高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第23回

第23回
キャリア教育実践レポート
「栃木県のキャリア教育研究開発推進」Part.3
栃木県立栃木商業高等学校の
実践レポート(1)

インタビュー
栃木県立栃木商業高等学校 商業科主任
杉本 育夫先生
特活部長 本島 通宏先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

商業高校の伝統校で取り組まれる
ユニークなキャリア教育

▲杉本 育夫 先生

栃木県栃木市は2004年度からの3年間、文部科学省から「キャリア教育推進地域」に指定された。このことを受けた栃木県は、栃木市と連携し、栃木市内の小学校3校・中学校2校・高校3校にキャリア教育の実践的な研究を委嘱。その中で栃木県立栃木商業高校(小二田悟朗校長)は、キャリア教育地域実践協議会の事務局担当校としてユニークなキャリア教育を推進。

▲本島 通宏 先生

同校は2007年に創立90周年を迎えた単独商業高校で、各学年商業科5クラス(総合ビジネスコース・国際ビジネスコース)と情報処理科1クラスを擁する。特筆すべきは、実施から21年の伝統を誇る「栃商デパート」である。これは商業高校の特性を最大限生かしたイベントで、毎年11月3日、学校全体をデパートと見立て、生徒全員が売場を担当して地域の人々に商品を販売するもの。

さらにキャリア教育推進校の指定を受けて取り組んだのが、「栃商デパート」を生かした「ジュニア・キャリアアドバイザー事業」である。これは商業高校ならではの「ものを売る」取り組みを、小中高連携で行ったもの。同校を訪問し、この事業を毎年継続的に進めている理由やその内容について、商業科主任の杉本育夫先生と特活部長の本島通宏先生に伺った。

地域密着型イベント「栃商デパート」を
ジュニア・キャリアアドバイザー事業に生かす

栃木県が取り組む高校のキャリア教育は、インターンシップ(職場体験)の推進、民間講師の招聘などがありますが、これらは専門高校であれば割合どこでもやっているもの。しかし、もう1つの柱である「ジュニア・キャリアアドバイザー事業」は栃木県の取り組みで、本校では「栃商デパート」を活用しようということになりました。

これは本校の生徒が販売活動を通して地元の小・中学生を指導し、一緒に活動することにより、働くことへの意欲・関心を高めるとともに、高校生自身の職業観・勤労観、コミュニケーション能力を育成する事業です。

もともと高校の学校祭というと、模擬店やお化け屋敷、展示などが主。生徒の親などが見に来るくらいで、多様な世代の人が集まりにくいし、生徒の参加意識にも差がありました。それなら商業高校の特性を生かして学校をデパートと見立てて、生徒全員参加による販売実習を兼ねたものはできないかと考え、それが20年以上前に「栃商デパート」を行うきっかけになりました。

本校のOBも多い地域企業の協力を得て、年々名物行事のように世代を超えて多くの人が集まるイベントに成長。体育館や各教室で企業と協力のうえに、和洋菓子、花、おもちゃ、スポーツ用品、ドーナツ、飲食店といったさまざまな商品を仕入れて販売します。ここ数年は、生徒たちが企画したオリジナル弁当を業者につくってもらって販売し、それがあっという間に売り切れるなど好評を得ています。

また「栃商デパート」のイメージキャラクター「商吉」は生徒が作ったものですが、21回目の2007年は、ぬいぐるみとして開発・販売するなど、愛される学校づくりを積極的に展開しています。

数ヶ月前から小・中学生と一緒に挨拶の練習も
企画・販売・接客・経理までを体験的に学ぶ

「栃商デパート」は毎年11月3日の1日5時間限定で開催しているのですが、しっかり準備して行うのも特徴です。4月頃から月1~2回ペースで準備します。7月ころから土曜日の2時間を使って、販売実習を希望する小・中学生にも参加してもらいます。ビジネスマナーの習得から挨拶の練習、仕入れ、店舗設計、販売、経理までを一緒に計画・実行する体験活動となっています。しかも接客をするには、身だしなみや礼儀をきちんとする必要があり、「栃商デパート」に臨むことで、自分たちで服装や髪型をチェックし、規律を守るなど、生活習慣の改善にもつながっています。

ほかにも、広報活動として駅で幟を立てて道行く人にPRするほか、ポスターや回覧板をつくったり、地元の新聞やケーブルテレビにも広告を展開したりしています。さらに当日はブラスバンドによるオープニングセレモニーがあり、各売場は店長役の生徒が店舗運営を仕切ります。駐車場も本校以外に近くの商工会議所や小・中学校を借りますので、訪れる地元の人をうまく誘導するのも生徒の役割です。

「栃商デパート」は実行委員会(生徒会)のほか営業部・総務部・会場管理部・広報部・財務部に分かれているだけでなく、当日は校内の銀行に売上金を預けるなど、まさに本物の企業活動のように生きた商業活動を体験しています。「栃商デパート」は単なる販売ではなく、日々の学習で学んできた専門知識を十分に生かし、お客様により良い商品や満足感を提供することをめざしています。当日は小学生を対象とした野球教室、展示など、地域性を生かした活動にも取り組んでおり、毎年約3,000人~4,000人のお客様の来店があります。人口約8万人の栃木市ですから、全体の5%近くが訪れることになります。

学校創立90周年である2007年は、それにちなんで90円の商品が多く出回りました。企業の協力もあって安く販売できるのです。また生徒が企画した商品や、全国の商業高校と連携して取り寄せた商品も、きちんと衛生管理をしたうえで販売します。2007年は全体で大きなスーパーの売上1日分を越えるほどの売上があり、活況を呈しました。ただそのうちPCやレジをはじめ、衛生的に食品を取り扱うために使用する消毒液やビニール手袋など、設備や備品などのコスト分がありますので、利益は多くありません(笑)。しかし、利益を追求しないからこそ地域の多くの人々に親しまれ、共感を得ている面もあるかも知れません。
《つづく》

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