高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第35回

第35回
キャリア教育実践レポート
「新潟県のキャリア教育推進校」Part.1
新潟県教育庁高等学校教育課に聞く
「小中高の連携を深めながらの系統的キャリア教育を模索」

インタビュー
新潟県教育庁高等学校教育課 
参事
 太田 恭利氏
副参事 太田 洋一氏
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

日本海や信濃川などの自然と肥沃な土地に恵まれ、産業の種類も多岐にわたっている新潟県。大学や専門学校などの高等教育機関もバランス良く存在しており、進学・就職ともに地元志向が根強い地域でもある。
新潟県教育庁では望ましい勤労観・職業観を身につけさせ、自らの進路を主体的に選択・決定する能力を育むために「キャリア教育推進事業」を実施している。実際にどのようなキャリア教育を推進しているのか、前編では教育庁高等学校教育課の太田恭利参事と太田洋一副参事に話を伺った。

社会でのリアルな経験が乏しいことから 
そのきっかけ、スイッチを用意する必要がある

▲太田恭利 参事

全国的な傾向といえると思いますが、新潟県でもフリーターやニートなどの存在が指摘され、その背景として、職業人として必要な資質・能力の低下や早期離職率の高さが指摘されています。そこで望ましい勤労観や職業観を身につけさせ、自らの進路を主体的に選択・決定する能力を養うことを目的に、インターンシップ等を推進してきました。

今の生徒は、自然体験を含めて社会でのリアルな体験が乏しい面があり、これだという進路をつかむきっかけがないようです。年齢が上がるとともに自己認識が深まりますが、成長段階に合わせた形で自分と社会の接点を探るきっかけ、スイッチとなる機会を大人の方で用意し、一歩踏み出すための行動力を育てなければならないと考えています。

インターンシップ等の実施は91.2%に上る 
専門高校のデュアルシステムなども積極的

▲太田洋一 副参事

キャリア教育をすべての高等学校に広げるべく、2005年度77校、75.5%だったインターンシップ等実施率も、2008年度には対象となる県立学校91校中83校、91.2%と上昇しています。インターンシップ等の範囲には、専門高校生を中心とした職業訓練を兼ねた技能・技術教育といえるデュアルシステム、企業・職場見学、ボランティア活動(奉仕・清掃・募金)、一日看護師体験、ホームヘルパー養成研修などが含まれます。

インターンシップを実施している高校の活動参加人数は20人規模から学年全員など100人規模まで多岐にわたります。またデュアルシステムに関しては工業高校などの専門高校を中心に8校約60名の生徒が、約2週間の現場実習に参加しています。

小中高の連携を図ってストーリーを立てられる
継続的・系統的なキャリア教育を模索

高校に限ったキャリア教育以外にも、小中高等学校の教育が連携を取りながら各発達段階に応じたキャリア教育のあり方について研究協議を行う「発達段階に応じたキャリア教育推進講座」なども2006年度より実施してきました。これまで小学校・中学校の義務教育期間と高校の間には受験を挟むこともあり、連携面で課題もありました。

純粋に夢やあこがれを持つ子ども時代から、徐々に自己認識が深まっていく時代、そして夢を現実のものと捉え直し、自覚を持って自ら行動する時代と、その時々の成長段階に応じて、地域に根ざし、生徒自らの生き方に対するストーリーを立てられるような、継続的なキャリア教育ができないだろうか。それには小中高の連携が欠かせないと考えたのです。

県内3地域の関係9校を指定し、
「キャリア教育パイロット事業」を立ち上げ

そこで2009年~2010年にかけて、「キャリア教育パイロット事業」を計画しました。これはパイロット地域として県内3地域の関係高等学校9校を指定し、先駆的にキャリア教育に取り組むための実践研究を委託する予定です。共同研究及び必要な支援を行い、その実践的な研究から得られた知見を基に新潟県ならではのキャリア教育の推進を図っていこうと考えています。

たとえば、小・中・高が連携して地域に根付いた産官学による受け皿づくりをしたり、ある地域では小学校や中学校が中心になって職業現場で中学生が小学生を教えたり、高校生がそれをサポートしたりする。またある地域では高校が主導的立場で「チャレンジショップ」といったイベントを仕掛けて、名物となる商品を企画し、そこに中学生・小学生が加わり企画・販売から接客までを経験するといった仕組みなどを想定しています。

職業体験を通して大人とのコミュニケーションの取り方を学ぶとともに、小・中・高の生徒の縦の関係が芽生えるし、将来の目的があって、あの高校に入りたいとか、ああいうお兄さんお姉さんになりたい、というモチベーションにつながることも期待しています。

私たち高等教育課と義務教育課の連携も図りながら、今後2年間の成果を見守っていきたいと思います。

企業の人事担当経験者などを県で採用、
キャリアアップサポーターとして7校に配置

新潟県では「キャリア教育推進事業」として、働く意欲、コミュニケーション能力等の向上を支援するために2006年度より「キャリアアップサポーター」の配置を行っており、今年度も継続しています。

7校を対象に、進路指導主事や学級担任と連携して校内キャリア教育の推進を行っています。たとえば企業の人事担当者だった方や、経営者からリタイアされた方などを、県が採用。学校に企業の視点を持ちこみ、生徒へのキャリアカウンセリング(生き方を含めた進路指導)の相談や、社会に通じる生活態度や挨拶・マナーの指導、就職における面接などのアドバイスなども行っていただいています。これは、先生にも企業の現場で求められる人物像の認識や社会的視野を広めることにもつながっているようです。

そのほかにも、10校を対象に「キャリアアップセミナー」を開催しています。これは各学校の地域のネットワークから、地域の企業経営者や人事担当者、職人、芸術家などを講師として、ビジネスマナーの講演会や生きる上で大切なことなどをクラス単位で語ってもらうものです。

体系的なキャリア教育の推進事業として、
毎年、研究指定校を指定

また「キャリア教育研究指定校」として、学校における組織的・体系的なキャリア教育の研究を推進してもらおうと、2006年からの3年間は普通科高校の県立正徳館高等学校にお願いしました(後編で紹介)。2009年から3年間は生活文化科と普通科を持つ県立西川竹園高校を指定し、キャリア教育のあり方を引き続き検討してもらっています。

こうした取り組みに関しては「キャリア教育検討会」において新潟大学教育学部の教授が中心となって、企業、行政、高校の各関係者を委員とした研究会を随時開き、各学校の取り組みの検討や報告を行っています。

確かな手応えのもとに継続し続け、
新潟県ならではの有意なキャリア教育を確立したい

以上のようなキャリア教育推進事業により、実施校における卒業者の「進学も就職もしない者」の割合が、事業実施前と比較して減少したという成果も出ています。しかし、効果測定の結果を見るとインターンシップをやりとげたという充実感と達成感を感じている生徒がいる一方、職業体験したことで社会人として必要な能力がまだ自分には十分備わっていないことを実感したり、自己の生き方に迷いが生じたりする生徒もいるようです。今後は、体験活動の内容吟味と更なるデータ蓄積を重ねて、生徒に有意となるあり方をさらに模索していきたいと考えています。

そのほか、新潟県では、継続的な意識啓発による進路意識の進化を促し、早期の進路目標の確立を図るため「進路目標確立支援事業」を行っています。これは上級学校や企業の見学を通して、進路意識を早期に啓発しようというものです。早い時期に多様な進路があることに気づいてもらい、そこから自分に合った進路を意識し、目標を定めてもらいたいと考えているのです。

いずれにせよ今後は成長段階に応じて自己の生き方を考えて進学先や職業と接点を持てるよう、そして将来に向けた目的意識と未来を切り開く力の育成のために、組織的・系統的なキャリア教育を確立していきたいと考えています。

新潟県の専門高校を対象とした支援策

新潟県では生徒に実践的な技能・技術や知識、伝統的な技能等を習得する機会を与え、主体的に進路選択ができる力を育成するために、専門高校を対象に地域や産業界と連携した体験的な学習、先端的な研究を推進することを支援している。主な取り組みは以下の通り。

(1) デュアルシステムの推進
◎目的:実践的な技能技術の習得を目指し、企業等における現場実習を行う。
◎日数等:10~12日間、2~3年生対象
◎実施校:8校
◎内容例
工業:NC工作機械による加工作業、工事現場での測量補助等の現場実習、他
商業:ソフトウェア開発会社で企画や営業に関する現場実習
農業:先進農家での切り花生産に関する現場実習
※新潟県のデュアルシステムは原則として「専門に特化した内容で長期にわたって行うもの」と位置づけ、インターンシップ(短期間で行われる職場体験)とは区別している。

(2) ものづくり技能・技術の伝承
◎目的:産業界の第一線で活躍する熟練技能者や専門技術者を学校に招聘することにより、熟練技能者の技や産業現場の優れた技術を伝承する。
◎日数等:年間10時間、2~3年生対象
◎実施校:9校
◎内容:電気工事の実技指導、建築物の外観透視図の実技指導、溶接技術の実技指導、他

(3) 企業・地域社会と学校のネットワークづくり
◎目的:学校と企業・地域社会が連携した協議会を開催し、高校生に求められる将来の社会人・職業人としての資質向上を図る。
◎日数等:年2回
◎実施校:9校

(4) ICT技術の充実による創造性の育成
◎目的:ICT分野やロボット分野に関する材料費・研究費を助成することにより、生徒の科学技術への夢を育み、創造性・独創性を養う。
◎実施校:9校

(5) 教員の指導力向上
◎目的:県立高等学校の教諭・実習助手を行政機関、民間企業に派遣することにより、社会の急激な変化に対応した工業教育を展開するための技術・技能、豊な見識と広い視野に立った教育力を養う。
◎派遣職員(2人、1年間)

(6)「目指せスペシャリスト」研究開発事業(文部科学省事業)
◎目的:専門高校が地域の産業界、大学や研究機関と連携し、先端的な技術等を取り入れた教育や伝統的な産業に関する学習活動により、将来の専門的職業人の育成と専門高校の活性化を図る。
◎実施校
○高田農業高校(2008年~)
研究開発課題:目指せ!!循環型農業教育「MOTTAINAI」プロジェクトを通じた地域に貢献する人材の育成
内容:炭関連の商品開発(廃油炭石鹸、食用炭)と販売、紙のシュレッダーゴミの炭化利用とゴミの削減
○海洋高校(2008年~)
研究開発課題:海藻を利用した資源育成や海洋環境保全および新しい水産製品の開発を通しての水産スペシャリストの育成(海藻が地域を潤し海のり人を育てる)
内容:マコンブの浅海部における養殖法の開発、地域水産資源を有効利用した特産品の開発
○長岡商業高校(2005年~2007年)
研究開発課題:ITを活用し、ビジネス活動を総合的にプロモートできる将来のスペシャリストの育成
内容:中越地震震災復興支援のためのCM制作、地域の市場調査と商品企画

新着記事 New Articles