高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第46回

第46回
キャリア教育実践レポート
「群馬県のキャリア教育推進」Part.2
群馬県立玉村高等学校の実践レポート
「ぐんまチャレンジ・ハイスクールとして
コミュニケーション力育成に力を注ぐ」

インタビュー
群馬県立玉村高等学校 進路指導主事
金子 哲也先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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群馬県では教員の研修や外部アドバイザーの導入などを果敢に進める「夢実現・進路プラン」や、専門高校を中心として「ぐんまトライワーク推進事業」(高校生長期インターンシップ)などに力を入れて取り組んでいるが、普通科高校でも地域性や生徒の個性に応じて様々な取り組みを行っている。
群馬県立玉村高校は平成21年度に県教育委員会から「ぐんまチャレンジ・ハイスクール」に指定され、「自分のキャリアを高められる魅力ある高校」を目指し、基礎基本の充実、コミュニケーション力の育成、進路選択力の育成に力を注いでいる。
キャリア教育に対してどのように考え、どのような取り組みを行っているのかを同校進路指導主事の金子哲也先生にお伺いした。

キャリア教育の研究指定校をはじめ
職場実習等に実績を積む

▲金子 哲也先生

群馬県立玉村高校は群馬県南部、前橋市、高崎市、伊勢崎市という県内主要都市にも近い玉村町の中心部に位置し、1学年80名(2クラス)定員の普通科高校です。本校は平成19~21年度まで文部科学省より「高等学校におけるキャリア教育の在り方に関する調査研究指定校」に指定され、体系的、組織的にキャリア教育を行ってきました。また、総合的な学習の時間(かつて「玉高ライムライトアワー」と呼んでいた)を活用して自己洞察・自己探求・自己表現をキーワードに、作文やレポート、職場実習等を進めてきました。

こうした試みを土台として、平成21年度からは群馬県「ぐんまチャレンジ・ハイスクール」指定の高校として、更に特色を発揮しています。

人との対話を苦手とする生徒が多く、
コミュニケーション力の育成を柱に

本校は人との対話を苦手とするタイプの生徒が集まる傾向にありました。そこで基礎基本の充実、コミュニケーション力の育成、進路選択力の育成を通してキャリアアップを図れるような教育を推進しています。

少人数指導や習熟度指導、さらにティームティーチングによるきめ細かな指導を展開。例えば1年生の英語・数学・国語を中心に「レディネス的内容」(中学校の復習的な内容など)の導入、生徒の読み・書きなど表現活動の重視、実践的・体験的な活動や専門教育に関する教科・科目の設定に力を入れています。

本校独自の教科『教養表現』を設け
社会性や表現力を育む

本校が最も課題だと感じてきたのが、生徒のコミュニケーション力不足です。本校の生徒の中には、中学生の頃から他の生徒と関わりを持つことが苦手な生徒が少なからずいました。

キャリア教育という言葉はここ十年で大きく広まりましたが、本校で各教員が意識的にやってきたのは、まさにキャリア教育の根本だったように感じます。そこで、これまでやってきたことを組織化・体系化していこうと話し合い、平成21年度からスタートさせたのが本校独自設定教科『教養表現』です。

1年が「表現基礎」、2年が「マナーと表現1」、3年が「マナーと表現2」として、現在1年生と2年生が実施中です。いずれも一クラス2~3人の教員で指導に当たり、生徒一人ひとりに目が行き届くようにしています。

1年生のPA合宿は、体を使ったキャンプ
仲間と協力し合う中で学校にも溶け込みやすく

1年生の「表現基礎」では、社会的教養の定着を図ることが狙いであり、まさに「表現力の基礎」を養うことが目標です。本校は玉村町の2つの中学校をはじめ、高崎、前橋、伊勢崎など広い地域から来る生徒もいて、年度当初、学校になじめるかどうかが最初のハードルになっていました。

そこで4月下旬に実施しているのが、PA合宿です。PAとはプロジェクトアドベンチャーの略で、赤城青年交流の家にて1泊2日で課外活動を行います。例えばファシリテーター(外部指導員)の指導のもと、チーム体制でフィールドアスレチックのような活動を実施。高い障害物があった場合に、誰が先に行って後から来るチームメイトを引き上げるかなど、いかにみんなで協力し合って乗り越えるかを、生徒自身が考え、実践していきます。外部指導員はそれを見守り、指示は出しません。また夕食をみんなで作って味わいます。

このような活動で、一つのことを協力して成し遂げることを体験。自然と会話が芽生え、人間関係でつまずく生徒も少なくなり、無理なく学校生活に溶け込めるようになっています。

声に出したり書いてみたり、
表現の基礎=国語の基礎にも通じた力を養う

5月に行う音読講座は教科書の名文を声に出して読みます。自分の声で表現し、発声に必要な呼吸法や腹式呼吸のメカニズムを学習。またグループワークを通じて意見交換を行い、発表と共に自分の工夫を加えて話し言葉に自信をつけます。6月には、書き方講座として、文章の基本的な書き方を理解し、実際に文章を書きます。7月には要点力育成講座として、新聞記事やコラムなどを読んで内容を理解し、要点をまとめます。他に漢字検定などにもチャレンジします。これらは表現力の基礎でもありますが、ある意味、国語の基礎力養成にも通じた授業といえるでしょう。

そして9月には「フィールドワークinたまむら」と題して、玉村町の歴史や文化遺産、例えば地域の神社などに出かけて宮司さんに話を聞くなど、地域の一員としての文化と歴史を知るきっかけにします。さらに10月は作文講座、11月には言葉遣い学習などを行います。

職場見学で学んだことを
文章で表現し、皆の前で発表する

1学年は12月に職場見学を実施。1日間で一人2社を見学します。玉村町の教育委員会と連携し、商工会議所から紹介を受けた製造、販売、介護、保育といった職場に出向いて見聞を広めます。更に職場見学で学んだこと、体験したことを文章で表現し、校正した上で発表します。これにより自分の進路選択に必要な知識理解、資格や望ましい高校生活の在り方など多岐に渡って考えさせ、進路に向けた意欲態度を養います。

3月には1年間の「表現基礎」の学習を通じてどんなことを学んだか、自ら表現する際のポイントを自由作文で発表します。

2学年の「マナーと表現1」では
NPO法人やドラマケーション普及センターの協力のもと
「キャリアガイダンス」・「ドラマケーション」を導入

2学年の「マナーと表現1」は、1学年で学習した「表現基礎」を基礎として、一層のキャリアアップを図ります。特に、異年齢の人と交流できるようにすることが目標です。

本校は県教委が行うキャリア教育コーディネート事業にも申請し、NPO法人キャリア倶楽部と連携しています。「マナー講座」・「いいところ探し」・「チームビルディング」等を実施して、生徒たちが教員以外からも良きアドバイスをもらっています。

また、自己理解・他者理解を目指して「ドラマケーション」を行っています。これは「ドラマ+コミュニケーション」の合成造語。例えば後出しじゃんけんやジェスチャー遊びなど、楽しさと遊びの要素をふんだんに含んだゲーム感覚の体験を通して、自分という存在、他者の存在に気づき、自分と他者の関係を形成するプログラムです。内気な生徒が少しずつ自分を出せるようになったり、うつむき加減だった生徒が相手の目を見て話せるようになったり、この取り組みはとても有効だと感じます。

インターンシップは2回に分けた計5日間
振り返りを徹底し、意義と課題をつかむ

2学年のインターンシップを1回目は9月に2日間、2回目は11月に3日間と、同じ場所で2回に分けて全員参加で行っています。2学年では実際の仕事に加わるので慣れない場所で何日間も続くと気持ちの面で疲れてしまう生徒もいるので、2回に分けて行うのは有効だと感じます。また1回目の問題点を確認し、2回目はより積極的に体験学習に参加し、進路意識を高め、自分の生き方・あり方を考えられたかを振り返ります。3月には1年間の振り返りもしっかり行って、3学年で学ぶ「マナーと表現2」につなげていきます。

3学年のシラバスは今、計画しているところですが、高校卒業後の自己実現に向かって今までに学んだキャリア教育を出口指導に活かしていきたいと考えています。何といっても、社会で求める能力のトップは「コミュニケーション力」であり、そこが基本にあってこそ、本校の生徒も進学先・就職先に定着して学び、社会で継続して働いて行けるものと考えています。

インターンシップ自体はここ10年近く続けていますが、玉村町の教育委員会の働き掛けもあり協力的な企業・機関が多く、生徒の問題行動や企業の苦情等はなく、本校の特色としてすっかり定着しています。他にも本校では部活動、球技大会・文化祭・修学旅行等の学校行事も大切にしています。ここでも、どういうチームを作ったらみんなで楽しめるか、どんな模擬店を出せばお客様に喜んでもらえるか、といった視点で生徒の主体性や協力する姿勢を引き出せるよう教員がバックアップしています。

親にも働きかけて進路意識を醸成
大学進学者も徐々に増えつつある

進路先としては例年、約60%が進学、約25%が就職、残り15%がその他という感じで推移しています。6割のうち大学進学者は数人規模でしたが、今年度は指定校推薦で8名が大学進学を決めています。群馬県内の医療福祉系などへの進学が目立っています。また介護系や看護系の専門学校進学者もいます。就職先の職種としては、ヘルパー・看護スタッフ、准看護士、建築・土木技術者、理美容補助、警備、観光バスガイド、鉄筋組み立て・解体、機械や食品製造などが多いですね。

就職のための面接指導などで教員が励ましながら行っていますが、どうしても対話ができない、途中で投げ出してしまうという生徒もいます。また三者面談も随時行って、保護者の意識向上、卒業後の設計について親子で積極的に話し合う姿勢をよく指導したいと考えています。進路先が未定のまま卒業した生徒にも情報を発信しており、就職意欲を高める工夫を進めています。

本校でも、「進路通信」を発信し、本県の求人倍率や本校の求人状況、キャリア教育の重要性を説いた紙を生徒に持たせて、親にも働き掛けています。今後はできるだけ卒業時に生徒が全員進路実現できるように、教員が一体となって生徒そして保護者にも向き合って行きたいと思います。

小中学校との連携強化が
課題に感じる

本校が目標とするコミュニケーション力を育成するには、高校段階だけでは難しいと感じるのも事実です。小学校・中学校の時点で、親をはじめ人と向き合って話す習慣がないと、高校からいきなりキャリア教育として職業観・勤労観を養成しようとしても限界があります。自分という固い殻に閉じこもってしまっている生徒を、いかに表面を破って柔らかく解きほぐしていくかは、ことのほか大変です。それは親と子の基本の関係にはじまり、小さい頃からの他者との関わりの少なさが影響しています。私たち学校も家庭、地域、企業等いろいろなところと関係を深めていかなくてはならないでしょう。

今は進学校における高大連携などが注目を集めていますが、高校進学率が100%近くなっている現在、高校は小学校・中学校との連携を強化していくことが大切ではないかと感じています。生徒のキャリア教育の発達段階を義務教育課程と高校課程との間で情報交換し、教育の連携・接続をスムーズにする方策はないものか、その辺も試行錯誤しながらこれからも努力し続けていきたいと思います。

1年生『表現基礎』体験レポート

1年B組 玉村南中出身
「私は表現基礎でたくさんのことを学んだ。中でも印象深い内容は、声の出し方についての授業だ。一番大事なのは、相手に伝えることだ。声をはっきり出し相手に伝えることは、コミュニケーション力にもつながり、楽しいことと感じた。そのほかにも普段自分が誤って文法を使用していることや、漢字の間違いが多いことに気付いた。まだまだたくさんのことをこの表現基礎で学んでいきたいと思った。そして、自分が社会人になったときに、学習した内容を表現したり使用したりしていきたい。これから二年生、三年生に進級したときに一年生で学んだものを十分に発揮し、立派な人に成長していきたいと思った」

1年A組 宮郷中出身
「正直『何のために表現基礎の授業を行うのだろう?』と疑問に思っていた。けれども、今は違う。授業を受けていくうちに、人間としての必要最低限の表現のしかたを学ぶことができた。相手の事を思って声を出すことはとても気持ちが良かった。大きな声で話すということは、自分を表現することと同じである。声だけでなく、『書く』ということも表現の一つであって、相手のことを思いながら文章を書けばきっと気持ちのこもった文を書くことができるのである。表現するということは、簡単そうにみえるが、意外と難しいものなのかもしれない。人々が自分たちを表現しやすい社会をつくっていくことが大事だと思った」

インターンシップを経験しての感想

〈勉強になったこと、うれしく思ったこと、感動したことなど〉
「働くことの大変さが勉強になった」
「保育士の大変さがとても勉強になった」
「ありがとう、お礼を言ってもらえて嬉しかった」
「一生懸命仕事してほめられた時うれしかった」
「いろいろな人が声をかけてくれ、『頑張って』と言ってくれた」
「お客さんに『ありがとう・ごくろうさん・頑張ってね』などたくさん声をかけてもらったことが嬉しかった」など

〈困ったこと、失敗したこと、改善すべきことなど〉
「挨拶の声が小さかった」
「もっとテキパキ動きたい」
「一度教えられたことを忘れてしまった」など

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