高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第62回

第62回
キャリア教育実践レポート
「京都府のキャリア教育推進」Part.2
京都府立洛西高等学校の実践レポート(2)
「書くことや面談、文化祭を大切に、主体性を育む」

インタビュー
京都府立洛西高等学校
進路指導部部長 
坂部 清人先生
前・進路指導部部長 亀村 眞一先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

「洛西スタイル」を掲げて、京都市西部で輝きを放つのが京都府立洛西高校だ。ここ数年来の取り組みを「洛西プロジェクト」として、学力向上プロジェクト、学校生活充実プロジェクト、進路達成プロジェクトの3本柱に体系化。特に進路達成プロジェクトでは、キャリア教育プログラム「Kyotoカタリ場@洛西高校」を行うなど、大学生や先輩方との交流を推進中。もともと文武両道の学校ではあったが、キャリア教育の視点を導入することで、進路にも好影響をもたらしているようだ。
Part.2ではキャリア教育をどう捉え、普段の授業や進路相談、文化祭などがどう行われているのか、同校の進路指導部部長・坂部先生と前・進路指導部部長の亀村先生にお話を伺った。

「進路達成ストーリー」を書き、
一人ひとりが3年間の自分史をつくる

▲亀村先生(左)、坂部先生

本校ではキャリア教育として、インターンシップや職業体験は行っていません。学校生活充実プロジェクトや学力プロジェクト、進路達成プロジェクトの3本柱を軸に、落ち着いた教育環境と、日々の授業や行事の充実に努めることがキャリア教育につながるという考えです。

授業の各教科を学ぶことは、我々の周囲を取りまく世界・社会を体得することでもあります。行事において集団の中での自己の果たせる役割を発見することは、自己が貢献できる領域を知ることでもあり自己理解につながります。また普段の授業科目、雑談の中で職業や進学を意識させたり、自分の経験談を語ったりする先生もいます。学習も部活動、学校行事も大切にし、どれも手を抜くことなく当たり前に実践しています。

近年の課題としては、中学校で自学自習の習慣が根付いていない生徒がいる、と感じられること。その辺りは自分と正面から向き合う時間が足りないと捉え、そのために何でも書いてみることを推奨しています。

その代表的試みが「進路達成ストーリー」(ワークシート)で、6~7年前から実践しています。「進路達成ストーリー」と表紙に書かれた1人1冊のクリアファイルを3年間持ち、自分の学習状況の確認を行うだけでなく、先生と随時交換し対話の材料としています。

学習指導の状況を常に確認し合うファイルのやりとりは、「書く」ことで自らの学習状況を自覚し、「残す」ことでその足取りを確かめることができます。少し手間ではありますが、決して面倒ではないよう、端的に記載しやすい工夫がされています。

最初、入学した生徒の面談用記入シートには、高校卒業後の希望進路先、加入予定部活動、得意科目と不得意科目、現在の学習時間、睡眠の状況、高校生活で達成したい目標などを端的に書いてもらっています。

また学習自己診断表として、各教科を項目別に分けて進度状況をそのつどチェックするとともに、年間を通して定期テストの点数をグラフ作成し、毎回の反省と次回の意気込みを書きます。

「進路達成ストーリー」のファイルや学習自己診断表は、学年が変わっても次の担任が引き継ぎますので、一人ひとりが何を目標に頑張ってきているのか、どう成績が推移しているのか、教員側は一目瞭然で引き継ぎも楽に行えます。生徒も書くことで自分の現在地や課題を認識し、今何をしなければならないのか、気づきが得られます。

面談の機会が多く、
生徒が先生に相談する光景が日常化

本校の特色ともいえるのが、書いて終わりではなく、先生と生徒の面談・交流の多さです。休み時間や放課後は職員室の前に設置されたテーブルの椅子に座り、教員と生徒がマンツーマンで語り合っている姿があちこちで見られます。

「進路達成ストーリー」を見ながらここを頑張ろうというアドバイスを送ることもありますが、それ以外に勉強や部活動、日常生活の相談に乗ったり、例えば「こんな職業に興味があるのだけど」「この大学・学部の中身は自分に合っているか」「この大学に行ったら、どんな将来が待っているか」といった相談はもちろん、例えば「先生はどうして先生になろうと思われたのですか?」という質問も出てきます。

何気ない会話の中で、先生自身が進学や就職を決めた理由を語ることもあります。親とは話せないことも多く出てきますし、先生と生徒が胸襟を開いて、忌憚なく語り合える環境が本校の自慢です。

土曜学習をスタートし、
学校という場で日々の学習を習慣づける

平成26年度からは自学自習の習慣を学校で定着させることを目的に、「洛西サタディ」として土曜学習をスタートさせました。土曜授業は第2・第4週があり、そのあとは自学の場として「サタディ道場」を設置し、10時35分から12時25分まで勉強して帰ることができます。

その一方で、それ以外の土曜日は本校には進路指導部が設定している「土曜自習部」という自学の場があります。こちらは視聴覚教室で9時~11時を基本に学習。これはメンバー登録が必要になりますが、家にいてだらだら過ごすならば、学校に登校した方がいいと考える生徒もいます。実際、土曜日学習を続ける生徒は「自学の鉄人」として学力が伸びる傾向にあります。

土曜の午後は部活動に打ち込むので、それなら午前中から学校に来て勉強してからという生徒もいます。教員にも気軽に不明点を質問できることもメリットです。保護者の方々も、生徒が土曜日に学校に行くことに賛同していただける傾向は強いと感じます。

洛西フェスティバルで
一生懸命になる生徒の姿が誇り

文武両道が伝統としてある本校において、年間最大のイベントといえるのが「洛西フェスティバル」という学校祭です。文化の部は9月の3日間開催され、例年第1学年は「仮装・ショーアップ」、第2学年は「小劇場」、第3学年は「演劇」で、各クラスが順位を競います。また発表内容を示す「立て看板」も順位が付けられ、表彰されます。

その数日後には、学校を飛び出し地域の方々に直接、洛西高校の活動を楽しんでいただくのが「オープン文化祭」です。会場は「ホテル京都エミナース」。文化の部の各学年1位、2位のクラスや文化系部が発表します。この日のステージ発表の権利を得るため、例年「エミナース」を目標に生徒たちは張り切っています。さらに9月終わりにはスポーツの部として、「トラック競技」「フィールド競技」別に競い合い、団体総合表彰とクラス表彰があります。

伝統的に、本校の生徒は一生懸命が恥ずかしくない、本気でぶつかって盛り上がることが自然にできるのが特色。有名歌手や芸人を招くわけでも、模擬店をするわけでもありません。でも激しく盛り上がり、卒業後も思い出として残っている生徒が多くいることは誇れる点です。本校生は何か楽しいことを探すことより、本気で取り組むことが本当の楽しさに繋がることを体得しているのです。このことも「洛西スタイル」です。

普段目立たない子も脚本や看板作りに活躍
文化祭等で生徒の頑張る姿は感動もの

私たち教員も普段は目立たない生徒が、文化祭では主役に踊り出たりする光景を目の当たりにし、驚き、感動することもしばしばです。

文化祭はクラス全体の取り組みのため、一致協力しようという動きが自然に出てきます。一部の生徒だけがやっている感覚ではありません。例えば普段は地味でおとなしい生徒が、脚本を書いたり、演出をしたり、看板やポスターを描いたりして、先生や同級生からも一目置かれた存在になったりします。

主役はオーディションで決めたりしますが、たとえ選定されなかったとしても、照明や舞台づくりなど裏方で活躍する生徒もいます。「待ってろ、エミナース」を合言葉に、クラスの上位入賞に向けて全員が自分の役割を果たし、クラスに貢献しようとします。だからこそ、審査結果発表の時は体育館が絶叫と涙の嵐になります。

私たち教員も演目などの相談に乗ったり、多少の手伝いをしたりはしますが、多く口出しをすることはありません。毎年この時期になると生徒はそわそわとし出し、自然と熱く、盛り上がっていきます。若者の間で一生懸命な姿が恥ずかしいような風潮も見られる中で、本校の学校祭は本気と本気がぶつかり合って火花を散らし、大きな成長の糧となっています。

行事に一生懸命打ち込むのもキャリア教育
明日の糧にできる高校生活すべてを応援

私たちは、生徒が行事に一生懸命になること自体、大きな意味でキャリア教育だと思っています。集団・組織に加わって自分がその一員として何ができるかを考え、得意なことで提案したりし力を発揮する。それはまさに大学やその後の就職活動、就職した企業や組織の中で貢献することにもつながっていくと感じています。

その意味で、本校は学習と行事、部活動すべてに力をこれからも注いでいきたいと思いますし、他の高校も生徒が個性やエネルギーを発散できるこうした行事をぜひ大切に継承していってもらいたいと思います。

本校は高校3年間が輝く思い出となること、それが人生を後押しするような糧になってくれることが願いです。そのため、私たち教員も部活動や行事も真剣にサポートしますし、進路が決まらない生徒には卒業ぎりぎりまで小論文や面接指導に打ち込んでいます。

先生と生徒が対話を惜しまず、最後の最後まで進路を後押しする姿が洛西高校の伝統です。そのため、生徒も納得感を持って3年間を終えることができるのではないでしょうか。今後も普通科高校として夢を育み可能性を伸ばす高校でありたいですし、目的意識を持って物事に取り組む生徒を育てていきたいと思います。

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