高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第70回

第70回
中高一貫校のキャリア教育実践レポート Part.2
捜真女学校中学部・高等学部
「キリスト教教育を根幹に130年の歴史を紡ぐ女学校
個々を重んじ多様な体験で共感力豊かな女性を育成」

インタビュー
学校法人捜真学院
捜真女学校中学部・高等学部(神奈川県横浜市)
進路指導委員長 
嶺 かおり 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
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神奈川県横浜駅からバスで15分程、小高い丘の閑静な住宅地にある捜真学院。中学部と高等学部からなる捜真女学校は、創立130年という長い歴史を持つ。「礼拝」を基本に聖書に基づく「愛の心の教育」を一貫して受け継ぎながら、異文化体験、行事、平和学習、総合的学習の時間、ボランティア活動などを推進。「最善の自己」を磨くよう教職員やPTAを含め捜真ファミリー全体でバックアップしている。卒業生は多様な道に進むが、しばしば立ち返る故郷のような場所となっている。そんな同校で進路指導委員長を務める嶺先生に、教育の特徴や課題を伺った。

キリスト教の教えと先人からの伝統を受け継ぎ
6年間の多彩な行事を通して自分の土台作りを行う

▲嶺 かおり 先生

捜真女学校の歴史は、1886年(明治19年)、横浜の外国人居留地山手67番にあった聖書印刷所の2階で、プロテスタントのバプテスト派アメリカ人宣教師が少女の教育にあたったことに始まります。

生徒が増え、校舎が手狭になったことから、1910年に現在の神奈川区中丸に移転。麦畑の広がる丘で現在の中学部・高等学部に相当する課程が設置されました。第二次世界大戦の横浜大空襲で校舎が全焼してしまいましたが、学校再建まで毎日礼拝を守り、全員で焼け跡の整理に当たり、立ち直っていきました。

創設から今年で130周年、現在地へ移転してから106年を数えます。同じ敷地内にある捜真小学校(男女共学)は、まもなく創立60周年を迎えます。時代が変わっても、「キリスト教に基づき、真理の探究をなしつつ、人間形成の教育をする」という建学の精神、「自己の能力を最善に伸ばし、自分を愛するように隣人を愛し、感謝をもって奉仕できる人格を育成する」という教育方針は変わりません。

現在、捜真女学校は中学部と高等学部の中高一貫の普通科のみ、1学年約180名の4クラス編成になっています。

毎日の礼拝や自然教室は「真を捜す」時間
学校行事・クラブ活動も活発で、深い絆が芽生える

130年間、本校の教育の中心には常に「礼拝」がありました。現在も毎日、2時間目と3時間目の間、10時10分からの20分がその時間。6年間約1,000回にわたり「真理とは、自分とは、他者とは、人生とは何か」と内面に問いかける中で、自らの人格を形成しています。

キリスト教入信を強制することは全くありませんが、つい讃美歌を口ずさむなど、生徒はキリスト教に親しみを覚えています。

毎年のキリスト教行事のひとつに「自然教室」があります。これは、御殿場にある本校の宿泊施設で行う、宿泊修養会のこと。学年ごとに5月、7月、11月と分けて行いますが、生徒や卒業生は「あそこは特別」と言います。学校という日常から離れ、講演に耳を傾け、友と語らい、自分を見つめる豊かな時間です。生と死といったテーマや心の奥底を語る機会も多く、先生や友人との忘れえぬ思い出や絆が生まれます。

また、秋に行われる全校修養会では、学年ごとに学外講師をお招きし、年齢に合わせたお話を伺います。「たった一度出会った先生の言葉が今の自分を支えている」という生徒もたくさんいます。

毎日の礼拝やこれらキリスト教行事を通し、自己肯定感、他者への思いやりが次第に育ちます。先生の話を聞くだけでなく、年に2回クラスの皆の前で話す当番があり良きプレゼンテーションの場ともなっています。自己開示・相互理解が進み、個人・集団の成長につながっています。

このほか、ボランティア活動が活発なのも大きな特徴です。例えば、30年以上前から国際精神里親運動に参加し、献金でフィリピンの里子を各クラス1人ずつ支援。現在、中高24クラスと教職員・PTAが42人の子供たちの学びを支えています。

他にも感謝祭礼拝では、チャペルの檀上がお米や野菜や果物でいっぱいに。これは横浜市寿町の炊き出しに使われます。中学2年生は総合的な学習の時間に寿町へ行き、たくさんの野菜を皮むきしたり刻んだり、または配食や食器洗いをお手伝い。ホームレスの方にもいろいろな事情があることを知り、他者への共感力、社会への問題意識も育っていると感じます。

現在、修学旅行は、中学3年生が東北に、高校2年生が広島と奈良・京都に行っています。東日本大震災のあと、生徒が有志を募り、教員と共に夏休みに現地を訪れてボランティア活動を実践。そこで見て感じたことを礼拝の時間に語るなど、体験を他の生徒に還元する習慣が根付いています。

さらに本校にはカンボジア研修があります。これは前述の自然教室で講演を聞いた生徒の、現地へ行きたいという思いから始まり、活動を継続しています。14年前には全校が力を合わせて、現地の小学校建設を支援しました。現在も献金や献品を通して支援を続け、毎年3月には高校生有志が訪れて交流しています。

他に共練会(生徒会)の活動として合唱コンクールや捜真祭(文化祭)、体育祭にも思い切り打ち込んでいますし、日常のクラブ活動も活発です。放送部(全国最優秀賞受賞歴あり)、水泳部、ダンス部は全国大会、バトン部は関東大会に出場しています。

中高一貫で学習指導・進路指導に熱心に取り組む
GMARCHの合格者が増加、活躍の分野は多彩

クラス編成はコース制を採らず、多様な進路希望の生徒が机を並べて、さまざまな価値観に触れています。高校2年生からは少人数制の選択科目の授業が始まり、同じ志を持った生徒はそこで切磋琢磨しています。

英語の必修授業は全学年1クラス2分割の少人数授業。教員は留学経験者、英検1級、TOEIC満点など実力派が揃っています。英語と数学は、中3以上が習熟度別編成です。

座学だけでなく、高2までに全員が4泳法をマスターする水泳や、6年間必修の音楽など実技もバランス良く設定。例えば本校の教員には世界的舞踏家の故・大野一雄先生がいて体育を担当したほか、クリスマス礼拝の劇の振り付けも指導していました。日本画家の故・小倉遊亀先生も旧教師の一人であり、音楽や美術などに力を発揮する感性豊かな生徒が多くいます。

他にも総合的な学習の時間では各学年で調べ学習、フィールドワーク、インタビュー、プレゼンなどに力を入れています。

高2では半年間「進路」をテーマに、自己理解のワーク、志望理由書の作成、希望者のインターンシップも実施。インターンシップは保護者や卒業生、地元ロータリークラブのご協力により、食品工場・ホテル・弁護士事務所・テレビ局・銀行・結婚式場・助産院など、毎年20カ所以上で行っています。

中1・2は学習習慣定着のため、小テストやレポートは合格するまで再試験・再提出の繰り返しです。また、経験豊富な学習アドバイザーが週2~3回、放課後の図書館で全学年の質問に対応。その他、補習・講習は1対1から講義形式まできめ細かく対応し、すべて無料です。勉強合宿は高2・高3有志参加で、夏休みに御殿場の施設で行われます。

本校は留学も盛んです。アメリカ短期研修、オーストラリア短期研修、オーストラリア学期研修(3か月間)、年間留学などの制度があり、これらのプログラムに年間平均約100人が参加。留学先も欧米からアジア、南米まで実に多彩です。

海外からの留学生受け入れも積極的に行っています。異文化体験を通じて「第二の家族や友だちがいる国と戦争したくない」という思いを積み重ねることは、平和の構築につながると考えています。留学担当の教員は8人おり、きめ細かなサポートを行っています。

進路指導は各学年の4人の担任と学年補佐3人の計7人が主導し、私たち進路指導委員がそれをサポートする形で行っています。2015年度卒業生のデータでみると、進路先は文系6割、理系(栄養・家政を含む)3割、芸術・体育・専門学校・留学ほかが1割。国公立大学合格者は11名、早慶上智ICU(国際基督教大学)東京理科大学21名、GMARCH77名など、でした。近年はGMARCHの合格者が飛躍的に伸びているほか、女子大(東京女子・日本女子・聖心女子・昭和女子・津田塾)にも例年40数名が合格しています。

本校には優しい生徒が多いですが、今は「優しくたくましい人」、常に希望をもって生きる心の強さを持った人を育てたいと考えています。近年は医師を志望する生徒が出てくるなど、職業的にもサポートするだけでなくリーダーシップを発揮したい意欲を感じています。

また本校の特徴として毎日のように卒業生が訪ねてくる点が挙げられます。教員の約3分の1が卒業生ですし、「姉も母も祖母も捜真出身」というご家庭も珍しくなく、世代を超えて続く伝統と歴史が誇りです。

課題としてはICTを含めた情報の管理活用、学年を超えた進路指導の軸づくりが挙げられます。生徒には、スマートフォンとの付き合い方・勉強と部活その他の活動の両立も含め、生活や学習習慣・自己管理力の確立、知的好奇心の涵養をこれからも促していきたいところです。

今秋には新校舎も完成予定で、カフェテリア、少人数授業用教室、自習室が完備されます。これらを活用してさらに課題と向き合いつつ、良き学校づくりに向かいたいですね。

本校の最も大切にしている言葉に「神を信頼せよ、最善の自己に忠実であれ Trust in God. Be true to your best self」があります。生徒一人ひとりが「最善の自己」をさがし、磨いていく中で社会に貢献する人になっていくことが我々教員の願い。小さな学校ながら愛の心と豊かな知性を持った生徒が、多分野へ羽ばたいてほしいと思います。

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