全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第53回第53回
キャリア教育実践レポート
「富山県のキャリア教育推進」Part.1
富山県立富山中部高等学校の実践レポート
「知的探究心と人間力あるリーダー養成」
富山県立富山中部高等学校 進路指導部長
柳原 英志先生
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富山県では魅力ある県立学校づくりやキャリア教育に力を注いでいる。例えば平成23年度全日制高校卒業生の65.5%が在学中にインターンシップを体験している。全国平均の29.0%を大きく上回り、体験率は全国トップクラスを誇っている。そんな富山県の中から、2校の特徴ある高校を紹介する。
Part.1の今回は「とやまの県立学校元気創造事業」にも選ばれ、学力向上や進学を見据えたキャリア教育に特徴のある富山県立富山中部高等学校を紹介する。(Part.2では富山いずみ高校を紹介)
富山中部高校は、“富山御三家”(他に富山高校、高岡高校)と称される県内トップクラスの進学校で1学年は普通科200名と理数科学科及び人文社会科学科(総称探究科学科)80名からなる。実際どのようなキャリア教育を行っているのか。大学の選び方や将来のビジョン設計などを生徒にどう指導しているのか、保護者との連携なども含め進路指導部長の柳原先生にお話を伺った。
大学進学を見据えた探究力を養う
「理数科学科」「人文社会科学科」(総称探究科学科)を
スタートし2年目
本校は創立90年を超える、富山県を代表する伝統校です。21世紀にあっても輝き続ける学校を目指し、10年ほど前から学校改革に取り組んできましたが、近年の大きな変化としては、それまでの理数科を見直しあらたに「理数科学科」「人文社会科学科」(総称探究科学科)が開設されたことです。この探究科学科は1年次には80名が共通の内容を学習し、2年次より理数科学科、人文社会科学科それぞれに分かれて専門的な学習を行っていきます。
また、各教科の週あたりの授業時間数は普通科とほぼ同じですが、「総合的な学習の時間」や「情報」の時間を活用して探究的な学習を行うことを特徴としています。「総合的な学習の時間」を活用した1年次の「基幹探究」や2年次の「発展探究」では課題研究を行いその成果を発表します。また「情報」の時間を活用した「探究技術」では、探究的な学習に必要な情報技術を学びます。
研究テ-マを生徒自身が決め、テ-マに応じて4~5名程度のゼミ班に分かれ、実験や観察、調査分析などの科学的な手法を用い、また大学や研究機関とも連携して行う課題研究は生徒一人一人の主体的な学習姿勢や探究力を育むと同時に総合的な学力、人間力養成にもつながると考えており、研究に対する目的意識をもった進路選択にもつながることと思います。答えのないものを追究していく中で生徒に大きく成長してもらいたいと考えております。
あこがれの大学に入学した先輩や社会で活躍する
OB・OGの話を聞いて、進路や生き方を考える
本校の生徒はほとんどが大学への進学を希望するので、キャリア教育としてはやはり進路先である4年制の大学紹介と、その先の職業選択を見据えるための機会を多く設けています。
1年生の秋には「進路を考える懇談会」を実施しています。これは、本校OB・OGの大学1、2年生を中心に20名程度を講師として招き、学部別の懇談会を設けて直接先輩から大学生活の様子や先輩から見た学部・学科の内容の紹介、高校時代の受験勉強法などを聞き、生徒が学習の指針としたり文理選択に生かしたりして高校生活を見直し、考えるきっかけとしています。
また、大学教授を招き、人文社会、自然科学に関する講演を行い、生徒が生き方を考える機会ももっています。
大学探訪は2年次の貴重な体験
東京コースは2泊3日で東大などを訪問
2年生では、夏に大学を訪問する「大学探訪」があります。これはここ10年ほど継続して実施している行事です。例年は「東京方面」「東北大学」「金沢大学」「富山大学」の4コースを設定し、生徒はどれか1つ以上のコースを選んで参加するということにしています。「東京コース」は旅費もかかるのですが、保護者の理解もあって、2年生280名中200名ほどが参加します。
東京方面の探訪は、2泊3日で、東京大学、お茶の水女子大学、一橋大学、東京工業大学を訪れ、大学教授によるキャンパス紹介や模擬授業、OB・OGによる施設案内や、懇談会などを行っています。また、企業や研究所、官公庁への訪問もあわせて実施しています。
東北大学探訪は、1泊2日で実施し、オープンキャンパスに参加した後、本校のOB・OGとの懇談会をもち、大学の様子などを聞くことにしています。
金沢大学、富山大学はともにオープンキャンパスに参加しています。大学探訪に関するアンケートを生徒に実施しますが、どのコースでも「良かった」との声が聞こえてきます(生徒の感想は下記を参照)。
母校愛をもったOB・OGが強み
さまざまな分野で生徒に良い刺激を与える
2年生の秋にはまた、OB・OGを招いての進路ガイダンス「進路講演会」を実施しています。これも本校の卒業生を中心にさまざまな分野で活躍する職業人を招いて仕事の魅力や苦労話をしてもらい、生徒に職業観、職業意識を持たせるためのものです。生徒の感想もいろいろ寄せられますが、この行事を通じて生徒の進路希望がより具体性を帯びていくように感じます。
OB・OGが後輩に思いを託し、母校を訪ねて助言することに労を惜しまないで参加してくれることは何よりうれしいことですし、生徒も多くの先輩の話を聞いて自分の将来について、こんな職業人になれるかもしれないといった現実的な夢や思いをもてるのだとも感じます。
探究的な学習を普通科にも生かす
人間力溢れる真のリーダーを育てる
理数科学科、人文社会科学科の生徒は今春、2年生になってゼミ単位で課題研究に取り組み始めたところです。この先6月には富山大学から教授を招いて自分たちの研究にアドバイスをいただくことになっています。また、夏には希望者が東京大学の研究室を訪問し、実験実習を行う予定もあります。そして9月下旬には、課題研究発表会を開催します。
3年生になると、それまでに身につけた探究的な学習の成果を生かし、さらに高い学力をめざすことになります。探究的な学習の成果が生徒の将来にどのように反映していくのか、目的をもった進路選択ができるのか、研究者や職業人として飛躍してくれるのかが今から楽しみです。
本校生徒の意欲に応えるためには、教員も深く担当教科の枠を超えて学ぶ姿勢も大切になりますが、互見授業を行って全教員に公開したり、教科別授業研究会を開催したりして、1~3年までを見通した指導のあり方、目標を共有するようにしています。
こうした学習指導や大学生・社会人との交流が本校のキャリア教育の主軸ですが、他にも社会との接点としては社会福祉施設での交流、ボランティア活動なども行っています。
変化の激しい困難な時代を生き抜く旺盛な探究力、的確な判断力など、世界や日本、地域でリーダーシップを発揮できる総合的な人間力を備えた人材を育てたい、またいずれは探究的な学習を全校に広めて富山中部高校として世界で活躍できる人材を育成できたらと考えています。
保護者との連携などもスムーズ
一方で安定志向を感じる面も
本校では毎年現浪あわせて多くの生徒が難関大学をはじめ、大学に進学していきますが、高校生活で私たちが大切にしているのは普段の学習姿勢です。職員室の前に長いすや白板が用意され個別の学習指導や面接指導が随時できるようになっています。平日4時間の家庭学習時間を目標に掲げ、定期的に生活実態調査も実施しています。「生活あっての学習」が本校の合言葉です。もちろん部活動や体育大会、文化祭、コーラスコンクールなどの行事も活発で、それらに思いっきり打ち込む生徒が多いのも特徴です。勉強とのメリハリ、挨拶や礼儀を含めて生活の基本態度が身についている生徒がほとんどです。
保護者に対しても学年懇談会や個別保護者懇談会などを定期的に実施し、本校の教育の理解を促したり、連携を深めたりしています。授業参観などにも多くの保護者の参加があるなど、保護者の教育への関心も高いものを感じます。ただ、近年はお子さんを近くに置いておきたいとのことから地元や近隣の大学を希望されるというような話も聞きます。経済状況なども関係しているとは思いますが、子どもの潜在能力や可能性を伸ばしてやれるよう後押ししていただければと感じるところもあります。
卒業生が後輩を応援する
良き環境をこれからも
今後とも教員としては授業力を伸ばすことに力を注ぐとともに、進路指導部は担任と協力して、生徒が自己の適性や将来についてしっかり考えて進路選択ができるようにアドバイスしていきたいと思っております。
- もともと志望していた学部より、違う学部のほうがいいと思った。
- 文理を真剣に考えるようになった。先輩方に教えていただいた時間の使い方や勉強のしかたを実践したい。
- 大学に行くことの意識が高まった。目標を高く持ち、自分にあった大学を見つけたい。
- 進路選択の参考になった、今やるべきことを確実にこなしていきたい。
- 東京大学のスケールの大きさをあらためて実感した。
- 先輩方が親切丁寧にキャンパスを案内してくれた。また、学習・生活全般にわたって多くのことを教えていただいた。
- 自分も勉強に打ち込もうという意欲がわいてきた。
- 一つの職業でもさまざまな分野・専門があってどれもすごく魅力的であった。
- 安定しているか、楽かでなく、興味が持てるかに重点を置くべきだと思った。
- 学生時代に多くのことを体験することで教養や人生観を広げられるということが判った。
- やりがいを重視していきたい。続けられる仕事を選ぶことが大切だと思った。