高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第77回

第77回
高校教育最前線ルポ(東京都中野区)
明治大学付属中野中学・高等学校
「付属校のゆとりある教育(文武両道)が人間性を育み、
大学との連携教育が進むべき方向をバックアップ」

インタビュー
明治大学付属中野中学・高等学校 入試広報委員長
海老澤 貞行 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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明治大学の付属校として大学との連携を密に、中学・高校と6年間一貫教育(一部高校からの入学者あり)を行っている明治大学付属中野中学・高等学校。校訓の「質実剛毅・協同自治」を柱に、大学・社会を見据えた教育を実践してきた。現在は約75%の生徒が明治大学に推薦で合格し、残り約25%は他の大学を目指し受験するが、いずれの進路にも対応している。文武両道も特色で、高校3年の3月まで部活動や検定試験に打ち込む生徒も多い。礼儀・マナーを基礎に、高大連携も活発にキャリア教育によって未来を見据える。仲間や先輩との絆も強く、大学での就職活動にも中高で培った人間性が発揮されている。入試広報委員長である海老澤先生に、同校の特長や進路指導をお伺いした。

質実剛毅・協同自治を校訓に
知・徳・体を育て個性を伸ばす

▲海老澤 貞行 先生

本校は1929年(昭和4年)創立の旧制中野中学校を前身に、1949年(昭和24年)に明治大学の付属校となり、飛躍を遂げてきた中高一貫の男子校です。中野という都心にありながら、閑静な住宅街に囲まれ、心身を鍛え伸ばせる環境にあります。

「質実剛毅・協同自治」の校訓のもと、「みんなで仲良く、正直に、真面目に、精一杯努力しよう」を合言葉に、生徒一人ひとりの知・徳・体をバランス良く育て、個性を伸ばす教育活動を行っています。

高校には併設中学から約240名が推薦で入学し、高校からの入学者と併せて約400名、すべて普通科の10クラスです。中学入試も高校入試も例年、実質倍率は3倍を超えており、本校には追い風が吹いていると感じます。

2009年には創立80周年を迎え、その記念事業として教育内容のさらなる充実を図るべく、今も校舎建て替え計画が進行中。既に中学棟や高校棟は完成しましたが、2017年から18年にかけて1,000名収容可能な第二体育館、図書館や食堂などのある共用棟、グラウンドが完成する予定で、最新の設備が整います。

文武両道を掲げる本校では、大学での学問の完成を目指し、教育活動を3ヵ年、6ヵ年という長期スパンと、2年ごとの短期スパン(中1・中2=学習習慣の定着、中3・高1=基礎学力の充実、高2・高3=実践力の研鑽)の双方を導入し、バランスの取れたカリキュラムを構成。中学からの入学はもちろん、高校からの入学でも安心して学習に向かえるよう、内容豊富な講習や研修で学習意欲をサポートし、確かな学力と自らの意志で学ぶ姿勢を育んでいます。

中学からの生徒は5教科すべての学力向上に注力します。高校から入学した生徒は受験科目にあった英語や国語、数学には強いですが、理科と社会は少し弱い傾向があります。ただ毎年のクラス替えでは両方が混ざり合いますし、高2・高3で文理選択することで、センター試験にも十分対応できる学力が身につきます。

付属校として毎年明治大学への推薦入試による入学者は在籍者数の約75%、400人中約300人が進学します。

明治大の推薦入試では、国公立大学との併願が可能。そのため内部推薦の権利を保持して、国公立大学を目指す生徒もいます。

その他、指定校推薦で他大学に進学する生徒もいますし、一般入試で他の私立大学を志願する生徒もいて(その場合、明治大学は一般入試で受験することになります)、難関私大や医学部・薬学部に入学する生徒もいます。

大学との連携講座や進路セミナーが
進路決定と将来の目標につながる

明治大学の付属校として、大学で何を学ぶのか、将来を考える上で大学と連携したキャリアサポートは本校の大きな特徴です。

高校1年次には、「明治大学を知ること」を目的に各学部長による「特別進学講座」を行っています。10学部28学科という幅広い陣容を誇る明治大学から、自らの目標に合致する学科はどこか、生徒たちは大学の先生から直接伺った話によって選択できます。また高校に入学すると六大学野球応援に行くことで、明治の校風を体感します。

他にも高校では「法曹入門講座」「簿記講座」「語学基礎講座」などのほか、高2生対象に「明治大学農学部・理学部見学会」、高3生対象に興味ある講義を聴講できる「明治大学公開授業」などがあります。これらが進路決定に大変役立っています。

また、本校ではキャリア教育支援として、NPO法人「16歳の仕事塾」との連携により、2009年度から「進路セミナー」を実施しています。これは各方面で活躍されている社会人の方々を招くもので、高校1年と2年の2回にわたって実施。企業の第一線や専門職として活躍する社会人16人の教室から生徒は2つを選択し、2年間で計4つを受講できます。講師の方は自身の高校時代の話、仕事を選んだ理由、実際の仕事の業務、能力や適性について熱く語っていただきます。

セミナー終了後にアンケート調査を毎回実施しますが、「将来の夢や目標・つきたい仕事を見つけるヒントになった」と答える生徒が7割近くに及び、また社会人講師からも真剣に聞く生徒の姿が好評を得ています。まさに将来の「職業観」を身につける良い機会になっていると思います。

また、本校で培われた友情や愛校心は強く、卒業生は自然に後輩のクラブ活動を見に来たり、先生に会いに来てくれたりすることも多くあります。そういう機会に在校生に勉強のアドバイスをしてくれるなど、先輩やOBとの関係も緊密です。

時間厳守など規律ある校風が伝統
礼節のある人間性が社会でも評価

本校では、グローバル人材育成のための行事にも力を入れています。留学制度もあり、高2・高3では、アメリカでのキャリア教育とホームステイプログラム(希望制)を実施。ニューヨークやボストン、ロサンゼルスをめぐる14日間のプログラムです。プログラム内容は随時変更されます(2017年は世界情勢の影響で残念ながら中止)が、単なる語学研修ではなく海外のコミュニケーションを通じて異文化の考え方や視点を学び、理解を深められる内容です。これを契機に、明治大学進学後の留学を計画する生徒もいます。

文武両道を大切に、厳しい練習で強靭な身体と精神を育む部活動に関しても活発です。野球部やサッカー部、ラグビー部といったメジャーな部活動はもちろん、本校には射撃部や水球部、アイスホッケー部、ゴルフ部、相撲部など他校にはあまりない部活動、放送部や音楽部など文化部も活発で、全国大会で好成績を残す生徒も多くいます。運動部は校外施設も利用しながら打ち込んでいますが、その分時間厳守による行動力と日々のけじめ・挨拶が身につき、共通の目標を目指して生まれる友情や連帯感は一生の宝になっています。

本校は普通に勉強して一定の成績を残せば明治大学に進学できるので、中学生の9割以上が部活動に励み、高校でも継続する生徒がほとんど。生徒はいろいろな個性と出会い、先輩・後輩とのつながりや規律ある生活を送る中で、協調性や思いやり、リーダーシップ、忍耐力などを培っています。そして部活動と勉強を両立していくことで、効率の良い時間の使い方を身につけることができます。

高1の移動教室(林間学校)、高2の修学旅行、毎年の文化祭、体育祭など、豊富な校外学習も特徴。このような様々な経験が「受験勉強だけに追われた人にはない経験が自分にはある」という自負となり、前向きに挑戦する心を育てていると感じます。

明治大学の推薦を目指す多くの生徒は、推薦入試の面接が1月にあるので、身だしなみを整え、面接対策なども入念に行いますが、合格になって燃え尽きることもありません。受験が一段落しても毎日登校して英語はTOEICの点数アップのための勉強をしたり、理系ならば時間をかけた実験をしたり、最後の最後まで大学につながる勉強と好きな部活動の両立を図っていくことができます。

よく“就職に強い明治”と言われますが、明大生は学力と共に、その人格も高く評価されています。

本校の生徒も明大卒業後、金融や商社、放送局など、多様な業界で活躍していますが、人事担当者から高い評価を受けるには理由があります。その第一は礼節やけじめを育てる要として、規律に厳しい校風にあるでしょう。

例えば朝の学校が始まる10分前には校門が閉まります。時間ぎりぎりではなく、常に余裕のある行動を習慣づけるためのルールです。また男子校なので男女で指導法を変える必要もなく、一貫した指導に生徒も納得しやすいともいえます。時間だけでなく、礼儀正しい挨拶は他人に敬意を抱く心を育て、人の話にしっかり耳を傾ける態度につながります。

こうした人としての基本を中学・高校から継続的に培ってきていることが、就職採用の面接でも評価されるのでしょう。本校の卒業生が付属校での環境でのびのびと過ごしながら、社会に出てからも愛されるのはこうした指導の賜物と感じます。

今後は本校の基本姿勢は変えることなく、時代に対応していくことが課題といえるでしょう。2020年には、センター試験改革としてマークシートから記述式に試験が改まると言われる中で、本校では中高一貫校としてそうした対応への期待感も高く、授業の中身を検討していくことが望まれています。

その一方で、全教室にWi-Fi環境を整えており、プロジェクターにインターネット画面を映した教育も実践していますし、今後もタブレットなどのICT教育環境やグループ学習にも対応しやすい点は強みと感じます。

ゆとりある環境は、勉強にせよ部活動にせよそれぞれの頑張りをみんなで応援し合うなど、温かな人間性につながっていると感じています。今後も社会で愛される良き人間性をもった卒業生を、大学そして社会へ送り出していきたいと思います。

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