高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第75回

第75回
高校教育最前線ルポ(埼玉県春日部市)
春日部共栄中学高等学校
「クラブ活動と勉学の両立目指す教育
卒業生が学習支援などで協力」

インタビュー
春日部共栄中学高等学校 進路指導部部長
駒﨑 達一 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
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春日部共栄中学高等学校はクラブ活動が盛んだ。スポーツでは野球部、男女水泳部、男女バレーボール部、アーチェリー部、パワーリフティング部、文化系でも吹奏楽部、管弦楽部が強豪として全国に知られる。その一方で生徒のほとんどが4年制大学を志望し、国公立大に毎年多数の合格者を出す進学校でもある。「文武両道」を実践する本校の教育、受験とクラブ活動の両立などについて話をうかがった。

学習進度が異なる中学からの進学者は別クラス
「習熟度による緩やかなコース分け」を実施

▲駒﨑 達一 先生

本校は1学年約550名。併設中学からの進学者130~150名、高校からの入学者400名がいるが、両者は3年間別のクラスとなる。

「これは学習進度の違いが大きな理由です。中学は公立中学校に比べ週3時間ほど授業時間が多く、3年で国語、理科、英語などは高校の教科書に入るため、高校から入学の生徒と一緒に授業ができないのです。ただしクラスは別ですが、クラブ活動や体育祭は一緒で、受験を迎える段階では同じスタートラインですし、授業以外の講習なども一緒なので、関係は良好です。

高校では入学試験等の成績で緩やかな習熟度による選抜コース、特進E系コース、特進S系コースの3クラスに分かれ1年間学びます。習熟度の低いS系の生徒をE系のレベルに引き上げ、2年生のクラス編成では一緒にします。これは選抜コースも同様です。

2年からは選抜文系・理系、特進文系・理系に再編成します。国語、英語などは2年までにほぼ高校の課程を終え、3年には入試問題演習などを行います。問題演習では基礎事項に立ち返り確認しながらやっています。

月曜日の7時間目も授業を行います。選抜コースは月曜と金曜に7時間目まで授業があります。そのため月曜日はすべてのクラブが休みになります。7時間目で生徒を帰してしまうのはもったいないので、8時間目以降に英単語テスト、論文の演習、学年集会、キャリアガイダンスもやっています」

授業を補完する講習・合宿などのサポートが充実
今年度からは春日部駅前に自習室も設置

本校は4年制大学進学希望者が大多数を占めるため、さまざまな進学に向けた取り組みが行われているほか、数学オリンピック参加、英検、GTEC、TOEFL受験も盛んだ。

「もちろん普段の授業が一番大切ですが、講習、合宿など、勉強に関する取り組みをしています。本校はクラブ活動の制限をしていないので、充実した高校生活を送れると入ってくる生徒も多いのです。勉強も、クラブ活動も一生懸命にやる『文武両道』が本校の特徴です。

卒業後も本校にクラブの様子を見に来る卒業生も多くいます。そこで現役大学生による『卒業生特別講習』を始めました。教室で補習的な指導や入試問題を見てもらっています。大学や大学生活の話も聞け、生徒のモチベーションアップにもなります。

我々教員も、授業の補完や問題演習を行う講習『チームW』などを実施しています。クラブ活動参加者が多いので毎日、朝7時半からの0限を活用しています。

夏・春休みにも講習を行います。たとえば夏休みでは、ポイントを絞り、英語なら英単語だけ、構文だけという形で3日間のタームで5回の講習を行います。15日間、午前8時半から午後1時まで実施し、その後クラブ活動に参加するのです。夏期は約150講座に、実人数で1500名ほどが参加します。

夏休み講習の合間には、代々木オリンピックセンターのセミナーハウスを使い、3泊4日で朝から夜までの勉強合宿を行っています。講習のほか、自習時間や夏休みの宿題時間を作り、5教科の教員が質問も受けます。各学年100名で、1・2年が1回、3年が2回実施します。

また医学部志望者には、学年別で『医科教養講座』も開いています。

クラブ活動が盛んなので、1・2年生は予備校や塾に行く時間がないですが(笑)、3年で部活を引退すると行く生徒もいます。

しかし予備校の教材は負担になるので、苦手科目に絞った受講や自習室の活用を薦めています。本校で自習できるとよいですが、通学や安全面から夜遅くまで使えません。そこで今年度の3学期から春日部駅前徒歩1分のビルに2フロアを借りて夜10時まで使える自習室を作り、教師も常駐します」

海外修学旅行、留学など国際文化交流も活発
多彩な卒業生の存在や来校もキャリア教育に

本校では『世界に目を向けた教育』も大きな柱となっている。

「全員参加の修学旅行は、海外に行っています。現在はシンガポール・マレーシアですが、2年後からはオーストラリアです。事前に旅行先の言葉や文化を調べたり、高校を訪問する際の出し物の準備もします。

また文化交流として海外からの留学生を1年間受け入れており、今年はイタリアとチェコスロバキアから1名ずつ来ています。留学生は普通に日本の生徒と同じ授業を受け、食事や会話などの生活も日本の生徒と同じです。こうした交流が生徒の刺激になっています。本校生徒も毎年、1年もしくは半年間でアメリカなどに文化交流で留学しています。

夏休みのボストンでのグローバル人材育成プログラムでは、大学見学や、現地でのプレゼンテーションを行います。同様にシドニーでの海外研修もあります。異文化交流のKICプログラムでは、夏休み期間に海外から大学生や高校生を招き、本校生徒と一緒に日本の文化を研究しています。このほか海外からの見学、短期留学の受け入れも盛んです」

本校は本物に触れることを重視し、中学・高校合同で、各界著名人による講演会を年に数回開いている。

「最近では脳科学者の茂木健一郎さん、ノーベル化学賞の白川英樹博士、ニュースキャスターの井田寛子さんに来ていただきました。本校では1年次に外部から人を招いて、就職に止まらず将来の仕事まで見据えた講演会も開いています。さらに教師が卒業生を紹介し、卒業生も頻繁に本校を訪れますので、それもキャリア教育になっていると思います。

本校卒業生は、スポーツでは世界選手権やオリンピックのメダリストがいます。また作家や漫画家、舞台俳優、学問など、さまざまな分野で活躍する卒業生の存在が、生徒の励みにもなりますし、将来の展望を開かせてくれると思います。

大学院に進学する卒業生も多く、『大学までの人でなく、大学からの人に』という本校理念の実践になっています」

「クラブ活動と勉強は車の両輪のようなもの」
クラブ活動がコミュニケーション能力を培う

最後にクラブ活動と勉学の位置づけについての考えをうかがった。

「クラブ活動と勉強は車の両輪のようなものです。クラブ活動をやると縦の関係が非常に強くなります。大学に入った後、ゼミなどで人間関係を築くのに役立ちます。本校卒業生はゼミやクラブ活動などで中心となって活躍している人が多いのです。

勉強だけ3年間やっていると、自分のことや同学年のつきあいだけになりがちです。高校でコミュニケーション能力を付ければ、大学に入ってからも、うまくやれるし、特に医学部では必ず必要になる力です。

本校では高校時代の経験を生かし、スポーツ系ではプロに行く生徒もいますが、社会人アスリートとして活躍する人も多いです。また吹奏楽部は全国大会の合間にオーストラリアのオペラハウスやカーネギーホールなどで演奏し、管弦楽部もヨーロッパで演奏して海外交流もはかっています。そういうところからも自分の未来を切り開いてほしいのです。

本校には建学の礎として『至誠一貫』の言葉が校内至る所で掲示されています。誠実な人であれという意味です。最終的には、社会にしっかりと貢献できる人物になってほしい。卒業生から後輩へと、その精神を引き継いでほしいと思います」

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