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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第3回

第3回
「社会の役に立つ仕事がしたい」
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんの話を聞いた。若者たち十数人のミニ講演会で、会場は都内の社会教育施設。

駒崎さんは1979年生まれ。若い。フローレンス(東京都中央区)は病児保育を行う団体だ。子どもは頻繁に発熱するものだが、そういう子どもを預かってくれる保育施設は2パーセントほどだという。保護者が面倒を見るとなると仕事を休まなければならないが、企業の理解を得るのは難しい。そこでフローレンスの「レスキュー隊」の登場となる。

当日配布のプリントによれば、フローレンスのビジョンは「子育てと仕事そして自己実現のすべてに誰もが挑戦できるしなやかで躍動的な社会」。アクションは、以下の3つ。「地域の力で解決しよう! 病児保育事業」「働き方を変えちゃおう! ワーク・ライフ・バランス コンサルティング事業」「社会のノリを変えちゃおう! ソーシャル・プロモーション事業」。

駒崎さんの「キャラですから」とか「こっ恥ずかしい」とかいう語り口に、こちらの年齢を感じさせられたが、話は最初から最後まで実にまともな内容だった。

わたしは2点に注目した。1つは、慶應義塾大学に在学中、友人たちとITベンチャーの会社を起こして社長を引き受けたが、あるとき、その仕事に疑問をもつようになり、自分は何をやりたいのかと考え込み、「社会の役に立つ仕事がしたい」と気づいたというエピソードだ。具体的な内容の話に説得力があった。もう1つは、「コミュニティづくり」ということばを何度も聞いたことだ。たんに働く親のニーズに応えるサービスではなく、助け合いの地域社会を創造することを目標にしているという。

閉会後、わたしはずうずうしく映像資料の送付を依頼した。学生にぜひ紹介したいと思ったからだ。数日後、広報担当の人から郵送されてきた映像資料を、さっそく新年度の講義で紹介した。女子大学で好評だったのは他人事とは思えなかったからだろう。また「こんなふうな仕事のやり方があるとは考えてもみなかった」という感想もあった。教師は世間は狭いといわれるが、今どきの学生はもっと世間が狭いのかもしれない。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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