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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第24回

第24回
二つの放課後
(後編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私学志向には勢いがあるようにみえる。難易度の高い大学への進学実績も上がっているのではないだろうか。

このような事態がすすめば、政治・経済・文化の各分野で指導的な立場の人々のなかに私学出身者が相対的に多くなるだろう。地域社会暮らしと縁遠い生き方をしてきた人々が、この社会の動向を左右するようになるわけだ。

戦後の一時期までのエリートのなかには自分の立場の偏りについて率直に語る者もいた。地域社会における暮らしの記憶がそのような自覚を促したように思われる。そしてそれが、良い意味でも悪い意味でも指導者意識を育んできたのである。

しかし、もはやそのようにしてかたちづくられる指導者意識を想像するのは難しくなっている。学齢期から地域社会と縁遠い生き方をしてきた者には、自分と異なる境遇の者たちへのリアルな感覚を期待することはできない。その指導者意識は、最近の若手政治家にみられるように、きわめて図式的なものに止まるだろう。これは実に困ったことではないだろうか。

講義では、小学生を対象とした活動や施設についても紹介する。文部科学省の「地域子ども教室」や、全国的に有名な「学社融合」の事例の千葉県習志野市立秋津小学校を取り上げてきたけれども、考えてみると、小学校から私学へ通ってきた学生たちにとっては実感することの難しいものなのかもしれない。

テレビ番組では盛んに、地域社会の暮らしを博物館の展示物(野外博物館という概念もある)のように紹介している。このような番組を鏡として考えれば、地元の公立学校へ通う多数派の子どもたちもまた、私学へ通う子どもたちと似た環境を生きていることになる。

二つのタイプの子どもの放課後は、厳しい未来社会を予感させるものだ。わたしの講義は役に立っているのだろうか。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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