都心の専門学校ならではの、特色ある学科やコースを取材
18-2第18回 vol.2
音楽総合アカデミー学科【4年制】
(後編)
(東京都文京区)
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全国から入学者を集める東京の専門学校にスポットをあて、教職員インタビューを通じてそのカリキュラムに迫ります。
今回は、尚美ミュージックカレッジ専門学校の音楽総合アカデミー学科について、同学科科長の山本正壽先生に尋ねました。
――演奏や作曲ばかりでなく、音楽ビジネスを学ぶコースもありますね。
音楽が好きで、やはり音楽を仕事にしたいという思いから、音楽事務所や音楽系出版社への進出を目指して学んでいるのが音楽ビジネスコースの学生です。音楽総合アカデミー学科の中で、唯一、就職の言葉が相応しいコースですね。
このコースの特徴を理解してもらうためにも、「春日組」についてお話ししたいと思います。
春日組は、音楽ビジネスコースと2年制のミュージックビジネス学科の学生によって運営される学生組織です。その主な任務は他コース・他学科の学生のデビューをバックアップすること。1年に2回、学内のデビューセンターと協調してオーディションを開き、学生目線でプロデュースできそうなエンタテイナーを発掘します。
尚美の学生ならだれでもエントリーできるこのオーディションは、音楽業界の関係者を集めた先のオーディションと区別して「S-1オーディション」と呼ばれ、審査の基準は学生主体の春日組に委ねられます。
オーディションを通過した学生のデビュープランを練り、ライブやプロモーションビデオの企画・制作、また、春日組が定期的に発行する音楽情報誌「レコメンダー」で取り上げるなどして、メジャーシーンでのデビューをサポートします。
春日組の活動が、音楽産業で行われているオーディション、リリース&プロデュース、そしてデビューに向けたステップと変わりないことに気づいていただけたのではないでしょうか。
――演奏系のコースに入学して、途中で、たとえば音楽ビジネスコースへの変更を希望するケースもあるのでは。
上級学年になってからの変更はカリキュラム上、難しい面もありますが、たとえば1年から2年への進級時であればそれも可能です。
――音楽総合アカデミー学科の学生数は。
2010年6月現在で235人。1年と2年がそれぞれ30人強。3、4年生が各80人ほどの構成です。
上級学年の方が多いのは、尚美の他学科の学生はもちろん、音大卒業者などに3年次編入の窓口を開いているからです。
自分をプロデュースする術を身につけるために、音大を卒業した後で編入してくる学生が少なくありません。それは大学では学べなかったということでしょう。
同じく4年制の学校であっても、音大と音楽総合アカデミー学科のカリキュラムがまったく異なることは、音大から編入してくる学生たちが一番よくわかっているのではないでしょうか。
文部科学省が公表する「高度専門士の称号を付与できる専修学校専門課程(平成22年2月告示現在)」から、音楽系と思われる学科を探してみました。
高度専門士とは、4年制専門学校の卒業者に与えられる称号です。ピックアップできたのは5校5学科。うち3校はコンピュータの学校として知られる専門学校HALの東京校・名古屋校・大阪校のミュージック学科で、ここは、ゲームサウンドなどを制作するエンジニア、クリエーターの養成が目的であるようです。残り2校は、今回取材した尚美ミュージックカレッジ専門学校の音楽総合アカデミー学科と、東京スクールオブミュージック専門学校の高度芸術学科。いずれもプロ演奏家を目指す者を集める東京の学校です。
「天才は1%のひらめきと99%の汗」は、努力の大切さを説いた発明王トーマス・エジソンの有名なことばですが、こと音楽や美術、演劇などの技芸の世界においては、努力のほかに“運”を忘れるわけにはいきません。努力を重ねて抜きんでた技能を身につけたとしても、その技能が、運良く第三者に見いだされないことには「知る人ぞ知る」で終わりかねないからです。
なすべき努力の道筋を示すことに、学校はとても長けています。順次ステップアップする実習や、その裏づけとなる知識や教養を高める科目などで編成されたカリキュラムは、まさに道筋にほかなりません。けれど、成功のもうひとつの要素である運はあくまで個々人の問題。学校の関与するところではありませんでした。
デビューを夢見て街角ライブやデモテープで努力する音楽好きの若者に、尚美ミュージックカレッジ専門学校の音楽業界人を前にしたオーディションは、まさに運を開くチャンスに思えることでしょう。つかみ所のない運の、そのつかみ方にまで踏み込んだ、専門学校ならではのカリキュラムがここにありました。