高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第55回

第55回
キャリア教育実践レポート
「青森県のキャリア教育推進」Part.1
青森工業高等学校の実践レポート(1)
「ものづくり意欲溢れる生徒を育成。
小中との連携で、地域に愛される高校へ」

インタビュー
青森県立青森工業高等学校 進路指導部主任
山口 正実先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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青森県では近年、不況や少子化、震災の影響を受けつつも、キャリア教育や特色ある学校作りに力を注いでいる。県立高校の中でキャリア教育に力を入れているのが、平成24年に創立100周年を迎えた青森県立青森工業高等学校だ。
青森県で初めてインターンシップを導入して20年を数えるほか、県教育委員会の「明日へはばたけあおもりっ子キャリア教育推進事業」に採択され、平成23~25年の3カ年事業にも取り組んでいる。この事業では、小・中・高が連携した独自の効果的なキャリア教育を模索している。他にも「ものづくりを通した人づくり」を大切に、インターンシップをはじめ、就職希望者に向けた面接対策や資格対策、進学希望者の入試対策、さらに部活動まで、生徒をさまざまな形でバックアップしている。これらの取り組み内容やその成果について、進路指導部主任の山口正実先生にお話を伺った。

創立100周年を迎えた工業高校
インターンシップ導入のパイオニア

▲山口 正実先生

本校は平成24年(2012年)に、創立100周年を迎えた工業高校です。現在は「都市環境」「建築」「機械」「電子機械」「電気」「電子」「情報技術」の7科に定時制(夜間)も含め生徒約800人を擁する、地域の中では規模の大きい高校です。年月を経て学校の規模も膨らみ、校舎も昨年新設移転するなど変わりましたが、「ものづくりを通した人づくり」の精神は変わらず、多くの工業技術者を産業界へ輩出し続けています。

例えば県内でインターンシップを導入したのも、本校が初めてです。1993年(平成5年)に「現場実習」としてスタートし、今年で20回目となりました。今は各科で提携するそれぞれ10数カ所ある企業先に、2年生を対象に7月や9月の3日間を当てています。職場体験を通して将来の職業観や勤労観を育成しようと始め、当初からほとんどの生徒が進路選択に役立っていると感じています。

私たち教員は普段の実習授業においも、点呼や整列、挨拶、用具指導や言葉遣いなどを徹底して指導していますが、その流れでインターンシップの受け入れ事業者にも「厳しく指導してください」とお願いしています。実際に現場の方から直接指導を受け、仕事を通じて人間関係のあるべき姿に触れ、仕事の厳しさやチームワークの大切さを実感していると感じますね。

インターンシップを通して
危機感や高い意識を持つ生徒がほとんど

毎年協力していただける企業や事業所が多いですが、中学校や普通科高校にもインターンシップが広がった影響、経営に余裕がないなどの理由で「今年の受け入れは難しい」と言われる場合もあります。しかし、ほとんどの地元企業は快く引き受けてくださいますね。

インターンシップ実習終了後は、お礼状の発送や日誌・評価表のまとめ、その後2年生から1年生へ向けたインターンシップ報告会を行っています。そして11月頃に記録集の編集作業にとりかかり、年明けには関係先へ発送しております。

インターンシップ中は、教員が各事業所を分担して巡回し、生徒の状況を掌握します。生徒はインターシップ日誌を持参しますので、それに記録及びご指導をお願いしています。事前に学校で安全教育を行いますが、事業所においてもその辺りは配慮いただいています。

生徒は現場の厳しさを肌で感じることにより、このままでは社会に通用しないという危機感を持ったり、もっと頑張ろうという気持ちが高まったり、勉強や実習に一層集中して取り組むようになりますね。3日間は安全第一に事業の妨げにならないよう行うため、補助的な作業が主になりますが、会社の雰囲気、社会人への心構えをつかみとってきて、多くの生徒が少し大人になって帰ってくる印象を受けます。

専門学科に対応した技術者の授業が活発
本校OBを講師に招くことも

他にも本校は、学科に対応した企業の技術者や熟練技能者を招いての授業・実習を実施しています。また卒業生を講師とした授業を実施していますし、気軽に訪ねてきたOBにも授業に参加してもらい、社会の厳しさ、仕事の面白さを話してもらうこともあります。OBから生徒への何気ない言葉も、大切なキャリア教育だと考えています。

本校のOBには、例えば小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトのイオンエンジン開発に携わった電子科卒業生、清水幸男さん(青森県出身)がいます。先日の創立100周年記念式典においては、「はやぶさ」プロジェクトを率いた宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎教授(弘前市出身)に講演をお願いし、また清水さんと研究を振り返る記念対談をしていただきました。

県のキャリア教育推進事業として
ものづくり教室を開催

青森県キャリア教育連絡協議会との連携で取り組んでいるのが、「明日へはばたけあおもりっ子キャリア教育推進事業」です。この事業では、小・中・高等学校が連携し、12年間を見通した独自の効果的なキャリア教育を確立し、広く県内に普及させることを目的としています。本校はかねてより「ものづくり教室」を開催しており、ものづくりが好きな小・中学生の拡大を図る拠点にふさわしいということでしょう。

東青地区では高校では本校が、中学校では青森市立東中学校、小学校では青森市立原別小学校、同野内小学校、同東陽小学校が研究指定校となりました。平成23年度はキャリア教育の指針の策定を目的に、昨年10月22日の本校学園祭で「ものづくり体験教室」が開催され、研究指定校の小・中学生51名が参加しました。

本校の生徒約30名が小・中学生を支援し、熱心にゲルマニウムラジオの製作など、ものづくりに一緒に取り組みました。

小・中学校への訪問も活発化
「工業高校生は年下の扱いが上手」との評判も

平成24年度は、本校に来てもらうだけでなく、小学校の理科の実験補助として、生徒が出向いています。また地域の小学校3・4年生が「青森を知る」一貫として本校を訪ねてきた時に、例えば金魚ねぶたを一緒に作ったり、小学生向けにサンドプラストとしてガラスに字を書いたり、写真加工の方法を教えたり、いろいろな交流を図りました。

訪ねてきた小学生は本校の充実した実習施設を使ってものづくりの楽しさを実感したようで、その小学生たちから本校に感謝の手紙が届いています。さらに今年度は、近隣の中学校に出向いて本校の実践的な学びをアピールしています。ロボットや動画の作り方を見て興味を持ってもらったり、縦の連携を積極的に図っているのです。

小学校や中学校の先生からも、「青森工業高校の生徒は、年下の子の扱いが上手だね」と良き評価をいただいています。

今年度のこうした取り組みは校種間連携のモデルとして、全県のモデルプログラムとなるよう体系化し、「キャリアノート」にまとめることが平成24年度の課題です。そして平成25年度には、キャリア教育の指針(実践編)の作成につなげいくことを目指しています。

小・中学校との連携は、本校の理解も促せますし、県が実施する緊急雇用対策支援にもなり、ものづくり意欲を早くから醸成することにつながります。私たち工業高校の教員としては、やはりものづくり意欲が高く、やる気を持って本校に進んでくれる中学生が増えてくれたら嬉しいですね。また小・中との連携を通して、生徒はお兄さん・お姉さんの意識を強く持ち、コミュニケーション力を養える良さも感じています。

《つづく》
次回は、本校の工業高校ならではの部活動や、就職に対する取り組みについてです。

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