高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第56回

第56回
キャリア教育実践レポート
「青森県のキャリア教育推進」Part.2
青森工業高等学校の実践レポート(2)
「ものづくり意欲溢れる生徒を育成。
小中との連携で、地域に愛される高校へ」

インタビュー
青森県立青森工業高等学校 進路指導部主任
山口 正実先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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平成24年に創立100周年を迎えた青森県立青森工業高等学校では、青森県で初めてインターンシップを導入して20年を数えるほか、小・中・高が連携した独自の効果的なキャリア教育を模索している。本校では「ものづくりを通した人づくり」を大切に、インターンシップをはじめ、就職希望者に向けた面接対策や資格対策、進学希望者の入試対策、さらに部活動まで、生徒をさまざまな形でバックアップする。
Part.2では、就職や資格対策、部活動などについて、進路指導部主任の山口正実先生にお話を伺った。

就職難で厳しい状況にある分、
国家試験など資格取得を支援

▲山口 正実先生

本校の進路状況は従来から就職が約7割、大学・短大・専門学校を含めた進学が約3割といった状況です。近年は不況の影響で、県内外からの求人件数も減ってきており、就職はやはり厳しくなっています。普段の勉強と部活の両立を奨励するだけでなく、就職対策として資格取得を促し、面接対策なども入念に行っています。

例えば「都市環境科」では今年、測量士補の試験に11名が受験し、8名が合格を果たしました。「機械科」では「技能士」資格として、機械保全、普通旋盤、仕上げ機械組立、機械検査に関して2級・3級試験の取得に力を入れています。他にも「電気科」なら「電気工事士」、「情報技術科」なら「基本情報処理技術者」などの国家資格取得に力を注いでいます。これら資格を複数取得することは高校時代に頑張った証となり、就職においても高く評価される傾向がありますね。私たち教員は授業だけでなく朝の補習を行ってバックアップするほか、生徒には学科の枠を超えて、興味がある資格を取得することを奨励しています。

「面接練習お願いカード」を持って
先生20人に評価してもらう生徒も

就職に向けた面接対策も、本校は力を入れています。面接の練習がしたい生徒は、「面接練習お願いカード」をいろいろな先生に予約をもらって練習します。そして「面接練習履歴カード」に各先生からの評価をいただけるのです。生徒の中には、20人くらいの先生に面接指導を受ける生徒もいますし、担任や他の先生、学科主任、学年主任、進路主任はもちろん、特に教頭の前には列ができることも多いですね。

本校の教員の中に、生徒からの依頼を嫌がる者はいません。みんなで面接時に生徒の良さを引き出してあげよう、こんな質問にはこう答えた方がいいとアドバイスし、面接会場における挨拶や礼儀マナーも含め就職を後押しする体制があります。

「工業クラブ」は毎年のねぶた作りなどが恒例
お祭りで地域の評判が生徒の励みにも

本校はまた、部活動に力を入れているのも特色です。例年、ボクシング部やバスケット部、バレーボール部、ラグビー部などは全国大会出場を果たしていますし、ヨット部やボウリング部まであります。

運動系・文化系の部活動だけでなく、本校は伝統的に「工業クラブ」の活動が大きな特徴です。工業クラブには情報技術系・機械系・建設系・電気電子系があるほか、ねぶた研究部やロボット研究部もあります。ねぶた研究部は今年で創部20年目。夏のねぶた祭りに向けて秋から構想を練り、資料を探すなど翌年の準備を始めます。春から4カ月かけてコツコツと作り上げ、7月に全校生徒にお披露目した後、本番のねぶた祭りに挑みます。作ったねぶたは地域に寄贈することもあります。ねぶた部の活動は、工業高校の伝統である「ものづくり精神」につながっています。

ねぶた祭り本番の時も「『さすが工業高校』と声をかけられるのが嬉しかった」とか「中学の後輩が、ねぶた部でねぶたを作りたいから工業に入学したいと言ってくれている」など、生徒の喜びの声に触れることが多いですよ。

他にロボット研究部は例年ものづくりコンテストに出品していますし、建設系の生徒もコンペ(競技会)に、設計図面や模型を提出したりしています。まさにものづくりが活発な本校の真骨頂であり、そうした活動が社会に飛び出す原動力となっていると感じます。ただ工業クラブは活動費として、大会参加費や交通費、運搬費などがかかるので、1年間1人2,000円の会費は徴収していますが、親御さんにはその辺は理解を示していただいています。

生徒がものづくり分野で活躍することが願い
今後も小中との連携や課外活動も積極的に

本校は希望した生徒の100%の就職率が目指すところです。しかし、実習やインターンシップを通して、「ものづくりが自分には向かないのでは」と感じる生徒もいます。その場合は、その子の適性を見て就職先を販売職にしたらどうかとアドバイスしたり、就職から進学への転換などの相談に乗ることもあります。また卒業後も自衛隊など公務員に再チャレンジする生徒もいれば、家業や親せきの仕事を継ぐ者もいます。フリーターやニート予備軍もゼロではありませんが、卒業時には進路が決まっている生徒がほとんどです。

進学の場合は、私立大学は学費も高く、保護者の方の負担が大変ということも多く、弘前大学をはじめ東北近県や北海道を含めた国公立大学(特に工業系)への進学を考える生徒が多いですね。進学率アップのために、特にAO入試や推薦入試対策には力をいれています。

近年は地元志向が強いと感じます。親御さんも経済的に遠方にやれない、子どもも親元がありがたいと考える傾向が強いですね。ただし就職希望者のうち高校1年の段階では6割が地元志向なのですが、2年・3年と進むうちに県外への希望が逆転して増える傾向にあります。

青森県は企業誘致などが他の東北県に比べて少ないために求人数が少なく、また給与面でも物足りないと感じるなど、生徒も次第に現実を知るようになります。ですから、成績が良い生徒や、ものづくり志向が強い生徒は首都圏など就職する割合が高いですね。

本校としては今後も「ものづくり意欲」を高めて伝統を引き継いでいくとともに、地域への愛着を育てながら生徒たちがイキイキと世の中に出ていって活躍してもらうことが願いです。青森県は少子化の影響が大きく、各地区で学級減が進む傾向にありますが、工業高校など専門高校の伝統と技術は綿々と受け継ぐ方向にありますので、さらに地域に愛される高校にしていきたいと思います。

全国の工業高校の先生方にも、地域に根差して小中との連携を図ったり、工業クラブなどの活動を活発化させることをお勧めしたいですね。地域に出向いて作品を発表したり、小中との連携を活発化させることは、生徒の創造力やコミュニケーション力の向上、高校と地域両方の活性化にもつながっていくのではないでしょうか。

インターンシップを受けての感想
〈『第19回インターンシップの記録』(平成23年度)より抜粋〉

◎建築科の生徒:実習先=建設会社
「現場で感じたことは、建築物をつくるには、いろいろな人たちの協力が必要だということです。だから、現場の人たちは、仕事の合間に話したりして人間関係を築いているのだと思いました。午後には、自分で簡単に考えた家の製図をしました。それから、製図した図面の発表会をしました。あまり人前で発表をしていなかったので緊張もしました。ですが、とてもいい経験をしたと思います」

◎機械科の生徒:実習先=建機販売の会社
「三日目はエンジン分解をしました。チーフの人がとても分かりやすく教えてくれて、そのほかにもエンジンの調整・組み立てをしました。その後ビデオ鑑賞をし、仕事での危険性について学びました。ちょっとしたことで事故が起きてしまい、仕事では気を緩めてはいけないと思いました。三日間で学んだことは、特に仕事でのマナーと、仕事をするにあたってすぐにあきらめないこと。このことを将来的に役立てていきたいと思いました」

◎電子機械科の生徒:実習先=製作会社
「会社での作業は、立ち仕事が多かったので終わった後、足がとても痛かったです。(中略)自分が、少し難しかった作業は電子メーターコードの被覆はぎです。この作業では同じ長さに正確に被服をはいでいく必要がありました。ドリルを使い、プラスチックのふたに穴を開けていく作業はなんなくこなしていくことができました。プラスチックの箱の運搬とかたづけでは効率よく作業をこなしていけました」

◎電気科の生徒:実習先=電力会社
「私が一番楽しいと感じたのは、変電設備の見学です。教科書やテキストで学ぶのと違い、実際に近くで見るのは好奇心がそそられ強く印象に残りました。電力会社での研修では、ほとんどの社員に電気工学を学ばせるそうです。最初は何故かと思いましたが、実際に実物を見ることで理解力が全く違うと分かり、とても感動しました。(中略)社員の方一人一人が仕事に対して真剣で責任感を持っていると感じました。私も将来、働くときはそんなかっこいい大人になりたいです」

◎電子科の生徒:実習先=無線会社
「LANケーブルの製作をしました。最初は慣れない作業でいろいろと大変でしたが、1メートルのLANケーブルを何とか作り、それを機器で測定し、使えるかどうかを確認しました。1日目は緊張して大変でしたが、何とかやり遂げることができました」

◎情報技術科の生徒:実習先=パソコンサービス会社
「3日間で今までやったことがない作業をたくさん経験することができました。特に印象に残っているのは、パソコンを組み立てる作業です。今までパソコンを使うことや、パソコンの中身の勉強はしたことはあっても、その中身を実際に自分の手で組み立てるということはありませんでした。だから、学校の授業でやっている内容を生で見ることができてとても良い体験ができたと思います」

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