高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第29回

第29回
キャリア教育実践レポート
「宮城県のキャリア教育推進校」Part.1
宮城県泉館山高等学校の実践レポート(1)
「一人ひとりの夢の実現を目指して“大志21”を実践」

インタビュー
宮城県泉館山高等学校 教務 佐藤 光一 先生
進路指導部長 
遊佐 忠幸 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

宮城県泉館山高校は1983(昭和58)年に創立された、仙台北部学区を通学区域とする全日制普通科の男女共学校だ。2002(平成14)年11月に県が行った「学校活性化プロポーザル事業」の募集に対して、同校は「大志21プラン」を策定して応募。これが採用されて03年度から3年間にわたり「エクセレント・ハイスクール」の指定を受け、特色あるキャリア教育を実践してきた。
「総合的な学習の時間」等を活用した試みにより、国公立大学合格者の増加といった面だけでなく、生徒一人ひとりの進学・進路意識の向上、教職員と生徒の信頼感の深まり、さらに部活動の全国大会出場などの成果が表れている。県指定の活性化事業の終了後もサポートプラン「大志21」は同校の教育の根幹として継続している。
前編ではキャリア教育導入の背景や1年次(夢を抱く年)の取り組みについて、プラン導入年度から指導にかかわっている教務の佐藤光一先生、進路指導部長の遊佐忠幸先生に伺った。

進路希望を明確にして
学習意欲の活性化に

▲遊佐忠幸先生(左)、佐藤光一先生

本校の学校プロボーザル事業「エクセレント・ハイスクール」は、これまで本校が行ってきた授業や部活動、行事等の取り組みを、より充実したものにして活気あふれる学校を創ろうというものでした。また今の生徒には勤労体験の不足など、適切な職業観・勤労観が育たぬままに成長する姿が見受けられたので、自分の将来を考えるための情報や機会をこれまで以上にきめ細かく提供して進学・進路意識を高めようというねらいがありました。

合言葉として掲げたのが「大志21~生徒一人ひとりの夢の実現を目指して」です。夢(=将来つきたい職業)に向かって高校生活を送ることで、日々の学習や部活動にもより意欲的に取り組めるのではないか、と考えたのです。ただその夢実現(進路の探究と達成)のためには、目指す力量としての「人間力」「進路選択力」「学習力」が不可欠と定め、それぞれの力の養成に当たることにしました。

「総合的な学習の時間」に進路選択力を養う

中でも希望の進路を選び抜く力「進路選択力」に関しては、3年間を見通して「総合的な学習の時間」で育むことにしました。1年次は「夢を抱く年」として職業研究に、2年次は「具体化の年」として大学・学部研究に、3年次は「実現の年」として卒業論文の作成や学力の伸長に重点を置いた取り組みを実施しました。「エクセレント・ハイスクール」という研究指定の枠が外れた後も、本校の特色ある教育として引き続き実施しています。

生徒はオフィスや事業所における一連の体験を通じて仕事に対する考えが変わったり、生きていくうえでの大事なことを学んだりします。実際、中学校でも職場見学などを行っていますが、そのときとは違って密接に目の前の進路とかかわってくるので、「職場で一生懸命働く姿を見て自分もこの仕事がしたくなった」とか「世界は働いている人のおかげで回っている」「人が喜ぶ姿を見ると自分も嬉しい」など感動の声が圧倒的に多いですね。実習当日は実習記録をまとめますが、さらに後日の2学期には事後学習ワークも実施。質問に沿って書くことを通じて、体験で得たものを整理し深めていきます。実習記録にせよ報告書にせよ、予備欄にびっしり感じたことを書き連ねている場合が多く、そこで記入されたコメントには生徒の成長が如実に表れていますね。1学年では難しいと思われた「働く意味」についても、自分なりの考察がなされていると感じます。

実習後はお世話になった職場にもお礼状を送り、手紙の書き方や礼儀を身につける機会としています。教員からも事業所に生徒の感想を送るなどのアフターケアに努めており、こうしたことを繰り返すことが信頼関係を作り、翌年以降につながっているものと感じます。これからも協力していただける事業所がある限り、続けていきたいと思いますね。

多様な職業に就く
親からのメッセージを熟読

1年次の1学期はまず「職業調べ」を行います。本校の保護者が執筆した職業紹介の冊子『北極星』を読んで、働くことへの関心を高めます。『北極星』は本校PTA進路対策委員会が、保護者の皆さんにお願いし、仕事のやりがい、メッセージなどを書いてもらったもの。10年近く前からの試みで、参考になる職業人の話を抜粋し改訂を重ねてきました。

親御さんの協力もあって医師や看護師、弁護士、金融業、保育士、小学校教師、大学教授、建設業、報道カメラマン、テレビ局、電機メーカー、保険会社など、多様な職業人の声を掲載。プライバシーの問題や匿名希望の場合もあり、執筆者の名前はイニシャルで紹介していますが、生徒たちは身近にいる先輩の仕事として興味深く読んでいます。

自分の興味・関心を探り
職場訪問につなげる

さらに自分が興味・関心を持つ職業について自分でさまざまな情報・資料を集めて理解を深めます。9月には社会人10~15名ほどを講師に迎えて、直接お話を聞く「職業別進路講話」があります。生徒は最も興味ある職業人を選択し、各教室に分かれて話を聞きます。公務員や看護師、薬剤師、アナウンサー、エンジニア、音楽関係、旅行関係、教育関係者などの話に真剣に聞き入り、自分の将来の糧として貪欲に吸収しようという姿があります。

12月ごろには丸一日をかける「職場訪問」があります。これはグループ・班に分かれて職場に出かけ、それぞれ興味を持つ職業について、自分なりの考えや疑問を職場の人々にぶつけるもの。特徴的なのは事前予約や日程調整も生徒自身で行うことです。訪問先も警察署や弁護士事務所、家庭裁判所、空港、ホテル、病院、小中学校、幼稚園、放送局、薬局、IT企業、販売店、探偵事務所など、多様です。

生徒自身がアポイントを取り
職場訪問先を決める

生徒たちは進路指導室などで希望の職場に電話を掛け、アポイントを取るのですが、時には説明が思うようにできず、電話の前で絶句する場面も見られました。ただそうした行動は社会人の一歩として礼儀、マナーの体得にもつながりますし、難航した末に訪問先が決まると「やった!」と飛び上がって喜ぶ生徒の姿も見られます。また高校生が社会に入っていくことで、企業や官公庁側の理解も進み、職場をオープンにしようという姿勢も年々深まっています。われわれ教員は陰から支えることとし、みんなで協力し合って成し遂げることを見守っています。

「職業研究」の発表で将来について具体的イメージを持つ

3月にはこの1年の総決算として、グループごとの発表会を経て選抜された8つの班が、県の施設「イズミティ21」の小ホールで発表会を行っています。保護者なども見に来られる中で、生徒たちはパソコンのパワーポイント等を自在に駆使して興味を持った仕事の内容や、見たり聞いたりした中で感じたことなどを発表していくのです。

生徒の1年間の総合学習「職業研究」を体験した感想は次のようなものがあります。

◎中学校と違ってほぼすべてを自分たちでするもので大変でしたが、自分の「見通しを持つ力」「対人交渉力」等を高めることができたので、これらの能力をこれからも生かしていきます。(女子)

◎知識を増やしながら自分のやりたい職業を見つけていくことはとても面白く、夢中になって取り組んでいました。思っていた以上にたくさんの活動を通していろいろなことが学べ、充実した時間を過ごせて良かったです。(女子)

◎職業別講話や職場訪問がこれからの進路の土台になれば良いと思う。(男子)

情報収集から発表まで一通り行い
達成感を感じる生徒も

われわれ教師も、生徒は自分の興味のある職業についてよく調べ、考えながら行動する機会を多く得て、将来について具体的イメージを持つことができる試みだと感じています。電話やインタビューで初めて人と交渉し、話を聴くことによって自分の世界が広がり、自信を得たという声が多いことも収穫です。

また情報収集から発表まで一通り自分たちで行うことで、達成感を感じる生徒も多く見受けられます。ただ一度だけの職業研究ではなく、社会に対する問題意識によって常に職業観が試される必要があり、それを第2学年の「学問研究」、第3学年の「卒業論文作成」の取り組みにつなげています。

教育委員会レポート「宮城県」

宮城県として外部講師の招聘などに積極的に取り組む
3校がキャリア教育の調査研究校に

宮城県教育委員会では現在、キャリア教育総合推進事業を行っている。特に生徒が主体的に進路を選択する能力・態度を育成するための学習活動の一環として、知識・技術など経験豊富で多彩な社会人を外部講師として招聘することには積極的に取り組み、職業生活に関する講話や技術指導を通して目的意識に満ちた学校生活を送らせることを目指している。また宮城県では現在、トヨタ系のセントラル自動車、東京エレクトロンなどの工場誘致が決定しており、これに対応するため、とくに産業教育の充実、工業分野での人材育成の強化が図られる見通しだ。

また、宮城県では2007(平成19)年度より「高等学校におけるキャリア教育の在り方に関する調査研究」推進校として、次の3校が指定されている。

◎宮城県小牛田農林高等学校(農業技術・総合)
農業技術科では先進農家見学・研修、職場見学・職業講話、職場体験学習、土木現場実習など、総合学科では校外体験学習、職業人インタビュー、社会人講話、職場体験実習、就職スキルアップ事業などを実施

◎宮城県古川黎明高等学校(普通)
人物研究・職業研究、大学研究、生徒の意識の変容を見るための調査手法の開発、生徒のキャリア発達段階調査などを実施

◎宮城県岩出山高等学校(普通)
「悠備館タイム」を設け、岩出山を中心とした地域理解学習を実施。フィールドワーク等で地域の良さを見出すとともに、自分と地域のかかわりを考え、地域から世界、現代から未来を眺望する契機としている

※これら3校ではキャリアカウンセラーの配置を予定している。
《つづく》

泉館山サポートプラン「大志21」

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