全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第34回第34回
キャリア教育実践レポート
「山梨県のキャリア教育推進校」Part.2
山梨県立白根高等学校の実践レポート(2)
「県内の普通科ではいち早くインターンシップを導入」
山梨県立白根高等学校
進路指導主事 田中 素子先生
研究係主任 名取 陽子先生
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県内の普通高校の中で最も早くインターンシップ制度を取り入れてきたのが、山梨県立白根高等学校である。同校では2004年度以降、高校2年次の生徒全員を対象にインターンシップを行うとともに、その事前・事後学習、小論文指導にも力を注いでいる。併せて、2004年から3か年は「知のパイオニア」(豊かな学力推進事業)の指定校としても研究を重ねてきた。
後編ではインターンシップの事前・事後学習、その成果と課題、小論文指導、「知のパイオニア」事業との相乗効果などについて、進路指導主事の田中素子先生と研究係主任の名取陽子先生に伺った。
志望理由書の作成により目的が明確になり
思考整理も行うことができた
本校では7月の3日間に2年生全員がインターンシップを行っていますが、事前・事後学習にも力を注いでいます。2008年には4月から総合学習、LHRを利用して約1か月間、自己紹介書・志望理由書の作成を行いました。
これはインターンシップ前の企業訪問時に持参するためのものです。志望理由書の作成は、文科省の「国語力向上モデル事業」の一環として2007年度から始めたものですが、生徒自身、インターンシップの目標が不明瞭で、訪問先の企業調査不足から、完成までにはだいぶ時間がかかりました。「総合的な学習の時間」担当の先生や各クラスの正副担任の先生方には、その分、多くの時間と労力を割いて添削の指導をしていただきました。その結果、生徒がインターンシップの目的をしっかり意識するようになり、思考の整理ができたという意見もありました。
インターンシップ期間中は日誌を付け、
体験で学んだことを発表する機会を設ける
5月~6月にかけてはビジネスマナー講座を3回行いました。きめ細やかな指導を行うため、学年を半分に分けて実施し、大きな声での挨拶の仕方やお辞儀、言葉遣いなどを練習しました。教員も講師も目が行きとどく中で、じっくりマナーを習得しています。
またインターンシップ期間中には例年日誌を付けさせていますが、2008年度は日誌の最後のページに400字の感想の欄を設けて、9月の発表会に備えました。インターンシップ報告会では、クラスの代表者2名が9月に学年全体の前で報告を行いました。人生の糧となる貴重な体験ができたという報告が多く、聞く側の生徒の態度も真剣そのものでした。そしてインターンシップ終了後の夏休み明けからは企業・事業所にお礼状を作成しました。これも国語力向上モデル事業の一環ですが、先生方の協力のおかげですべての企業に早めに発送することができました。
企業へのお礼状を書くことで、
礼儀・マナー、コミュニケーション力も身についた
お世話になった企業にお礼状を書く際に、拝啓で書き出し、時候の挨拶、最後は敬具で締めるといった正しい手紙の書き方を学ばせるとともに、体験から何を学んだのか、そして感謝の心を示すことを忘れずに行っています。
実際の生徒たちの文章を見ると、企業経験から「挨拶や礼儀・マナー、人に対する笑顔がとても大切に感じた」といった言葉が書かれており、たった3日間とはいえ、生徒が大きく成長していることを感じます。また、いろいろな大人たちと接することでコミュニケーション力が身についていることも実感します。もちろん学習意欲や進路に役立つ、日常生活の行動が良くなったという声も多くあります。
「専門スタッフが働く姿を高校生に見せたい」
受け入れ側の工夫・配慮もありがたい
企業・施設側としてもさまざまな工夫と配慮が見られます。例えば保育園で実習する際には、3日間ある中で2歳児から年長の6歳児まで幅広い子どもと接する機会を与えてくれたり、病院では、たとえば今日は検査部や手術室、次の日は小児科など幅広い診療科を見て、医者や看護師だけでなく、さまざまな専門スタッフが働く姿に触れさせてくれたりしました。そうした「生徒たちにいろいろ見て触れてもらおう」という配慮にはとても感謝しています。
「働く社員にも良い刺激」と肯定的
地域の生徒への期待も深まる
例年、生徒や企業、保護者にアンケートを実施していますが、企業からも8割以上は「取り組む姿勢は良かった」という声や、「働く社員にも良い刺激になった」という肯定的意見を頂いています。保護者からも「意義を感じる」と肯定の意見が大半を占めています。インターンシップを通して地域の生徒を受け入れていこうという理解は年々深まっていますし、生徒が他地域の大学や企業へ出ていったとしても、いずれ地域に戻ってきて貢献してくれるとの期待の大きさも年々感じますね。
インターンシップ体験を人生の糧に
課題探求型学習につなぐ工夫をしたい
インターンシップの大きなねらいである「職業について理解を深め、進路目標を明確にすること」はある程度達成できていると感じますが、さらに一歩すすめ、「職業や学問への興味・関心を通して課題探求型学習を推進する」という狙いについては、課題に感じています。
インターンシップでの体験を、その後の面接や小論文の題材とする生徒も多いのですが、レポート報告会とお礼状ですべて終わってしまう生徒もいます。インターンシップを体験したことで、何かを深く突き詰めていく、それが学問探究につながっていく、そんな次への深い動機付けとなる工夫をこれから模索していけたらと思います。
インターンシップの体験を活かし
入試の小論文や面接対策に役立てる指導の定着をめざす
本校生徒の大学等の入試状況は、推薦入試による進学決定者が7割弱と高く、小論文や面接指導の必要性はますます高くなる傾向にあります。本校が実践してきた体験的学習とそれを活かす進路指導をさらに定着させていきたいですね。
そして究極は白根の卒業生は高校卒業10年後には希望の進路を実現している、希望の定職に就いていることが望みです。
県の「知のパイオニア推進事業」の推進モデル校の指定を受け
「確かな学力」の向上にも取り組む
なお、山梨県教育委員会では2004年度から3か年計画で「知のパイオニア推進事業」を立ち上げ、「確かな学力」向上推進事業に取り組みました。本校はその推進モデル校として県内の6校の1つとして指定を受けました。そこでいろいろな活動を取り込みつつ、シラバスの工夫と改善、家庭学習課題の充実、評価の工夫、個別指導の徹底、授業観察等による教師の授業力向上などの研究課題に取り組みました。
また個別指導が必要とされる場面では、教科や学年の枠を超えて全職員でその指導に当たる必要があり、その1つの表れが小論文指導体制につながっています。因みに、インターンシップは、知のパイオニアとは別のプロジェクトです。たまたま同年にスタートしたので、知のパイオニアの一部として、各教科指導と同じように課題を持って取り組みました。
「朝の10分間読書」で集中力も養い、
体験から自分を的確に表現できる自己表現能力の育成に努める
なお本校では、従来から「朝の10分間読書」といった試みも行っています。かつては朝からざわついた雰囲気もありましたが、この取り組みで集中力がついた、教室が落ち着いたと感じ、本を読むことに抵抗感がなくなってきた生徒が多く見受けられます。
今後もインターンシップと小論文指導、朝の読書などをうまく連動させて、体験から自分を的確に表現できる自己表現能力の育成に努めたいですね。インターンシップでは不況の中で就職は厳しいなどの現実も見ますが、逆に大変な状況を跳ね返せるくらい強い動機を得る生徒もいます。そういう意味で、やる価値は十分あると感じています。
これからも白根高校の特徴の1つとして、教員が一体となってインターンシップを核としたキャリア教育に真摯に取り組み、生徒の人生の糧となる機会を与えていきたいと思います。