を希望しても、その受け皿はあまりないのが実情です。そのため、一部の生徒を除き、山形や仙台をはじめ、地域外・県外志向が強い傾向があります。
本校はそうした生徒のニーズに対応し、大学や短大、専門学校への進学、就職希望など、多様な進路目標を達成する独自のカリキュラムを策定し、実践しています。
普通科では多様な進路希望に対応できるよう教育課程を工夫するとともに、大学への合格者増を目指しています。総合ビジネス科では、ビジネスマナーや礼儀を身に着ける実践授業を大切に、地域を愛し、社会でたくましく生きていくための知識と技術、必要な資格(簿記や情報処理、ワープロなど)を取得することに力を注いでいます。
商業科の伝統を引き継ぐ総合ビジネス科で
インターンシップ(就業体験)を実施
キャリア教育に関しては、ただ単に高校を卒業してどこに進学するかといった目先の進路だけでなく、自分の人生をどの方向に進めれば真に充実した幸福なものにできるか、そこをしっかり考えて設計することが大切だと本校では考え、あらゆる進路を支援しています。
とくに、総合ビジネス科では、商業科の実践的学習の伝統を受け継ぐ形で、インターンシップ(就業体験)を毎年実施しています。数年前には、就職や専門学校志望の多い普通科1クラスでも、一時期、インターンシップを導入したこともあったのですが、新庄市内にそれほど多くの企業がないこと、また、進学希望者が増えてきて、勉強の方に時間を割きたいといった意向が強くなり、生徒と事業所両方の思いがかみ合わないことから、普通科では取りやめた経緯があります。
インターンシップは、地域企業や商店に
生徒たちが自分で電話をし、約束をする
現在は総合ビジネス科の1年生たち約40名が、11月の3日間、地域の企業へのインターンシップを行っています。平成22(10)年度は21の企業に受け入れを行っていただきました。
生徒たちは教員の指導のもと、10月ころから事業所へ連絡し、訪問日程の決定や仕事内容の打合せを各自で行い、さまざまな準備を経て3日間の就業体験に臨みます。事業所は新庄市内と近辺町村にある市役所や町役場、村役場、図書館、福祉施設、銀行、信用金庫、大手量販店(食品・衣料・電気など)、商店(かばん店・菓子店・生花店など)などです。
とくに、商業系の事業所では、本校のOB・OGが役職者となっていたり、長年活躍してきたりした経緯から協力が得やすく、例年、本校生徒にも高い評価をいただいています。地元企業で「事務職を採用するなら新庄南で」という声もよく聞かれ、それは本校の誇れるところでもあります。
社会人マナーや働くことの意義を感じ、
成長を示す生徒がほとんどで事業所からも好感
生徒たちはインターンシップを通して普段の授業とは違う「社会」に入り、さまざまな仕事に一生懸命取り組んでいます。
本校では1年次にインターンシップを行います。これによって、早い段階で職業への意識付けができていると感じます。同時期に2年生の修学旅行があるため、授業変更や巡回指導体制がつくりやすいというメリットもあります。
1日目は緊張したという生徒たちも、慣れてくると自分から仕事を見つけて率先して動いたり、企業の大人やお客様と接する中で、言葉遣いやマナーなど、普段以上に意識して身に着けたりすることが多いように見受けられます。
(生徒の感想は▼下記を参照のこと)
3日間の中で、必ず1日は担当教員が現場を巡回して生徒に声かけ、生徒、事業所ともに問題がないかを確認しています。さらに各事業者に対しては、インターンシップについてのアンケートを配り、実習全般の感想や学校への要望などを随時ヒアリングし、次の年に備えています。また、挨拶や礼儀などに関して入学段階から徹底した指導をしているので、事業所からは例年、快く受け入れてもらっています。
地域の職業人を招いた進路講演会
ボランティア活動などで地域とも交流
その他に、キャリア教育として普段実施していることは、地域の職業人やOB・OGを呼んでの進路講演会の開催です。公務員や自営業など、さまざまな職業人の仕事やそのやりがいなどの話を生徒に聞かせ、世の中に多様な職業があることに触れさせ、職業意識を高めています。
また、市内の清掃活動や地域向けパソコン教室の開催など、地域に貢献するボランティア活動も重視し、地域の人との交流を深めるようにしています。
挨拶の徹底は本校の伝統的なもので、地域住民から行儀の良い高校という定評を得ています。普段から、すべての生徒は廊下で先生とすれ違う時はもちろん、本校を訪れる方々に対して「こんにちは」の挨拶がとても自然に行われています。
野球やサッカー、バドミントン、弓道、バスケット、卓球、吹奏楽や演劇、書道、美術、ワープロなどの部活動も盛んです。
進学希望者に好評な「ジョイントセミナー」
大学コンソーシアムやまがたと連携して実施
一方、進学希望者に対して、本校では大学・短大でも多様な進路があることから、例年10月には「ジョイントセミナー」を実施しています。
これは生徒が興味と関心を示す教科領域・学問分野について、大学レベルの講義を体験できる機会を提供することにより、学習意欲を向上させるとともに、進路目標の明確化を図り、進路実現に向けて努力を継続できるように支援するものです。1・2年生全員と、強い希望がある3年生に向けたもので、10月前半の1日、5~6校時に行っています。
全部で10の系統の分野から1日限定で、それに関連した先生方を呼ぶとなると大変な労力が必要になりますが、本校は「大学コンソーシアムやまがた」(県内の高等教育機関と山形県の連合組織)と連携して、出前「大学等合同進学説明会」を本校において開催する形式をとっています。生徒の多様な興味に応えるための模擬授業を効率良く開催することができています。また就職希望者には、別に分科会も設けています。
県社会保険労務士会から講師を派遣いただき、社会で働く上で知っておきたいことなどを話してもらっています。
生徒たちは自分の興味・関心から2年続けて同じ系統の講義を聞く者もいれば、違った系統をあえて選んで参考にするものもいますが、自分の興味関心の方向性を確認する意味でも有意義な時間となっています。
進学希望者にはまた、地元および近県大学のオープンキャンパスへ積極的参加を呼び掛けています。夏休み以外で平日の授業がある時にも、この大学を見ておきたいという生徒の意志をできるだけ尊重し、可能な限り快く生徒を大学へ送り出しています。
進路指導は就職と進学両方に対応
模擬面接ではPTAや保護者の協力も仰ぐ
本校では国立大学から私立大学、短大、専門学校、就職と多様な進路を取る生徒に対応することから、進路指導部4人(専任2人と兼任2人)で対応していますが、3年生に対する指導は常に忙しい状態です。
3年生は前期に専門学校ガイダンスや公務員試験模試、就職ガイダンス、希望企業見学などがあり、9月以降は就職者が就職活動を始めるにあたっての模擬面接の実施、公務員試験開始、10月以降は就職試験が開始するとともに就職未決定者面談と続きます。
さらに11月頃からは大学や専門学校の推薦入試、AO入試、12月には看護系などの高専入試が行われますし、その後はセンター試験、私立大一般入試、国公立大2次試験と続くわけで、息をつく暇はありません。
そこで、たとえば模擬面接では、我々教員が対応する以外に、PTAの進路部から保護者の方10人程に協力していただき、面接官となっていただいています。
各企業の役員や人事担当者、元職員といった保護者が面接官なので、生徒は普段の先生方と相対するのとは違って緊張感に包まれ、まさに良き模擬面接の場となっています。本校はこのように地域に根差した高校として、父兄や保護者、OB・OGの協力も取りやすいのも良さといえるでしょう。
不況の中でも就職希望者の内定率は100%
就職先の調査と研究を丹念に行う
近年はリーマンショックに端を発した世界同時不況の影響で、高校生の就職事情も求人の激減などがあって厳しいのは確かです。しかし、本校ではフリーター・ニート予備軍はいません。就職希望者は例年、ほぼ100%内定を果たしています。就職内定の早さは県内随一と自負しています。
本校が結果的に好成績を残している成功の要因は、本校生の特色である「素直な賢さ」にあると思います。少ない求人の中で調査と研究を丹念に行い、自分の希望に沿う企業を探し出しています。担任の先生や我々進路課の指導を聞き入れ、自分にもっとも適した受験をしています。経済環境など社会現状を的確に分析し、自分の特長や実力を正確に捉えた上で、希望を修正しながら堅実な選択ができています。公務員試験に関しても効果的な併願パターンを各自で作成し、希望者の6割程度が内定を取るなど、確かな成果を上げています。
進学についても、推薦入試では山形大学をはじめとした国公立大学にここ数年は10名前後が合格しています。私立大学や短期大学についても多様な入試制度の活用とその対策が功を奏して合格状況は好調です。
全国的傾向と一致していますが、専門学校への希望者が減少し、大学への希望者が増える傾向にあります。これと連動して、平成22年度センター試験受験者では過去最高の90名(1学年約160名中)が受験するに及んでいます。
以前は国公立大学を目指しての受験が主でしたが、推薦入試で合格した生徒にも受験を奨励し、たとえ推薦入試に合格している生徒でも、学力維持と向上のために受験するよう勧めています。
また、職業に直結する専門学校選びでは絶対に失敗は許されません。そこで、本校は確かな進路実績がある専門学校を見極める努力を続け、今まで以上に慎重に選択する支援を続けています。
コミュニケーション力不足は
発表の場を多くして補う
生徒たちの課題として挨拶や礼儀マナーはしっかりしていても、近年の核家族化の影響により、他の年代層との関係が希薄でコミュニケーション力(対話力)が育っていない面が見受けられます。本校では各種委員会活動、生徒総会、進学者交流会などの場で、主体的に参加すること、また、できるだけ発表したり、意見を出したりすることを促しています。
そうしたことを教員が意識するとともに、地域や保護者の方の協力も仰ぎながら多様な年代との対話を積み重ね、卒業後にもスムーズに人間関係を形成できるようになることを願っています。
多様な進路希望に応え続けられる
存在感ある学校を目指す
就職状況を見ると、県内より県外が多くなる傾向は否めません。進学にしても山形や仙台をはじめ、地域の外に出て行く生徒が多いのは事実です。いったんは他の地域に進学・就職しても、できれば将来的に地元に戻って来て、地域のために貢献してくれる生徒が増えると嬉しいのですが、これは地元企業の受け皿がないという事情が関係します。ただ一部の金融機関や地元商店からは常に期待され、少数ですが本校卒業生が活躍し続けるなど伝統が引き継がれています。
今後とも本校は地域と連携の取れた高校、地域に根差した高校として、大きく目立たないながらも、確実に存在感ある学校であり続けたいですし、生徒一人ひとりが未来に輝けるよう、多様な進路希望に応えていきたいと思います。
●体験場所:新庄信用金庫 初日の感想(1年女子)
「今日は、初日だったのですごく緊張しましたが、仕事をしているうちに慣れて来て良かったです。応対マナー研修では電話の受付やおじぎの仕方など、たくさんの基本内容を学びました。電話の受付は思ったよりも難しく何度も苦戦していたところもありました。最後には、お札の数え方も練習しました。自分では、縦数えは普通にできましたが、横数えは難しくなかなか上手くできませんでした。今日、注意された部分は明日に生かせるようにしていきたいと思います」
●体験場所:鮭川中央公民館 初日の感想(1年男子)
「今日は、荷物運びや資料の整理など基本的な仕事が中心でした。その他には、子どもたちとの交流などがあり、とてもためになりました。僕は、事務の仕事ばかりだと思っていたけど、力仕事などいろいろなことがあるんだなと思いました。明日からは、もっとたくさんの仕事をこなして少しでもみなさんの力になりたいです」
●体験場所:丸井八文字屋 2日目の感想(1年女子)
「就業体験二日目ということで、初日よりもスムーズに動くことができたと思う。それでもまだミスは多いので、ミスを少なくかつ丁寧な仕事ができるよう次回はもっと意識して行動したいと思う。自分がしていることはまだ小さいことで、ほんの一部しか体験していないのだけど、仕事をするということは、気配りが重要なのだと思った。サービス業は客にサービスを提供する業務なので、日頃なんとなく気にしないような小さなことまで気にかけ、改善しなければならない。そういった小さなことまで気を配れる、そういったスキルも大切なのだと思った」