EYE's Journal

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8-2

シリーズ8 専門学校の実力
Part.2
専門学校の就職支援
綿密な就職指導や授業で学生をサポート

編集部
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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Part.1で見てきたように、専門学校は企業の採用環境が厳しいときでも高い就職率を維持してきている。では、専門学校はどのようなかたちで学生の就職支援を進め、高い就職率を実現しているのだろうか。今回は、専門学校の就職支援の内容やその考え方などについて、具体例を中心に探っていくことにする。

学校主導型のサポートから
学生の主体性重視まで幅広い対応

専門学校が就職に強いのは、基本的には各業界が求める知識や技術を身につけた人材を育てているからだ。ただ、それだけで高い就職実績を維持しているわけではなく、就職指導、授業、資格取得などさまざまなかたちで学生の就職支援を進めている。それらについて見ていく前に、まず専門学校の就職支援のスタンスを確認しておこう。

専門学校は、学校側が学生の就職活動全般にかかわる度合いが強いといわれている。狭い意味での就職活動、つまり企業選びからエントリー、選考試験という過程は、大学では学生本人に任せているケースが多い。とくに、インターネット上でのエントリーが主流となった現在は、大学生は受けたい企業の情報を探し、どんどんエントリーしていく。

専門学校の場合、大学とほぼ同様というところもあるが、企業選びから採用試験に至る過程でかなり密接に学生をサポートするところが多い。なかには、就職活動を学生任せにはしないで、学校主導で進めていくところもある。

たとえば、東京スクール・オブ・ビジネス、東京観光専門学校などを運営する安達学園グループでは、同学園のすべての学校で、学校主導の就職支援を行っている。同学園東京マーケティング部・武山大自氏によると、これは同学園が就職支援も教育の一環と考えているからだ。学生は将来なりたい職業があって入学してくるわけだから、授業で知識や技術を教えることにとどまらず、希望の就職を実現できるようにサポートし、社会に送り出していく。そこまで含めての教育、と考えている。

具体的には、学生の希望を業界だけでなく職種まで掘り下げて確認したうえで、学生と担任、就職担当者が同学園に寄せられる求人の中から候補となる企業を選び、応募する。そして、内定が決まるまで細かく学生をフォローしていく、というスタイルをとっている。

一方、学生が主体的に就職活動することを重視するところもある。たとえば、東洋美術学校では、学生が就職活動に取り組むための支援やアドバイスをしっかり行ったうえで、学生が自主性を発揮するよう指導している。

「当校にはたくさんの求人票が寄せられますが、学生はそれを受け身で待つだけでなく、インターネットで採用情報を探すなど自ら積極的に動いてほしいと思っています。それは、就職活動だけでなく物事に対して自分から主体的に動く姿勢を身につけてもらいたいからです。そうした姿勢を身につけることが、実際に仕事をしていくうえでも必要だと考えています」(キャリア支援部、高澤洋主事)

こうしたスタンスの違いは、それぞれの学校の教育方針によるものであり、どのようなかかわり方であっても、学生が希望に沿った就職を実現できるように支援することに違いはない。

入学時から就職への意識を高め
内定まできめ細かく支援

就職支援の進め方は各学校によって多少の違いはあるが、2年制課程を例にとると一般的なパターンは次のようなものになる。

まず1年次の入学早々に、全体的なオリエンテーションの一環として、あるいは入門的な就職セミナーなどのかたちで就職についての基本的なガイダンスを行う。この段階では、就職に対する考え方、就職活動の概要、就職支援のスケジュールや内容などを説明し、就職への意識付けをしてくことが主眼となる。

本格的な就職支援が始まるのは9月から10月頃だ。就職ガイダンスを開き、就職活動の進め方、心構え、その年の採用動向、就職支援の詳細な内容などを説明したり、内定している2年生が体験談を報告したりする。

その後、早いところでは11月~12月頃から企業を招いて説明会やセミナーを行う。これは年明けの1月~3月頃まで行われるが、さまざまな業界が集まるもの、特定の業界に絞ったもの、個別企業が行うものなどがあり、学生は関心のある企業の話を聞くことができる。また、1月~3月頃には、就職模擬試験、模擬面接なども随時行われる。そして、3月あるいは2年次の4月には本格的な就職活動に入っていく。クラス担任や就職担当者は、この過程を通じて随時、学生の個別相談に対応するとともに、選考過程に入ったあとも内定が決まるまでフォローしていくことになる。

校内で入社試験を受けられる制度や
完全就職保証制度なども

就職支援の流れはおおむね上記のようになるが、その中で学校ごとに特色ある支援をしている。

たとえば、日本工学院は独自に作成した「キャリアサポートブック」を入学時に学生全員に配布している。

「入学当初から就職に対する意識付けをしていく目的で、就職のすべてがわかる冊子をつくって学生に渡しています。内容は、就職の年間スケジュールから、学科ごとの求人のヤマ場やそれに対応して行う合同企業説明会、自己分析、応募書類の内容、試験対策、エントリーシート、企業訪問時の服装、内定後の挨拶状など細かなことまで載せています。学生にとって就職活動は初めての経験なので、わからないことがあればすぐ見ることができるようにしているのです」(キャリアサポートセンター、永持智子課長)

学内で「校内入社試験」を受けることができる学校もある。たとえば、日本電子専門学校では毎年、70社以上の有力企業が採用選考試験の一部を同校で行っている。

「校内入社試験は、希望する学生は全員受けることができます。試験は採用選考の1次試験に相当するものになり、内容はSPI試験、面接、作品審査、プログラム試験など企業ごとに異なります。いつも勉強している教室で受験できるのでリラックスできること、その場で作品などへの評価を聞けること、企業がどのような人材を求めているか実際の試験でわかること、合否が早めにわかるようになっていることなどメリットは多いと思います。

必ず合格するわけではありませんが、もし不合格になっても、実際の選考試験の経験を次に生かせると思います」(就職部、子安純氏)

就職支援をさらに進めたものとして「完全就職保証制度」を導入している学校もある。たとえば、東京ネットウエイブでは、もし卒業までに就職が決まらなかった場合、卒業後も無償で授業を受けたり、よりクオリティの高い作品を制作して就職活動に活用するために実習室や機材を使うことができたりする。学生は就職をめざして同校に入学してくるので、それを実現できるまでサポートするのが目的だ。

同校の場合、ほとんどの学生は卒業時までに就職が決まるので、実際に制度を利用するのは数人程度となっている。しかし、こうした制度があることで、学生は安心して勉強や就職活動に取り組んでいけるという。

通常の授業に就職対策科目を設定 
自己表現能力を高める授業形式も

専門学校では、授業を通じて就職支援を行うことも多い。そもそも専門学校が就職に強いのは、冒頭でも触れたように、各業界で必要となる知識や技術を体系的に教えていることがベースになっている。しかも、就職担当者が企業を訪問した際などには、いま企業が何を求めているのかをキャッチし、その情報をカリキュラムにフィードバックするなど常にフレキシブルな対応を図っている。さらに、より直接的な就職支援につなげるため、授業も工夫をしているのだ。

内容や実施方法は学校ごとにさまざまだが、比較的多いのは授業科目の1つとして就職対策科目などを開設するパターンだ。

たとえば、東京スクール・オブ・ビジネスでは、就職対策カリキュラムを設け、仕事に対する意識付け、自己分析、ビジネスマナー、自己PR、業界・企業研究、エントリーシート・履歴書作成、筆記試験対策・面接対策など実践的な内容の授業を行っている。

また、学校によっては、さまざまな分野で活躍している第一線の職業人を招くセミナーを授業科目として設定し、それぞれの職業への理解を深めていくところもある。

あるいは、授業そのもののしくみで就職支援をしているケースもある。たとえば、東京IT会計専門学校や専門学校日本スクールオブビジネスなどを運営する立志舎は、すべての学校、すべてのコースで「ゼミ学習」というシステムを採り入れていて、それを就職支援にもつなげている。

「ゼミ学習というのは、クラスの学生を6~8人のグループに分けて、ゼミ形式で勉強するものです。まず先生が講義をして、それについてグループごとに学生がディスカッションします。その後、みんなで問題集を解いてみるなど演習を行います。仲間同士でディスカッションしたり、教え合ったりすることで授業の理解を深めるのが目的ですが、こうしたスタイルで学ぶことは就職活動にも役立ちます。日頃から自分の考えをまとめて相手に伝えることが身についているので、面接でもスムーズな受け答えができるようになるのです。

とくに最近は、採用選考でグループディスカッションを行うところが増えていますが、そういうときにもリーダーシップを発揮して積極的に発言できるので、企業からも評価されています」(立志舎就職部、中野秀秋部長)

内容や方法はさまざまだが、授業を通じた就職支援も専門学校の特色であり、高い就職率を保つ要因の1つになっているようだ。

企業は資格取得の努力を評価
授業や講座でバックアップ

就職に際しては、資格を持っていると有利だといわれる。医療職のように資格がないと仕事に就けないジャンルは別にして、一般企業への就職の場合でも、実際に資格を持っていると有利になるのだろうか。答えは、基本的には「イエス」だ。前出の立志舎就職部・中野部長は次のように説明する。

「企業の人事の方に話を聞くと、資格そのものを評価するというよりも、資格取得という目標を定め、そこに向かって努力し、目標を達成したという事実が、その学生を評価する材料の1つになっているようです。専門学校で一生懸命、資格取得に取り組むこと自体が大切なのです」

このため、各専門学校は就職支援につなげていく意味でも、学生の資格取得をさまざまな方法でバックアップしている。

専門性が高い資格で学科・コースごとの系統立てた学習が必要な場合は、カリキュラムそのものを、資格取得をめざす内容にしいることが多い。日々の授業の積み重ねで資格に近づいていくわけだが、担当教員が各学生の理解度を確認したうえで弱点を補強できるようにしたり、個別にアドバイスをしたりするなどきめ細かなサポートも行っている。

特定の学科・コースに限らず、比較的幅広くチャレンジできる資格の場合は、カリキュラムの一部に対策科目を設けたり、試験日が近づく時期に対策授業を行ったりするケースなどがある。

一方で、通常の授業ではなく、課外で資格講座を開設したり、資格取得を支援するセンターなどを設置したりしているところも少なくない。

観光系で増えるデュアルシステム
本格的実習は就職にも有利

大学・短期大学にはない、専門学校ならではの教育制度として、デュアルシステムがある。これは、厚生労働省が2004年度から「日本版デュアルシステム」として導入したもので、教育機関における座学と企業での実習を組み合わせて職業教育を行うもの。企業での実習は、デュアルシステム用の雇用契約を結んで報酬を得ながら働くのが特色だ。

このデュアルシステムは、まだそれほど多くの専門学校が導入しているわけではないが、観光・旅行系の専門学校では導入するところが増えてきている。これは、①実践的な知識や技術を身につけるためには現場での実習が重要であること、②企業側でも実習というかたちであっても安定的に仕事ができる人材を求めていること、③ホテルなどの場合は夜間も仕事があるため実習時間を設定しやすいこと、などが背景にあるとみられている。

では、具体的なデュアルシステムの事例を見てみよう。

JTBトラベル&ホテルカレッジは、2008年4月から夜間部に国際旅行ビジネスデュアル科を開設した。同校学生募集部・布施雅人課長によると、導入の主な理由は、従来の夜間部では授業時数の関係で専門士の称号が得られないが、デュアルシステムなら企業実習を単位認定でき、専門士の称号を得ることができるようになることだ。

現在は、1年生と2年生がそれぞれ30数名ずつデュアルシステムで学んでいる。企業実習としては、年間約3か月間が当てられているが、それ以外の期間の昼間は基本的に自由。しかし、本人にアルバイトの希望があれば、可能な限り同校が観光系企業を紹介するシステムになっている。まだ卒業生は出ていないが、就職先は実習先企業を含めて自由に選ぶことができる。

国際観光専門学校東京校は、2003年10月から日本版デュアルシステムのモデルケースとして取り組みを開始。現在は、国際ホテルデュアル学科で約40人、航空貿易学科・航空貿易デュアルコースで約10人の学生が学んでいる。学校での授業は月曜から金曜の12時20分から15時30分の間に2コマずつ設定され、実習先では17時から22時ぐらいまで仕事をするのが基本パターンになっている。

同校は、これまでのデュアルシステムの成果を踏まえて、2010年度から校名を国際デュアルビジネス専門学校に変更。希望すれば全員がデュアルシステムの実習を受けることができるようにする。

「デュアルシステムをいち早く導入したのは、給料が支払われる実習は、仕事に取り組む意欲や責任感をより高めることにつながると考えたからです。ここまで、デュアル学科・コースの希望者も多く、本格的な実習を経験することが就職にも有利になっています。そこで、来年度からはデュアル学科・コース以外の学生にも、デュアルシステムの実習を選択教科として設定し、希望すれば誰でもデュアルシステムで学ぶことができるようにしたのです」(高野和夫校長)

専門学校ならではのデュアルシステムは、着実に成果をあげつつあり、今後は裾野の拡大が期待される。

厳しさが続く就職環境の中で
学生のモチベーション維持に配慮

最後に、企業の採用環境が厳しくなったことへの専門学校の対応について触れておこう。

昨秋のリーマンショックに端を発した経済危機は、就職戦線をも直撃。企業の採用意欲は冷え込み、ここ数年、学生側の売り手市場ともいわれた状況は一変した。そうした採用環境の中で専門学校がどのような対応をしているのか、注目されるところだ。

しかし、少なくとも今回の取材の中では、特別な対応をしているといった声はあまり聞こえてこなかった。

それも仕方のないところだろう。特定の業界が不振といった状況なら、ほかの業界の求人を積極的に開拓することもできるが、ほとんどの業界・企業の採用が縮小するような状況にあって、個別の学校にできることには限りがある。これは専門学校だけでなく、大学も短期大学も同様だ。

ただ、1つの傾向として、学生のモチベーションを維持させることに、従来以上に気を配っているようだ。エントリーや1次選考で苦戦したり、最終選考までいっても不合格になったりすると、学生はどうしても落ち込んだり、マイナス思考になる可能性が高い。そうしたとき、これまで頑張ってきたことを思い返させたり、先輩などのアドバイスを聞く機会を設けたりして、再びモチベーションを高めていく配慮をしているところが少なくない。

2011年卒の就職戦線が動き始めたこの段階でも、採用環境が好転する兆しは見えてこない。しかし、専門学校は就職氷河期でさえ80%近い就職率を維持した実績がある。今回も、その実力が発揮される可能性は高いのではないだろうか。

《Part.3 につづく》

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