全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第79回第79回
高校教育最前線ルポ(千葉県香取郡ほか)
わせがく高等学校
「失敗してもやり直せる」通学もできる通信制高校
「自由」「個性」「夢育」をモットーに進学も強力支援
「自由」「個性」「夢育」をモットーに進学も強力支援
学校法人 早稲田学園 わせがく高等学校
西船橋キャンパスセンター長 進路担当 教諭
服部 喜子 先生
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大学受験の名門「早稲田予備校」を運営する学校法人早稲田学園が、平成15年に開校した「わせがく高等学校」。通学型の単位制・通信制のメリットを生かし、「失敗してもやり直せる学校」に挑戦し続けている。拠点も増え続け、関東圏に全12のキャンパス・学習センターを抱え、卒業率は全校で98.2%(平成28年調査)を示す。しかも大学受験ノウハウをもつ法人の強みを生かし、大学進学実績も上昇中。
西船橋キャンパスセンター長で進路担当の服部喜子先生に、同校の教育の特徴や仕組み、生徒が変化する様子、今後のビジョンについてお話を伺った。
全日型・通学型・自学型の3つから学習スタイルを選択
基礎学力と社会人の基本が身につくよう支援を続ける
わせがく高等学校は2004年(平成15年)に開校した、通信制でありながら通学を可能とする普通科単位制の共学校です。創立65年の伝統をもつ大学受験の名門「早稲田予備校」と同一の学校法人早稲田学園が運営しています。
「自由」「個性」「夢育」の3つを教育方針として、生徒一人ひとりの夢や人権・個性が互いに尊重され、いつも楽しい雰囲気にある学校、それでいて生徒が将来にわたって自立した生活ができるよう、マナー・ルール・モラルを身につけられる学校を目指しています。
もともと不登校などを理由に、学習意欲はあるが立ち直れないでいる若者のことなどが社会問題になっています。その受け皿になる高校が必要ではないか。その問題意識から通学型の単位制・通信制高校ならば多くの生徒にチャンスを与えられるのではないかと考え、「失敗してもやり直せる学校」として本校が創設されました。
そのニーズは各地で高まり、この15年で、千葉県、埼玉県、東京都、茨城県、群馬県の1都5県に12の学習センター・キャンパスを持つまでに広がり、卒業生はすでに5,000人を超えています。
本校は「選べる学習スタイル」が特徴です。それが次の3つです。
①全日型(週5日制)/月曜日から金曜日の5日間(午前が基本)通学して高校生活を満喫しながら、確実な学力向上を目指します。
②通学型(週2日制)/月曜と木曜の午後を基本に週2日通学して学習。高校生活と自由な時間を両立させるスタイルです。
③自学型(通信制)/自学での学習スタイル。年間およそ12日間の登校で高校を卒業します。
私たちの西船橋キャンパスでは約5割が①を、3割が②を、2割が③を選択しています。男女は全体で半々の割合です。
3学年で卒業に必要な74単位を修得するシステムのため、学年制と違って留年が無いのが特徴です。それにプラスし、本校では一度修得した単位が無効にならないという特徴を生かし、年次を超えて科目選択することができます。
単位認定のために、規定回数のレポート作成と、博物館見学や調理実習など課外活動も組み込んだスクーリングに出席します。そして、テストで合格点を獲得すれば単位が認定される、という流れです。
①の全日型は高校の学習をスムーズにするため、中学時代の基礎・基本をしっかりおさらいするので、ブランクある人や勉強が苦手だった人も安心して学べます。一クラス25人以下の少人数制のもと、月曜と木曜は午前で終わる時間割であることにより、生徒が授業に集中しやすい仕組み。先生も一人ひとりに合わせた授業を工夫し、学力の定着を図っています。
校内には教育相談室を設置し、専門家常駐体制をとるなどの努力を継続的に行っています。①に所属する生徒がもし欠席が続いてもリカバリーは可能です。②と③は中学時代に不登校が長く続いた生徒さんもいますが、次第に学校になじんでくれば①へのコース変更も可能です。
また本校には制服があり、登校の際は着用を義務づけています。高校を卒業すればいいのではなく、社会人になることを見据えた教育がモットーですので、そうした約束事が守れるかどうかも重要な教育目標としています。
全日型は早稲田予備校授業料無料の優待制度を利用した、
大学進学にチャレンジする環境
わせがくは高等学校の卒業だけが目的ではありません。その3年間に「その後」のこともしっかり考えておけるよう、大学・短大・専門学校への進学、あるいは就職のいずれもサポートしています。社会への自立を教育目標として進路指導を重視している点も大きな特徴です。
特に全日型在籍者に対して、早稲田学園のもう一つの顔である早稲田予備校の優待受講の特典があることは大きな特徴です。入学金や通常期授業料を免除し、教材費や諸経費のみで受講が可能になっています。
例えば西船橋キャンパスなら同じ校舎で早稲田予備校の講義が行われているので、生徒はそのまま放課後に講義を受けられます。例えば1週間に3つの受験講座を受講した場合、年間の受講費用は35万円前後になりますが、わせがく生が必要な費用は教材費の3万円弱。他の塾や予備校に払うことを考えると、大きな節約となります。早稲田予備校の授業は録画しているので、前回の授業を見逃していれば視聴コーナーで振り返り学習もできます。
わせがく西船橋キャンパスでは基礎学力の定着は大きなテーマになりますが、学力が高い生徒には応用力を高められるようクラス分けも行っていますし、目的別・テーマ別の補習授業もあります。理系の生徒がいれば数ⅡBや数Ⅲなども受けられますし、放課後を使ってマンツーマン指導なども行っています。
優待受講の他、夏は大学や専門学校などオープンキャンパスに行くこと、そのほか職場見学や校内あるいは外部のキャリアガイダンスへの参加も推奨しています。総合的な学習の時間や特別活動を通じて進路実現のための力を育成。またAO入試や推薦入試対策だけでなく、自己解決に役立つ思考力養成として小論文や面接指導にも力を注いでいます。
もちろん、一般入試対策にも力を入れています。こうした取り組みの結果、平成28年度全日型卒業生の大学・短大・専門学校への進学、就職を含め進路決定率は92.1%に向上。西船橋キャンパスに限れば100%に近い数字を上げるなど、進路指導が大きな成果を上げています。
全日型の生徒の過去3カ年の卒業生進路の内訳は、大学・短大が38.4%、専門学校31.5%、就職15.6%、その他14.5%という比率。また、早稲田大学や慶應義塾大学をはじめ、MARCHクラスの大学に合格者を出しており、中堅校には1大学で10人以上の合格者を数えています。これは12校舎分の統計ですが、わせがくは“通学型・通信制高校の進学校”と呼んでもいいのではないでしょうか。
生徒に笑顔が増え、社会に踏み出す姿がやりがい
生徒の心の傷を癒すには環境を変えることも大切
一つの教室の中には中学時代に不登校経験が長かった生徒もいれば、何らかの理由で高校を退学となった生徒もいて多様です。ただ少し活発な生徒一人が心機一転、本校でやり直す気構えを見せて根気強く受験などに立ち向かう姿を見せると、その影響を受けて全体が良い方向に引っ張られることもあります。
西船橋キャンパスでは、退学する生徒はほぼ皆無になっています。前の高校を退学、あるいは中学で不登校だった生徒が本校に来て興味のある分野を見つけ、大学進学後に警察官や消防士の公務員試験に合格をした人もいますし、学校行事の調理実習で料理の道に興味を覚えて、料理の専門学校で調理師資格を取得し、ホテルのレストランで働いている人もいます。あるいは大学進学後の就職活動で大手企業複数社から内定をもらい、どこに入社するか迷っていると嬉しい報告をしてくれる人もいます。
さらに本校は通信制ながら、クラブ活動も活発です。
体育会系では野球部やサッカー部、ソフトテニス部、バスケットボール部など、文科系ではクッキング部や軽音楽部などがあります。西船橋キャンパスでは、男子卓球部が3年連続で全国大会出場を果たすという成果を見せました。
今後も生徒が社会に羽ばたけることを目標に、学力だけでなく社会力や人間力も養い、各地域に根付いた高校にしたいと思います。
大学・短大・専門学校進学にせよ、就職にせよ、本校に入学したことによって改めて自分を見つめ直し、自分らしい道に踏み出せるよう後押ししています。生徒の中には体力が続かないことや人見知りによって集団生活に慣れにくい子もいます。そうした生徒に親身に対応することは苦労もありますが、本校へ来たことで変わり、社会へ一歩踏み出す姿は教員としても大きなやりがいとなっています。
どの高校の先生方も一生懸命に教育しているとは思いますが、いじめなどで心に傷を負ってしまった生徒がその場所で学校生活を続けるのは難しいこともあるでしょう。その時に退学を思い留まらせることも必要ですが、思い切って環境を変えることも一つの手。転校することも、再チャレンジのきっかけになると思います。
さらにみんな一斉に高校卒業を目指すことが最終目標ではなく、本当の目標はその後の人生に役立つよう大学や就職がしっかりと決まることではないでしょうか。生徒が再起を図りやすい居場所を作り、長い目で成長を見ること、気持ちを切り替えるようにすることが肝要だと思います。
他校の先生方とも協力し合いながら、生徒が未来に向かってはばたく姿を支援していけたらと思いますので、ぜひお声かけいただけたら幸いです。