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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第39回

第39回
団塊世代の地域デビュー
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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この数年、お役所は団塊世代に注目している。定年退職者を地域活動の人材として活用できると期待するからだ。

高度経済成長期によって地域活動の担い手がいなくなると、地域社会は惨憺たる状況になった。地方自治体の行政施策は住民の合意と協力を得てはじめて可能となる。その相手がいなくなってしまったのだから行政は困ってしまったが、幸いにもこの時期には増収による施策の拡大によってまかなうことができた。それが難しくなったところへ、最近になって、企業で働いていた主に男性が地域社会へ帰って来るようになった。行政にとっては、これほど好都合なことはない。

首長などの要職にある人が考えるのは、ボランティアセンターを立ち上げて、団塊世代に登録を呼びかけ、人材を確保しようとするといったアイデアだ。ただ、すでにシルバー人材センターなどの仕組みがある。屋上屋を重ねるようにしてボランティアセンターを設けて、どうするのだろうか。

行政にすれば、住民に分かりやすいかたちで新しいことをやらなければならない。そこで、こういうことを考えるのだろう。行政施策の手法は相変わらずだ。それに加えて最近では、机上でアイデアをまとめる方法が流行している。下々の事情とはあまり関係なく、いかにもそれらしいプランを手際よくまとめるわけだ。団塊世代の活用策もこのような行政施策の動向の中にある。

そもそも定年退職後、悠々自適の年金生活をおくる人がどれほどいるだろうか。メディアの調査などによれば、決して多数派ではない。それでも、そういう人たちはいる。そのことは認めよう。

さて、そこで、ボランティア登録を求めたとして、それに応えて登録した人がいるとする。しかし、その先が問題だ。これまで企業で働いていた人が、そのまま地域で活躍することができるようになるとは思えない。新しい一歩を踏み出すためにはトレーニングが必要だが、それは、文書にまとめられたマニュアルでは難しいだろう。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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