高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第71回

第71回
高校教育最前線ルポ(群馬県伊勢崎市)
群馬県立伊勢崎清明高等学校
「女子高から普通科単位制男女共学校へ改革した伝統校
キャリア教育を重視し、『自主・自律』の精神を養う」

インタビュー
群馬県立伊勢崎清明高等学校
進路指導主事 
舘石 浩信 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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群馬県南部に位置する人口約20万人の都市・伊勢崎市にあり、前身の女子校時代から101年の伝統を誇るのが群馬県立伊勢崎清明高校だ。2005年に女子校から男女共学の単位制普通科高校に改革され、地域に定着。「自律」「叡智」「共生」を校訓として強い意志や主体性、協調性を養うと同時に、文武両道を目指し、陸上部やバドミントン部、野球部などの部活動や行事も活発だ。2016年8月に開催されたリオオリンピック陸上3000m障害に、卒業生の塩尻和也君が出場した。単位制のため1年次から一人ひとりの志望や適性に合わせたキャリア教育を実施し、国公立や私立大学、短大・専門学校への進学、就職にも幅広く対応している。多様な進路に応え科目選択のアドバイスも行う進路指導主事の舘石先生に、同校の特徴や課題について伺った。

女子校の長い歴史を受け継ぎ、
男女共学単位制高校に生まれ変わる
運動部・文化部の部活動も活発で、文武両道を目指す

▲舘石 浩信 先生

本校は1915年(大正4年)に「町立伊勢崎実科高等女学校」として創設され、1948年(昭和23年)に「群馬県立伊勢崎女子高等学校」に校名を変更。長く地域の女子中等教育を担ってきましたが、2005年(平成17年)に県の学校改編計画によって男女共学・全日制普通科単位制の「県立伊勢崎清明高等学校」へと生まれ変わり、現在に至ります。

昨年は女学校時代から創立100周年を迎え、約2万3千名超の卒業生を輩出する伝統を築いてきました。群馬県の公立校は男女別学の伝統がありますが、伊勢崎市は高校改編で男女共学化が一気に進んだ地域です。本校は部活動の活発さから志望する生徒もおり、県立伊勢崎高校(同時期に男子校と女子校が合併)と並んで人気の進学校となっています。

現在は1学年6クラス編成で、全715名の生徒が在籍。うち228名が男子、487名が女子で、例年女子が約3分の2を占めています。「自律」「叡智」「共生」の校訓のもと、自分を正せる強い意志、国際社会を主体的に生きる知恵、尊重し合える人間性の育成を目指すとともに、文武両道の推進に力を入れています。

部活動も活発で、全国大会出場のバトミントン部・弓道部・陸上競技部など15の運動部があります。硬式野球部は平成26年度に全国高校野球選手権大会群馬大会で準優勝し、あと一歩で甲子園出場というところまで迫り、顧問の先生の求心力もあって部員数も70名以上います。またNHK杯全国放送コンテストに毎年出場している放送部、演劇部、書道部、吹奏楽部など13の文化部があります。

学校行事としては文化祭、体育祭、小文化祭(文化部の発表がメイン)が毎年ローテーションで開かれるほか、球技大会、2年次の修学旅行なども実施。行事は生徒が主体的に取り組めるようサポートしています。

ガイダンスセンターを設けて、
将来を見据えた科目選択や情報をアドバイス

単位制高校としては、生徒一人ひとりの進路実現のため、県内でも最大級の選択科目を設定。個々の進路希望に最短距離で対応しています。

1年次に英語・国語・数学の基礎教科を中心に必修の教科・科目を学ぶほか、書道・美術・音楽から1つを選択します。2年次になると自分の進路目標に合わせ、多くの選択科目の中から進路実現に必要な科目を選択し、学習します。

単位制は1年次の後期にはある程度、文系、理系を決めなければなりません。例えば文系なら2年次には世界史Bか日本史Bを、国公立を視野に入れていれば同時に数学Bを選択。理系なら数学Bや地理Bを必ず履修するほか、物理や生物のいずれかを選択し、3年次で化学を選択するなど、計画的な履修が望まれます。自分の進路が決まっていない場合は、科目選択に迷う生徒もいるため、私たち進路指導の職員が相談を受け、助言を行うなどしています。

本校ではガイダンスセンターを設置し、1年次から進路カウンセリングやキャリアガイダンスを行い、一人ひとりの志望や適性に合わせて適切なアドバイスに努めています。将来を見据え、どのような生き方をするかという視点から目標とする大学を決めていく指導を展開。また志望する大学の入試制度からどの科目を選択すると受験時に困らないかなど、親身な指導を徹底しています。

高校1年で志望が明確な生徒は一握りであり、入学初期段階では教育業者が行う適性検査を利用し、自分にはどんな職業や進路が向いているかの気付きを得てもらったりします。

また、群馬県は近年、普通科もインターンシップの推進に力を入れています。本校では、県の導入に先駆けて試行を始め、今年で4年目の実施になります。

女子生徒が多い本校では、とくに保育系と看護・医療系を志望する生徒が多くいます。そのため、保育と看護・医療(一部介護も)に限って、8月上旬に3日以上の短期インターンシップを行っています。例年希望者のみですが、部活動などで予定が重ならない生徒約20名が参加。保育所や病院での職場体験によっては自分の仕事の適性を判断したり、将来像を構築したりします。この体験は、推薦入試の面接時の体験談にも役立つと思います。

日常のキャリア教育としては「総合的な学習の時間」を利用して職業観や進学意識を涵養しているほか、1年の1月には社会人講師の特別授業として、地域で活躍中の看護師や教員、公務員、企業人などを招いて、1年次の全生徒が聴講しています。

2年の6月には大学や専門学校の教授・教員を招き、全10分野にわたる模擬授業を行って、生徒の進学意欲や興味関心を喚起しています。

8月には、みなかみ町のスキー場のホテルを利用して学習合宿を行い、3泊4日で1日約11時間の自学自習に取り組んでいます。各教科担当の先生も参加し、質問に答えるなどして弱点補強や受験対策としています。1年次の9月の大学見学も午前と午後で2大学を見に行けるよう予定を組むなど、広く関心ある大学を見て進路の参考にし、刺激を受けることを奨励しています。

PTA総会では私自身が講師も担当し、保護者に対して進路講演会を開くほか、8月と1月にはファイナンシャルプランナーを招聘して進学に対応するマネープランや奨学金の仕組みについて話をしてもらい、理解を深めてもらっています。

気持ちの優しい生徒が多い中、
高い目標に向かう意志、主体的行動力を育てたい

本校の進路状況は、約5割が大学進学、4割強が短大・専門学校への進学、1割弱が就職と進学準備という割合です。国公立大では群馬大や茨城大、新潟大、群馬県立女子大、高崎経済大など、地元や周辺の大学に毎年合計約20名が進学。私立では群馬や栃木以外にも、埼玉・千葉・東京など首都圏の中堅大学に多く進学します。短大や専門学校は、医療・看護系、その他会計分野、美容系・調理系などに進学しています。

大学入試は一般入試と推薦・AO入試の利用割合は半々というところでしょう。就職希望者も含め、面接や小論文対策には力を入れています。

三者面談などで進路相談を受けることも多いのですが、一番の悩みは自らの可能性を追求できず、学びの選択を狭めてしまう傾向があることです。例えば知的好奇心が強い生徒に、私たちは良い研究環境や幅広い選択肢がある大学を薦めます。しかし保護者も生徒も経済的負担が少なく、家から通える大学を優先して選択する傾向にあります。

本校には比較的のんびりとして優しい生徒が多く、保護者の意に反してまで自分の意志を貫き通すことが少ない面があります。例えば何を重点的に学びたいか、それによっては大学・学部の中身、教授陣やゼミの内容まで深く研究するのが理想ですが、高きを求めるよりも達成可能な進路選択を優先し、保護者もそれを是と考えがちです。私たちは大学によって同じ学部でも中身が違うことや、奨学金を利用することのメリットも語って説得することもありますが、保護者は一人暮らしをさせると大変、とりあえず身近に置きたい気持ちが勝るようです。

少子化の影響からか、子どもを手元に置いておきたい保護者の心理、地方経済の停滞などの理由も大きいと感じますが、本校の立地条件もまた影響していると思います。伊勢崎市は首都圏の大学に2時間もかければ、大変ながらも通うことができます。ただ、大学で部活動を行うには疲労が重なり両立が難しくなった卒業生もいます。

もっと都心に離れた地域であれば、逆に思い切って首都圏に送り出し一人暮らしによって学生生活を充実させられるのではと思うことも。大きく羽ばたける可能性があるのに、そうした事情で芽を摘んでしまうのは残念であり、進路指導する上でもジレンマになっています。

本校の生徒は部活動など好きなことは一生懸命取り組みます。学習面においても同じように取り組むことができるように、受験勉強のサポートをしています。

また文化祭や体育祭など行事への取り組みも、男子より女子の方が他を巻き込んでリーダーシップを発揮する傾向が強いです。群馬県は“カカア天下”の土地柄で、その辺の地域性も多少は影響しているのかもしれません(笑)。部活動で培う精神力や他に負けたくない気持ちを、学習面や行事でも発揮してくれたら嬉しいのですが…。

今後は国公立大学の合格者を20名から30名に、さらに首都圏の有力大学への進学者を増やしたいですね。そうすれば将来をしっかり見据え、高い目標に向かって継続できる強い意志を持った生徒、学習活動も部活動も積極的に取り組み、将来社会のリーダーとなりうる資質の生徒が集まり切磋琢磨してくれるでしょうし、単位制高校の意義も高まるでしょう。

今後も地域社会の期待に応えるとともに、生徒が主体的・自律的に進路を見定めて自分の道を開拓するなど、社会の広い分野で活躍することを願って指導していきたいと思います。

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