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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第35回

第35回
若者を地域の担い手に
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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地域の子どもの面倒をみる仕事に就いた若者に話を聞く機会があった。大学卒業後、非常勤職を続けて最近、団体の常勤職員になったという。大学で身につけた専門的な知識と技術を生かして魅力的な活動プログラムを提供する姿が想像された。

ただ、わたしが注目したのは、その若者の月給が16万円という話を聞いたことだ。非常勤職のときよりも低額になったという。これでは都会で一人暮らしは難しいだろう。自立が無理な賃金だ。そうはいっても、今後の昇給が見込めれば、それを期待して将来の生活設計ができないものでもない。ところが、じっさいには昇給には期待できないようだ。とすると、現在の生活に安定が求められないばかりか、将来に希望をもつことも難しいではないか。

たとえば、高度経済成長期以降にひろがった児童館についてみると、地方自治体の児童福祉施設であり、そのスタッフは公務員だった。保育士資格や教員資格を条件に専門職採用をしてきたところもある。

ところが、それが、地方自治体の財政破綻と共に民間団体に運営が委託されるようになった。その後、行政施設の指定管理者制度が始まると、社会福祉法人や特定非営利活動法人へ委託されるようになった。そのせいで、スタッフの待遇は一挙に、公務員とはかけ離れたものになったわけだ。

日本の社会では、公益的な仕事に従事する、20代の若者に対する評価は、この賃金の程度なのか。もちろん、16万円という金額が妥当かどうかは即断できない。児童館や学童保育、学校施設を利用する全児童対策事業などの必要性についても、さまざまな意見があることだろう。しかし、そういう問題はさておいても、はっきりしているのは、このような境遇の若者たちには将来の生活の見通しが立たないということだ。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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