大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー
第4回第4回
「社会の役に立つ仕事がしたい」
(後編)
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このところ「社会の役に立つ仕事」に就く若者の話に注目している。
オープン間近の3月末に訪ねた、港北区子育て支援拠点施設(神奈川県横浜市、愛称「どろっぷ」)では、大学在学中1年間のインターンシップを経てスタッフになったという女性と出会った。
どろっぷは今年の4月、NPO法人びーのびーの(2000年設立)が横浜市から運営を受託してオープンした施設で、常勤と非常勤のスタッフがそれぞれ3人配置されている。びーのびーのは、地元の女性たちが菊名西口商店街の空き店舗に「おやこの広場」を開設して、全国的に注目される活動を続けてきたところだ。それが、活動の場を拡げて常勤スタッフを置くようになり、その一人に大学を卒業したばかりの女性を迎え入れたというわけだ。
そういえば、先に紹介したフローレンスでも、今年度2人のスタッフを採用した。わたしのところへ資料を郵送してくれた女性スタッフは都市銀行の内定を辞退して就職したという。大手企業に就職してもこれまでのように安定した暮らしが保障されるとは限らない。社会的に意味のある仕事でキャリアを積んでいく方が将来性のある堅実な生き方なのかもしれない。
わたしも卒業生の集まりに誘われて話を聞くことがあるけれども、彼らの労働条件はうんと厳しいようだ。それに耐え切れずに派遣社員に代わったり、退職してしまったりする者もいる。事情を聞くと、紋切り型のお説教が通用するような状況ではない。
最後にもう1つの話。この5月、横須賀市上町商店街に開店した、はるかぜ書店の店長は、ひきこもり体験13年という1965年生まれの男性だ。年齢からみて若者とはいえないけれども、いい話だなあと思う。この店は、NPO法人アンガージュマンよこすかという、不登校やひきこもりを支援する団体が、元電気店の店舗を改装してオープンした。地元の商店街組合も応援している。
今どきの書店経営はなかなか難しいだろうが、福祉関係書専門店というキャッチフレーズと、「1冊からお届けします」というのがウリだ。自転車で配達するという。
久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。