大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー
第7回第7回
地域の茶の間という活動
(前編)
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3年前の夏のことだった。青森県総合社会教育センター「地域活動推進セミナー」の講師を依頼されて青森市へ出かけた。
この旅には楽しみにしていることが2つあった。
1つは、青森駅前の新町商店街を訪れることだ。ここは福祉対応型商店街を標榜して、まず道路の段差解消などのハードウエアを整備し、続いて接客マニュアルなどのソフトウエアを整えてきた。地域文化としての商店街という関心からみて特別なところだと思った。
もう1つ楽しみにしていたのは、清水義晴さんとお会いすることだった。新潟市に住む清水さんは、えにし屋という屋号で全国各地のまちおこしに協力している。北海道浦河町の浦河べてるの家を早くから応援することでも知られている。わたしは講師役を担当した翌日、清水さんの午前午後のプログラムのうち午前中の講演を聞かせてもらった。
前置きのような話が長くなったけれども、そのとき講師控室で清水さんに教えてもらったのが、河田珪子さんの「地域の茶の間」という活動だ。清水さんが推奨する活動だから聞き流すわけにはいかないと思った。
その後知ったことだが、地域の茶の間とは、ひと月に1回か2回、近所の住民施設を利用して人々が集うところを用意するという地域活動だ。1997年に始まり、現在では新潟県内を中心にその数、800とも1,000ともいわれる。これを始めた河田さんの足跡は『その手は命づな ひとりでやらない介護、ひとりでもいい老後』(横川和夫、太郎次郎社、2004年)に詳しいが、清水さんが教えてくれた地域の茶の間については、映像記録として『広がる 地域の茶の間 人と人とのつながりを求めて』(企画・制作 社団法人長寿社会文化協会、2003年)、『ひとりぼっちにサヨナラ』(新潟総合テレビ、2004年)がある。
そして、これがまあ実に奥の深い活動だったのである。
久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。