全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第44回第44回
キャリア教育実践レポート
「福島県のキャリア教育推進」Part.2
福島県立福島西高等学校の実践レポート
「多様な分野を網羅した一日大学を実施、
生徒の進学意識の向上につなげる」
生徒の進学意識の向上につなげる」
福島県立福島西高等学校 進路指導部
二瓶 弓子先生
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福島県は「専門高校活性化事業」や「学力向上推進プラン」などを実施し、働くことへの関心・意欲とともに学力・社会人基礎力を高めているが、普通科高校を中心に各校独自にキャンパス見学会や大学の出張講義なども活発に行っている。福島県は地元志向が強い生徒も多く、高校と大学間で連携が取りやすい状況もその背景にはあるようだ。
福島県立福島西高校は福島市内にある県立高校だが、「自分の在り方生き方を考える」機会として、『福島西高一日大学』と称する「学びの体験」を実施している。生徒自らが学んでみたい分野を提示し、教員の積極的な支援のもと2・3年生が主体的に講座を体験するという試みで、今年で11回目になる。
これらを含めキャリア教育に対してどのように考え、どのような取り組みを行っているのかを同校進路指導部の二瓶弓子先生にお伺いした。
進学への早期動機づけという目的で
平成12年に「一日大学」を導入
福島県立福島西高校は1963(昭和38)年に女子高として創立され、1995(平成7)年に男女共学となり、普通科(1学年5クラス)、数理科学科(同1クラス)、デザイン科学科(同1クラス)からなる高校です。医療看護系専門学校等を含め大学・短大等の上級学校への進学を約8割の生徒が希望し、残りが就職や公務員志望という現状です。男子生徒と女子生徒の割合は約4対6といったところです。
これら生徒に対し、生徒自身の進路意識を高め、将来を見通して自己実現を図れるよう援助し、進学後主体的に学びが実現できる指導をしたいと考えていました。その一つの対策として、生まれたのが「福島西高一日大学」という学びの体験です。
進学への早期動機づけという目的で、2000(平成12)年にスタートし、今年で11年目を迎えています。今は総合学習の時間の一部として、生徒が自らの進路を考えるための良い機会となり、本校の大きな特色となっています。
2・3年生全員を対象に、
全18分野の講座を網羅
「一日大学」は高校2年生と3年生全員が対象で、毎年6月に校内で実施しています。まず4月にアンケートを行い、生徒の興味・関心ある分野や、学んでみたい講座及び講義内容を選択してもらいます。その希望を受けて我々教員が人数調整をして、5月に約18講座を設定します。文系や理系の主要分野はもちろん、保育、医療、福祉、デザイン系まで多様です。本校の教頭が窓口となって各大学にアポイントメントを取り「こういう分野の教授にこういうテーマで講義をしていただけないか」と依頼することもあれば、大学側がリストを提示してくださり、そこから選ぶこともあります。
最近は大学側も高校へのアピールに積極的で、出張講義という形で快く申し出を受けてくださる場合が多いです。本校からの進学希望者が多い国立の福島大学や山形大学、会津大学など地元大学には例年お願いしています。また、昨年からは専修大学、今年は東洋大学、筑波大学、絵画系として昨年は多摩美術大学、今年は武蔵野美術大学など関東圏からも多くの先生をお呼びすることができました。
(▼下記「一日大学講座一覧」を参照のこと)
生徒は2年続けて受講するので、毎年お願いしている大学であっても、講師の先生や講義内容は毎年変えていただいています。
地元の国立大学や関東圏の私立大学の先生も招く
生徒の興味を促し大学の導入になるテーマで実施
講義の内容は、高校生の興味・関心に訴えるテーマ、大学の導入となるような初級レベルといった内容で、大学と同じ90分間授業をお願いしています。
各生徒たちの希望講座を集計し、講座の人数を決定しますが、特に経済、心理や看護、保育といった分野はここ数年人気がありますね。あまり人数が偏ると教室に入りきらなくなるので、3年生の希望を優先し、希望者が多い場合は2年生に第2希望に回ってもらうなど調整します。その後、人数に応じて講義の場所を決めるなどの準備を行います。
また、各大学の先生の授業は18講座同時展開となりますので、スクリーン、パソコン、プロジェクターなど機器のご準備をお願いするなど、いろいろ企画運営にご協力いただいています。
当日は進路指導部主管のもと、18講座それぞれに教員1名を担当者として配置し、進路指導部の教員はできるだけ全体を見て回るようにしています。
「できるだけ動きのある内容で」とお願い、
面白いと感じれば勉強意欲につながる
今年の保育分野の講義では「子ども達と仲良くなれる保育方法を楽しく身につけよう」と題して、実際に乳幼児を目の前にして行う手遊びなどを生徒たちと一緒に楽しく行っていました。将来、保育士を目指したいと考える生徒が多く参加していますので、“面白い”と感じる生徒は多く、保育士への思いをより深くし、これからの受験勉強を頑張ろうという生徒も多く見受けられます。
講師となる大学教授から「これだけ多様な分野の講義を設けている高校はあまりない」と言われることもあり、本校の取り組みの価値を理解していただいています。
対象校は県立高校25校。主な取り組み内容は以下の通りです。
感想を必ず書かせる
進路を考える上で大きな転機となる生徒も
当日、講義が行われている間は、生徒は必要に応じてメモを取ります。また感想文も必ず書かせており、それを見ると、講義を聞いたことがきっかけで大学に興味を持ち、こういう先生の講義を聞くために頑張ろうという意欲が伺われます。
最終的に一冊の冊子にするために、講座ごとに係の生徒が記録をとります。この内容はとても分かりやすくまとめてあり、それを読めば講座を受けていなかった者へも内容が伝わってきます。もちろん講義をまとめたり感想を書いたりすることで、小論文対策にもつながっています。
大学の講義を聞くことで考えを新たにすることもあれば、逆に、話を聞いてみて、自分が考えていたものとは違ったと感じ、進路変更のきっかけになる場合もあるようです。生徒たちは進路を考える上で大きな刺激になるだけでなく、先生をはじめ他人の話を良く聞くという姿勢が生徒たちに身に付くという利点もあると思います。
1学年は職業研究、2学年は小論文
3学年はコース別学習に力を注ぐ
なお本校では1年次から総合的な学習の時間を活用して「自己としての在り方・生き方や進路について考察する」を目標に、以下のようなキャリア教育に取り組んでいます。
第1学年は「職業研究」を大きなテーマにして、様々な職業についての情報を収集し、調査研究することを主に行っています。
第2学年は「一日大学」と「小論文学習」をテーマに、多くの時間を小論文対策に充てています。これは自分の意見をまとめる力の養成はもちろん、推薦入試やAO入試対策でもあります。
第3学年は「一日大学」の他に、「進路希望に応じたコース別学習」と「進路学習」をテーマに、各コース別の学習や進路学習に力を注いでいます。
また2・3年次に開かれる進路説明会では全体会と分科会に分けて行い、保護者の方にも参加していただきます。そこで受験に精通する外部講師もお呼びし、大学の入試情報や、大学合格のための努力の方法、気持ちの持ち方などを生徒と保護者向けに説明してもらっています。また「一日大学」の終了後にも、PTA主催による懇談会が催されるので、その場で日ごろの保護者の方々の進路に関わる情報交換が行われ、保護者の方の進路意識にも変化があるなど、有意義な場となっています。
この10年で4大進学者が
3割強から6割前後へと大きく増加
「一日大学」を11年やってきたことの成果としては、生徒の進学意識の向上が挙げられるでしょう。始めた当時、本校では4年制大学進学者は3割強でしたが、年々増加し今では5~6割を超えるほどに拡大しています。
最近の課題としては、本校は部活動が盛んで多くの生徒が打ち込んでおり、両立が難しいということが挙げられます。部活に夢中になるあまり、将来のビジョンを描く余裕がなく、1・2年次に学習習慣を身につけられない場合もあります。そのような生徒に対しては、「一日大学」以外にも、普段から我々が進路に関する意識付けや情報提供の努力をすることで、大学に行った後も“自分はこうなりたい”というビジョンを持って進んでいってくれたら嬉しいですね。
また「一日大学」は教室や機材の準備に始まり、当日は受付や駐車場担当など、すべての教員の協力の上に成り立っていますので、こうした取り組みには教員一人ひとりの参加意識や生徒を盛り上げようという気持ちが大切だと感じます。ちなみに本校では生徒にマンツーマンで小論文指導などができるよう、教員向けの小論文対策を行っています。
今後は「一日大学」を本校の特色として継続していきながら、生徒が希望する地元の国公立大学をはじめ、関東圏の私立大学の合格者なども増やしていきたいです。また数理科学科の生徒には理数系の大学を、デザイン科学科の生徒には美術系大学や専門学校等への進学も後押ししたいですね。生徒それぞれが得意な分野や個性を活かして切磋琢磨し、目的意識を持って自ら主体的に行動していけるようになる、そんな活気ある高校にしていけたらと思います。
●2年・女子/法分野に参加
「自分の今後の進路のために、とても有意義な講義だった。今までよくわかっていなかった刑法と民法の違いや、『法人』という言葉の意味、大学生の内定の内情まで、くわしくわかった。法律や六法に関しては、テレビのニュース番組などで報道されているのを何となく聞いていただけだったが、今日の講義で『法』について興味を持つことができた。現在は世間や景気も不安定で、社会に出ることに多少の不安はあったが、それでも法律について自分で良く理解していれば大丈夫だと思った」
●3年・男子/経済分野に参加
「私は阿部先生のご講話を聞いて、これまでよりも大学で経済・経営分野について学びたいという意識が強くなった。先生のお話はとても哲学的で、自分が考えていた経済学のイメージよりも、宗教などとの関係も交わっていて、とてもおもしろく、理解しやすかった。中でも『労働』についてのお話はとてもおもしろかった。労働というのは『いやなこと、やりたくないこと』というマイナス面をもっていて、このマイナス面を最小にして、プラス面を最大に得ようとするから泥棒や奴隷制度、封建制度が起こるというのは、自分が考えたことがなかったので、今日一番の収穫になったと思う」
●3年・女子/福祉分野に参加
「『福祉』に対する意識が大きく変わったということが、今日一番の驚きと収獲でした。初め、福祉というのが『人と人との間の援助』という言葉にあまりピンと来ず、困っている人を助けることだけが仕事でないことに少々の違和感がありました。しかし、福祉という言葉は『幸せ』という意味を示すものであること、本気で相手の幸せを願う仕事が福祉従事者であるということ、今の福祉は昔よりも変わってきているということなど、私が思っていた福祉のイメージよりはるかに違うことを聞くたびに、少しずつ福祉の基本とは何かを解決するヒントをもらえたような気分でした。
(中略)
最後に今回のお話を聞いて、以前よりさらに『福祉』ということに、そうした仕事に興味を抱くことができました。『福祉』の本当の意味をはき違えないように注意しながら目指していきたいと思います」
分野 | 講師所属校 | 講師名 | 講義題 |
1 法 | 東北学院大学 | 近藤 雄大 | 法律からみた人の一生 |
2 経済 | 東洋大学 | 阿部 照男 | 人はなぜもうけようとするのか |
3 社会福祉 | 東北福祉大学 | 阿部 正孝 | 福祉社会を創る |
4 歴史 | 専修大学 | 西坂 靖 | 百万都市・江戸のしくみから江戸時代をみる |
5 国際文化 | 山形大学 | 松本 邦彦 | 日本近代の外交と国際法 |
6 教育学 | 福島大学 | 荻路 貫司 | 高校生が学ぶ「教育改革の現状と教職への道」 |
7 心理 | 筑波大学 | 佐藤 有耕 | 青年期の心理~あなただけでなく、誰もが暗くなる季節~ |
8 体育 | 仙台大学 | 佐藤 久夫 | 最高の勝利 |
9 保育 | 福島学院短期大学 | 中野 明子 | 子ども達と仲良くなれる保育方法を楽しく身につけよう |
10 数学 | 山形大学 | 皆川 宏之 | 大学で学ぶ数学への入門 |
11 生物 | 山形大学 | 廣田 忠雄 | 子供を残す闘い |
12 建築 | 日本大学工学部 | 日比 野巧 | 建物の揺れを科学する! |
13 コンピュータ | 会津大学 | 森 和好 | コンピュータとその応用 |
14 薬学 | 東北薬科大学 | 上井 孝司 | 薬学への招待 |
15 看護 | 福島県立医科大学 | 横田 素美 | 看護におけるフィジカルアセスメントの意義 |
16 リハビリ | 東北文化学園大学 | 田上 義之 | 身体の動きを観ることの大切さ‐椅子からの立ち上がり動作を例に考える |
17 デザイン映像 | 長岡造形大学 | 土田 知也 | デザインの世界 |
18 絵画 | 武蔵野美術大学 | 袴田京太郎 | 「不良」のすすめ |