高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第61回

第61回
キャリア教育実践レポート
「京都府のキャリア教育推進」Part.1
京都府立洛西高等学校の実践レポート(1)
「大学生の先輩と語り合い、今と将来への動機を強く」

インタビュー
京都府立洛西高等学校
進路指導部部長 
坂部 清人先生
前・進路指導部部長 亀村 眞一先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

府立高校の特色化推進プランを進めている京都府にあって、京都市西部に位置し洛西高校ならではの体制を「洛西スタイル」と銘打って掲げているのが京都府立洛西高校だ。ここ数年来の取り組みを「洛西プロジェクト」として、学力向上プロジェクト、学校生活充実プロジェクト、進路達成プロジェクトの3本柱に体系化。特に進路達成プロジェクトでは、キャリア教育プログラム「Kyotoカタリ場@洛西高校」を行うなど、大学生や先輩方との交流を推進している。もともと文武両道の学校ではあったが、キャリア教育の視点を導入することで、進路にも好影響をもたらしているようだ。
Part.1では進路達成プロジェクトを中心に、同校の進路指導部部長の坂部先生と前・進路指導部部長の亀村先生にお話を伺った。

特色が求められる普通科高校の中で
「洛西プロジェクト」として取り組みを体系化

▲亀村先生(左)、坂部先生

本校は1980(昭和55)年に、京都市西部地区に位置する西京区に生まれた34年の歴史ある普通科高校です。緑豊かな環境に包まれた住宅街に位置し、「夢・未来・洛西高校で輝く! -超えるのは現在(いま)の自分-」をキャッチフレーズに「幅の広い進路希望の実現が可能な学校」「学校行事や部活動が盛んな学校」「将来の世界を背負う若者が育つ学校」を目標に、確かな学力と生きる力の育成を目指し、自ら学ぶ意識を育くんでいます。

京都府の公立全日制普通科には、これまで第Ⅰ類・第Ⅱ類・第Ⅲ類の3つの類型がありました。第Ⅰ類は普通科目を全体的にバランスよく履修し、基礎的・基本的事項を重視しながら学力の充実を図るものです。第Ⅱ類は、学力伸長コースと呼ばれ、私学でいえば特進コースであり、第Ⅲ類は、特定の教科・科目の履修によって個性の伸長を目指すもので、体育系、芸術系、英文系です。

昨年度まで、本校は第Ⅰ類と第Ⅱ類のみで、まさに一般的な普通科高校でした。しかし、第Ⅰ類はこれまで学区制のもと総合選抜制が敷かれ、中学生は一部を除き地域によって割り振られる形で進学先が決まっていました。結果、第Ⅰ類の生徒はどの高校も「どうしてもここに入りたい」という気持ちが希薄になりがちでした。

京都府では公立高校の特色化を推進するために、2014(平成26)年度入学者選抜から、学区を超えて志望校を選べる単独選抜制に変更するとともに類・類型も発展的に解消しました。本校でも、入学時に「発展クラス」、「標準クラス」に分かれて学習する体制としました。本校のような普通科高校はより特色が求められるようになったといえるでしょう。

進路達成プロジェクトを中心に
キャリア教育を推進

そこで本校はこれまで取り組んできた特色ある学校づくりの概要を、中学生や保護者をはじめ外部の方に分かりやすく紹介するべく、近年「洛西プロジェクト」という形で体系化しました。

本校では1~3年の行事を、次の3本柱で組み立てています。

(1) 学力向上プロジェクト(伸ばす)
→ 質の高い授業と充実した学習環境

(2) 学校生活プロジェクト(培う)
→ 豊かな人間性を育成する学校行事

(3) 進路達成プロジェクト(目指す)
→ 進路実現を可能にする様々な取り組み

キャリア教育ということでいうと、(3)の進路達成プロジェクトが当てはまりますが、(1)と(2)も広い意味のキャリア教育といえるでしょう。

「Kyotoカタリ場」を府内でもいち早く採用
大学生から刺激を受け、今何をすべきかを認識

近年のトピックスとしては、2012(平成24)年から始まった「Kyotoカタリ場@洛西高校」が挙げられます。

生徒を内側から揺さぶり、未来に向けて根源的な学習意欲を喚起する良い機会と捉え、京都府内でも本校が早い段階で手を挙げてこの企画を採用することにしました。

このプログラムの実施運営は、NPOカタリバから正式にノウハウの提供を受けている業務委託先「NPOブレーンヒューマニティ」(兵庫県西宮市にある大学生主体の非営利組織)です。

過去2回は10月に行われ、1年生全員約360名が体育館に集合。生徒7~8人に一人の割合で、車座になって現役大学生が高校生一人ひとりと「現在の自分」「将来の姿」について語り合いました。現役の大学生から高校時代の体験や今打ち込んでいること、大切だと思う価値観を聞き、自らの将来について考える良い機会にしています。

例えば引っ込み思案と思われる生徒に対しても、大学生(キャスト)が積極的に声かけして輪の中に自然に入れるなど、その辺りはコミュニケーション力豊かな大学生がうまく本校の生徒をリードしてくれていると感じます。

1日の数時間の対話で、ガラリと生徒が変わるというわけにはいきませんが、将来自分が目指すような大学の先輩と語り合う貴重な機会となっています。特に1年生の秋は部活動と勉強の両立でへばり気味なので、その辺で大学生に発破をかけてもらう生徒も…。

例えば思い切り部活動に打ち込んだ方から、部活動をすることが勉強の集中力につながり、結局は志望校合格の確率が高くなるという話を聞き、毎日を充実させることの大切さを痛感。将来の進路意識というよりは、今、何に夢中になれるか、何を頑張るといいのかという辺りの意識づけになっていると感じます。

アカデミックネットワーク京都で
地域に根差した教育・研究に触れる

他に(1)の学力向上プロジェクトや(2)の学校生活充実プロジェクトとも関連しますが、1年生は入学直後にスムーズに高校生活をスタートするための1泊研修があるほか、夏期休業中には「葉月学舎」として学習合宿を実施します。京都市内の施設で3泊4日、ひたすら勉強の時間を過ごします。メインテーマは「自学習慣の完成」です。初期指導の完成時と捉え、講義の時間・演習の時間に加え、自学の時間を重視しています。

また本校は府立高校特色化事業の一つである「アカデミックネットワーク京都」実施校に指定されています。

これは、国際社会に貢献できるリーダーの育成を目的とした事業であり、昨年度は、1年生の2学期に「まちづくりワークショップ」「新聞社の見学と論説文の作成」など社会に通じた体験に取り組みました。2014年2月には「世界の中の日本」をテーマに作成した論文コンテストに参加したり、「共に生きる社会の実現について」プレゼンテーション、国際社会で活躍する企業経営者からの講演を聞いたりしました。

さらに(独立行政法人)科学技術振興機構(JST)が行うサイエンス・パートナーシップ・プログラム(SPP)にも採択され、例えば理数コースの生徒が、「京都大学物質-細胞統合システム拠点」との連携により、iPS細胞を題材にした観察、実習、講演を実施。大学の高度な授業を聞き、最先端科学を探究することで、科学への興味・関心を高め、科学的視点と学力向上の意識を養っています。

大学体験プログラムでは17~18大学
多様な学部の教授が多様な講義を行う

1年生の3学期では職業探究プログラムとして「探そう! じぶん未来」と題し、LHRを中心に将来の職業について情報と知識を得て、目標を探るようにしています。本校は4年制大学・短期大学・専門学校も含めた進学校ですが、毎年約10人たらず就職希望者もいるので、職業意識の涵養というねらいもあります。かつては職業人や保護者を学校に招いて仕事を語ってもらうような時期もあったのですが、今は行っていません。

今年度の1年生から、標準クラスと発展クラス(国公立大学、難関私立大学志望)に分かれて学びます。1年次は標準クラスも発展クラスも同じカリキュラムで学びますが、2年生から人文コース(標準クラス・発展クラス)、理数クラス(発展クラス)に分かれます。

2年生の1学期は学部・学科研究学習を全5回行う他、6月には大学体験プログラムとして「洛西Academic Session」を開催。これは17~18の大学から各学問分野の教授を迎え、入門講義を受けるものです。

最近は国公立大学なども出張講座などを積極的に行っていただけますので、喜んでいます。生徒は知的好奇心がくすぐられて学ぶことの楽しさを体感し、自分の進むべき系統の発見と学習・進学意欲の向上に繋がっています。また、夏の各大学等のオープンキャンパスに参加する視座・視点を養っています。

洛西スタイル伝承プログラム「先輩の声を聞く会」
母校愛を持つ先輩の語りに耳を傾ける

2年生の夏休み中の課題として進路レポート学習があり、自分の希望大学・学部の内容を調べてレポートします。冬期講習では小論文学習(5回)を実施し、推薦入試やAO入試対策、一般入試への動機づけに備えます。とにかく書くことで自分の課題を確認し、将来の目標を明確にするようにしています。(この辺りはPart.2で紹介)

さらに2年生終わりの春期講習では洛西スタイル伝承プログラム「先輩の声を聞く会」を実施。これは本校を卒業して、国公立大学や私立大学に入った卒業生4~5人を招いて後輩達へのメッセージを聞くものです。特に学習と部活動を(勉強の)両立し、目標を達成した卒業生に講演してもらっています。自分の経験を後輩に伝えたいという想いの卒業生は多く、協力的なので人選には困りません。

また大学での教育実習にも本校を選択する卒業生や希望して本校に勤務する教員も多く、母校愛の強さを感じますね。

3年生になると5月の進路別説明会をかわきりに、国公立大学や短期大学、専門学校、就職希望に分かれ、それぞれの道を目指してひたむきに頑張るようになっています。

京都府内をはじめ大学の選択肢は豊富
3年間を完全燃焼し、進路を確定

本校における進路実績の過去5年をみると、国公立大学に少ない時は30数人から多い時は50人以上が合格するほか、私立大学には毎年のべ400人近くが関関同立をはじめ、関西圏を主とした私立大学に合格。短期大学が30~40人、専門学校が40人~90人、就職が5人~13人という状況です。

本校は京都市内にあるため、特に私立大学や専門学校の選択肢は比較的豊富です。今年度の入学生は特に進学意欲も高く、これからが楽しみです。また、最近の生徒たちは地元志向が根強いですが、できるだけ視野を全国に広げて欲しいと考えており、私たちもそのための情報提供は惜しみません。

本校生徒の進路は、過去から現在まで、フリーター予備軍は少ないと思います。また浪人生も比較的少なくなっています。このことは生徒達が洛西生らしく学習も行事も部活も、高校3年間を完全燃焼するという「洛西スタイル」の結果であるとともに、それぞれが納得して自分の選択した進路先に進んでいる、と私たちは受け止めています。

新着記事 New Articles