全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第68回第68回
高校教育最前線ルポ(群馬県高崎市)
高崎健康福祉大学高崎高等学校
「『真の文武両道』を合言葉に、4コース制と
勉強に集中できる環境を整え、進学実績も向上」
勉強に集中できる環境を整え、進学実績も向上」
高崎健康福祉大学高崎高等学校
進路指導部長 小和瀬 潤 先生
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群馬県の中核都市・高崎市にある高崎健康福祉大学高崎高等学校。男女別学の伝統校が多い群馬県の中で、同校は独自性を打ち出し、2001年(平成13年)に現名称に変更し、女子校から男女共学校へ舵を切った。部活動強化を図る中で、野球部は近年、甲子園出場・全国ベスト8を果たし、他にも多数の運動部・文化部が全国的な実績を上げている。系列大学の高崎健康福祉大学(4学部7学科)とは高大連携事業も実施。開放感あふれる校風と充実した設備・4コース制で、県内屈指の人気校に。進路指導部の小和瀬先生に、同校の教育の特徴や課題などを伺った。
女子教育で培った礼儀正しさや挨拶の心も大切に
学習もスポーツも集中できる充実した環境を整備
本校は1968年(昭和43年)に誕生した群馬女子短期大学付属高等学校を前身として、2001年(平成13年)に現在の高崎健康福祉大学高崎高等学校に名称を変更、男女共学化を果たした学校です。
群馬女子短期大学は創立者である須藤いま子先生が戦前に設立した服装和洋裁女学院を前身として、1966年(昭和41年)に設立。さらに創立者の甥で研究者だった須藤賢一氏が理事長を引き継ぎ、短大を高崎健康福祉大学に昇格させ、それと同時に本校を新しい姿で誕生させました。
本校の歴史は15年ですが、校訓は「感謝・奉仕・友愛」であり、日訓には挨拶を大切にする心を盛り込むなど女子教育で培った長い伝統もまた受け継いでいます。実際、本校の生徒は礼儀正しく、挨拶や服装などもきちんとしていると自負しています。
何より現在は「真の文武両道」を目指し、100人を超える教職員が心を一つにして熱心に指導しています。部活動は非常に盛んで26の運動部・23の文化部があり、面倒見の良い先生が各部の顧問となり、親身な指導により、生徒同士も切磋琢磨の日々を過ごしています。
特に野球部は2014年夏と15年春と夏、甲子園に3季連続出場し、うち2回はベスト8に輝くなど実績豊富です。他にも剣道やソフトテニス、器械体操・バレーボール・サッカー・陸上競技・水泳・ゴルフ・カヌー・弓道・ダンス・チアリーダー・吹奏楽などの部活動が、県内はもとより関東大会・全国大会で活躍しています。
部活ごとにグラウンドやトレーニングルームなども整備。遠方から進学する生徒用に、男女別の寮や合宿所も完備され、勉強と部活動が両立できる環境が整っていることも大きな特徴です。2012年に完成した新校舎は耐震・防音性に優れた4階建て。ナイター設備がついた野球場や人工芝の新サッカー場も近年、整備されました。隣接する大学キャンパスも徒歩すぐの距離にあります。
部活動も勉強も思い切り打ち込める恵まれた環境、また森英恵さんデザインの制服も生徒に好評です。
また部活動指導者の熱意がスポーツを極めたい生徒からの志願にもつながり、本校は県内の高校で最も受験者が増えています。平成28年度入学予定者も、1学年500名以上に膨らんでいます。男女比は女子高の伝統や提携する大学の学部構成から4:6もしくは3:7で女子が多いのですが、誇れるのは約7割の中学生が単願で本校を志望してくれていること。
4学部7学科を擁する高崎健康福祉大学との連携で、大学進学やその後の就職までが見通せる点も魅力になっているといえるでしょう。
「KENDAI OASIS」の導入によって
時間の有効活用、生徒の自学自習を徹底サポート
教育の特色としては、まず全日制の普通科の中に特進コース・大進コース・進学コース・アスリートコースの4つがあることが挙げられます。入試の結果によって、1年次から各コースに分かれて学びます。
●特進コースは難関国公立・難関私立大学進学を目指す1学年2クラス
●大進コースは国公立・私立・高崎健康福祉大学進学を目指す同4クラス
●進学コースは中堅私立大学・高崎健康福祉大学進学を目指す同4クラス
●アスリートコースはトップアスリートの養成を目指す同3クラスの、計13クラスです。
アスリートコースは男子4つ・女子7つの強化指定部の生徒が所属。週に2日、2時間ずつ行われる選択実技では部活の練習につながるレベルの高い運動技術を習得できる良さがあります。
プロ野球選手や全国大会出場などトップアスリートを目指す生徒がいる一方で、運動に使われる筋肉の動きやスポーツ栄養学なども学べ、推薦入試を軸に大学進学を目指す生徒も多くいます。
近年のトピックは、2014年秋に「KENDAI OASIS」を開設したこと。これは最大夜8時まで利用できる自学自習センターで、毎日の学習を「学校内で完結させる」目的で生まれました。一人ひとり独立した個別ブースを用意。放課後に家や寮に帰って勉強となると集中できない生徒もいますが、ここで予習復習に取り組むことで、第一志望の現役合格を目指せます。学校の授業に連動した定着型演習や一人ひとりに合わせた学習プログラムを作成して学力アップをサポート。また大学生の質問チューターが常駐しているので、分からないところはその場で解決できます。
「本当に集中できる」と言ってくれる生徒もいて、今年からは教員も複数名常駐し、徹底サポートしていく予定です。
さらに本校では、系列校である高崎健康福祉大学との高大連携事業として、大学の教授陣が本校生徒のために分かりやすい講義・実験を実施。高校2年や3年次に医療情報学科・社会福祉学科・健康栄養学科・看護学科・理学療法学科・薬学科・子ども教育学科の中から、自分の関心ある分野を選択し、興味深い実習内容を経験することが可能。
大学の授業だけでなく最先端の病院や保育所などを見学する機会もあり、今後の進路やキャリアを見据え、興味や適性を確認できることもメリットです。
健大高崎生だけの特典である「特別選抜入試」も用意され、高校3年間勉強や部活動に励み、一定の基準を満たした際に優先的に入学でき、入学金が2分の1、4分の1免除されるという制度も利用できます。
現在、毎年70名前後が高崎健康福祉大学に進学していますが、枠を広げると他の地域や学校からの入学者が少なくなる面も。いろいろな地域から来た方が大学も活性化するため、内部進学は限られますが、その分、良い成績を取ろうと日々の勉強に意識高く取り組んでくれています。
全国大会で活躍する同級生の姿を励みに、
得意分野を磨き進学意欲が増す相乗効果も
本校は真の文武両道を目指し、進学実績をアップさせることが大きな目標です。特に親御さんからは大学進学への期待は強く感じます。そこで、全国の有力国立大学や私立大学への進路をサポート。国公立大学に現役50名合格というのが、本校の当面の目標です。
進学先は群馬大学や群馬県立女子大学、群馬県立県民健康科学大学、高崎経済大学など地元が多いですが、近年は他県の有力校合格者も出始めました。今年、東北大学文学部にAO入試で合格した生徒は幕末の思想を研究し、その内容の深さと研究意欲が高く評価されました。
他にも私立大学では早稲田大学や慶應義塾大学、上智大学などの難関校をはじめ、今年は法政大学などにも入学者が増えており、進学実績は上がっています。群馬という北関東にある土地柄か、生徒は首都圏の大学を目指す傾向にありますね。
現在の進学先は7割が大学、2から3割が短大・専門学校という割合。就職が例年10~20人います。例えばアスリートコースで野球に打ち込んだ生徒が都市対抗野球で実績ある企業に入ることもありますし、女子生徒の中には地域の一般企業に事務職として就職する生徒もいます。進路指導としては一人ひとりが何をやりたいかを一緒に考え、適切な進路に導くことに力を注いでいます。
甲子園や全国大会などで同級生が大活躍するとそれに刺激され、自分は勉強で頑張ろうという気持ちになって相乗効果が生まれる面もあります。また進学実績を高めるために、基礎学力の定着と表現力を強化したいと考えます。読み書きといった基礎を徹底し、高校1年である程度生徒のレベルを底上げし、2・3年で応用につなげることが大切だと感じますね。
また、表現力の足りなさを痛感することも多いです。私は国語科の教員でもあるのですが、小論文などでも自分の考えを人に伝えることが苦手、あるいは志望理由書などもうまく書けないという生徒もいます。その辺の語彙力、人前で説明するプレゼンテーション力などを授業の創意工夫によって豊かにしていきたいと考えています。それがひいては難関国公立大学や難関私立大学の合格者増にもつながっていくでしょう。
ちなみに2015年(平成27年度)から現在の加藤陽彦校長に変わり、副校長に公立高校で校長をされた実績ある先生を招聘し、教員の意識向上も図っています。これまで教員は部活の顧問等で忙しく話し合う機会は少なかったのですが、今年からは定期的に会議を設けるなど教職員同士で話し合う場を増やしています。教育方針を常に確認しながら生徒への学習指導・進路指導に力を入れていきたいと考えています。
本校は「ここで学びたい」と心から思って進学してくる生徒が多くいて、勉強や部活動・行事に一生懸命打ち込んでいる姿は誇りです。知力と体力に加えて、表現力を高め、一人ひとりが自分の夢に突き進んでいくことが私たち教員の願い。「真の文武両道」を実現し、社会にイキイキと羽ばたく学校にしていきたいと思います。