高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第45回

第45回
キャリア教育実践レポート
「群馬県のキャリア教育推進」Part.1
群馬県教育委員会高校教育課に聞く
「長期インターンシップの導入、外部人材の活用等を図る」

インタビュー
群馬県教育委員会 高校教育課 補佐(総括)・指導係長
水村 達英氏
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
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日本列島のほぼ中央、関東北部にある群馬県。県の約3分の2が丘陵・山岳地帯で、特に県北西部には2000m級の山々が連なっているが、県南部には県庁所在地の前橋市をはじめ、商工業が盛んな高崎市、太田市、桐生市、伊勢崎市などを擁し、長野や新潟、栃木への交通の要所にもなっている。各地域に高校は普通科のほか、農業科、工業科、商業科などの専門高校がバランス良く配されている。
群馬県教育委員会ではキャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向けて必要な能力等を育てる教育である」として、望ましい勤労観、職業観の育成を図るために、キャリア教育及び進路指導の改善、地域の企業等と連携しての職場体験、インターシップ等の推進に力を注いでいる。
県の全体的なキャリア教育の取組を、群馬県教育委員会事務局高校教育課の水村達英指導係長に伺ってみた。

社会的・職業的自立に向けて
様々な角度からのキャリア教育を実施

▲水村 達英氏

産業・経済の構造的変化や雇用の多様化・流動化が進む中で、生徒の進路をめぐる環境は大きく変化しています。全国的に生徒の精神的・社会的自立が遅れる傾向や、目的意識が希薄なまま進学・就職する者が増加傾向にあること、また、職場でのミスマッチや早期離職などが指摘されています。そこで、群馬県においても、変化の激しい社会に対応し、社会人・職業人として自立できるよう、発達段階に応じた勤労観・職業観を育てるキャリア教育が重要になっています。

高校段階は特に、進路設計の立案と社会的移行の準備期間です。進路の現実吟味と試行的参加が大切だと考え、(1)教科・科目を通したキャリア教育、(2) 総合的な学習の時間における探究的学習によるキャリア教育、(3)ホームルームや学校行事等特別活動を通したキャリア教育、(4)家庭・地域社会・企業等との連携によるキャリア教育など、様々な角度からキャリア教育に力を注いでいます。

特に(4)ではインターンシップや社会人講師による講話、大学教授等による出前授業、ボランティア活動、体験活動など各学校が実情に合った取組を工夫して行い、県教委としてもそれらをバックアップしています。

「夢実現・進路プラン」として
教員や生徒、保護者向けに外部と連携

高校教育課のキャリア教育支援としての具体的な施策としては、一つが、「夢実現・進路プラン」です。

まず「キャリア教育・進路指導研究協議会」を年2回実施しています。これは各高校の進路指導主事を対象に行うもので、キャリア教育の推進と進路指導の充実・発展を期し、キャリア教育及び進路指導上の課題について研究協議を行っています。外部講師を招いて話を聞いたりディスカッションをする場を設けたりもしています。

他にも大学への進学者が多い学校を対象に、「大学進学指導推進協議会」を教頭や進路指導主事、各学年主任向けに実施。各校の情報交換により、キャリア教育の推進とともに、進路指導体制の効果的な在り方、学習の動機付け・学習意欲の継続等による学力向上策を考え、進学実績の向上を目指しています。

さらに「キャリアアドバイザー活用事業」では各学校で講師を招き、講演・講話、進路相談を実施しています。

「職業意識形成事業」では県庁の知事部局である労働政策課との連携により、キャリアコンサルタント等を各学校に派遣して、高校生や保護者に対してもセミナーを実施し、キャリア意識の醸成を図っています。

同じく「キャリア教育コーディネート事業」も労働政策課と連携し、委託先のNPO法人の人材バンクから各高校に講師を派遣し、継続的なキャリア教育を実施しています。

「ぐんまトライワーク推進」事業として
2週間程度の長期インターンシップを展開

大きな施策の二つ目は「ぐんまトライワーク推進」(高校生長期インターンシップ)です。平成15年から、この名称で実施。インターンシップというと、数日や長くても1週間程度ですが、群馬県では2週間程度の長期インターンシップを積極的に実施。生徒の専門分野における実際的な知識・技術の体得、望ましい勤労観・職業観の育成を図っています。平成21年度は23校が実施し、参加生徒528名、受入企業201事業所となっています。これもインターンシップに理解のある企業が地域にあるからこそ、実現できているといえるでしょう。

ちなみに短期インターンシップは平成21年度の実施は33校、参加生徒3,010名、受入企業等1,189事業所となっています。

全体的には専門学科をもつ高校での実施が多い傾向がありますが、総合学科や普通科高校にも広がりつつあります。就職希望者が多い高校では、就業経験がそのまま社会で役立つことから力を入れていますし、実際参加した生徒のうち約97%が「働く意義を感じられた」「社会のマナーやルールが分かった」などプラスに評価しています。

社会人や技能者を学校へ招き入れ、
次代を担う職業人材の育成も積極的に行う

このほか、「社会人講師受入事業」も活発に行っています。高等学校にゆかりの深い地元企業・研究機関等から、豊かな経験と知識をもつ人材を講師として招へいし、優れた技術や知識などを学ぶ機会を生徒に与えています。平成21年度は19校で実施しました。

「熟練技能者活用事業」も展開。旋盤分野、CAD分野における熟練技能者を採用し、工業科等を設置する高校において、より実践的な教育の推進を図っています。

また、地域産業の担い手育成のための「専門的な職業系人材の育成推進事業」を展開しています。これは文部科学省が国土交通省や農林水産省と協同して実施する事業です。群馬県では工業高校2校(前橋工業高校と高崎工業高校)、農業高校2校(勢多農林高校と利根実業高校)が地域の企業や農業生産者等と連携したカリキュラムの研究開発を行い、地域の産業界が必要とする人材の育成を目指しています。

「ぐんまチャレンジ・ハイスクール」として
少人数授業や体験学習を大切にした高校を指定

群馬県では平成22年3月高校卒業生の就職内定率は93.9%(文部科学省調べ)でした。就職を希望した生徒の多くは内定を獲得しています。近年、就職氷河期と言われる中では健闘しているといえるでしょう。これは地域に根差した産業も多く、専門高校を中心に高卒後の就職先の確保や開拓がしっかりされている証といえるでしょう。しかし、大切なのは生徒が真に希望した進路先で積極的に自分自身の人生を生きていくことです。出口指導だけにとどまらないようにキャリア教育を推進していきたいと思っています。

また、普通科では多くの生徒が大学へと進学を果たす高校もあれば、専門学校進学者や就職希望者が多い高校もあります。群馬県では普通科高校において、少人数授業や体験学習などを大切にする高校を「ぐんまチャレンジ・ハイスクール」として指定しています。平成20年度の板倉高校を皮切りに、21年度からは玉村高校(Part.2で紹介)、平成22年度榛名高校を指定しています。指定を受けた高校では生徒の興味・関心に応じたさまざまな体験的な活動の導入、基礎的・基本的な学力の定着、社会に出てから役立つ資質・能力の育成など、先進的な取組を行っています。

進学校でも大学等との連携を深め、
大学後の職業も視野に入れたキャリア教育を推進

群馬県には、進学校においてもキャリア教育は盛んです。例えば高大連携として、高校と大学あるいは専門学校間で情報交換しながらどんなことができるかを模索しています。

県立前橋高校では研修旅行を実施し、首都圏や関西圏の国立大学の授業を聴講したり、企業の様子を見学したりといった試みも行っています。また、総合的な学習の時間に全国の大学の授業内容を調べたり、職業意識を育むために医師などの専門家や企業の社長といった人の講演会なども活発に行ったりしています。進学校であっても進学指導だけでなく、大学や大学院を出た後の職業までを踏まえたキャリア教育が重要だと考えています。

いずれにせよ高校の生徒の特徴や進路状況を把握し、それに合致した形で地域や企業、大学、専門学校、専門的人材と積極的に連携し、社会に通じた試みを行って行くことで、健全な勤労観・職業観が育つと考えています。社会や外部の風を学校に導入することで、企業や産業に必要な人材が育ち、ミスマッチによる早期離職等もなくなって行くのではないかと考えます。キャリア教育を展開することで、特に身に付けさせたいのが「意志決定能力」、「人間関係形成能力」、「将来設計能力」、「情報活用能力」です。これらはまさに今、社会で求められている社会人としての基礎力といえるでしょう。

群馬県でも普通科高校、専門高校、総合学科高校のそれぞれの特色を活かしながら、これからもキャリア教育の推進により、生徒一人ひとりの夢と希望を後押ししていきたいと考えています。

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