都心の専門学校ならではの、特色ある学科やコースを取材
22-1第22回 vol.1
野生動物保護専攻〔2年制〕
(前編)
(東京都江戸川区)
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全国から入学者を集める東京の専門学校にスポットをあて、教職員インタビューを通じてそのカリキュラムに迫ります。
地球上に棲息する生物は知られているだけでも140万種以上。その10倍以上の存在をとなえる説もあります。いずれも、棲息する域内で影響し合いながら進化、長らえてきた命です。しかし、人間による行きすぎた開発によって存続が危ぶまれる種が少なくありません。
野生動物保護専攻――主にペットを相手にした職能を養う学科やコースに混じって、異色の専門学校を見つけました。何を学び、どのような将来像を目指すのか。東京コミュニケーションアート専門学校(東京都江戸川区)の同専攻で、講師を務める動物写真家の久田雅夫先生に聞きました。
――野生動物にスポットを当てた専門学校は、全国的にもめずらしいですよね。
ひと口に野生動物保護といっても、そのアプローチの方法はさまざまです。絶滅のおそれがある動物を人工的に繁殖させて野生に還すのも保護活動なら、動物の棲息環境の保全に取り組むのも、人と野生動物の共存のあり方や生物多様性の理念を人々に伝えるのもその一環。私は写真家として、長崎県の対馬にしか棲息しないツシマヤマネコや、ツキノワグマをはじめとした東京の野生動物の撮影をライフワークとしてきましたが、それは、一人でも多くの人に、この地球は人間だけのものではないことを知ってもらいたいから。もちろん、野生動物を保護したい一心です。
愛玩動物なら、飼育や看護、訓練、美容などの需要に向けて、技能をわけてカリキュラム化することができますが、相手が野生動物となるとそうはいきません。そもそも訓練や美容とは無縁だし、ある程度の看護や飼育の知識が必要な場合はあっても、決してそれが目的ではない。
野生動物保護は、きわめて精神性の高い取り組みです。絶滅危惧種に数えられる希少動物の例をだすまでもなく、動物を、あえて保護しなければならないような現状を招いたのはすべて人間ですからね。つまりそれは、これまでの私たちのものの見方や考え方を変えるところから始めなければならないわけで、専門技能を養って社会に送り出すことを目的とした専門学校には、馴染みにくいのではないでしょうか。
私の知る限りでは、野生動物の保護に携わる人材養成を目的とした専攻をもつのは、この東京コミュニケーションアート専門学校のほかに北海道、名古屋、大阪に各1校。いずれも本校の姉妹校です。
――馴染みにくいテーマを、どういったプログラムを通して学ぶのですか。
科目としては生物学にまつわる科目が多いですね。「動物の体のしくみ」「両生類・爬虫類学」「基礎生物」「生物分類」「野鳥学」「動物行動学」「植物学」「海洋哺乳類」などは動物保護に携わる際に必要な最低限の知識です。また、環境にまつわる科目も少なくありません。「里山の生態」「環境保全学」「環境アセスメント」などがそうですね。
技術的な側面はフィールドワークを通じて身につけます。野生動物の保護は、その実態調査が不可欠ですから、アウトドアで観察や調査を実践しています。
――先の高い精神性は、どのように養っていくのでしょうか。
絶滅危惧種だから、希少動物だから「保護する」では、単に現状をとらえての行動方針に過ぎず、生涯をかけて保護活動に尽くそうと思うような、危機感や使命感を芽生えさせるのは難しいのではなでしょうか。ライフワークとして保護活動に取り組もうという意欲は、知るだけでなく、何をすればいいのか自分で導き出してこそ芽生えるのだと思います。
そのために私は、事あるごとに自分が動物写真家になるきっかけになった経験を話したり、動物保護にまつわる矛盾を話したりして、学生に、生物多様性を自分にも身近な問題としてとらえることができるような、そんな機会を与えているつもりです。
《つづく》